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【特集:「在宅ケア」を考える】
ビジネスとしての訪問看護事業とは

2019/12/05

量から質の時代へ

訪問看護は、公的保険サービスであり、価格が一定である。通常のビジネスでは、「質は低いが低価格、質は高いが高価格」と、価格戦略を取れるが、公定価格のため、同じ価格であるにもかかわらず質にバラツキが出やすい。

昨今の訪問看護利用者が求めることは、「24時間、何かあった時に対応してくれる」「症状が重くなっても対応してくれる」といったことだ。弊社は訪問看護事業の職員が50名で規模が大きく、多様な利用者様のニーズに対応できるため、お断りしなければいけないほどになってきた。今後、事業者の質の見える化は進み、選ばれる時代になっていくだろう。

また、現在は、看護師が5名程度という事業所が多く、10名で大規模と言われる。大規模の事業所のほうが24時間対応しやすく、多様な専門性を持つ職員がいることで質も担保されやすく黒字経営が多い。ただ、大規模にするための成功要因は、マネジメント職が複数いることであり、1人の管理者や経営者でやりくりする個人事業主では限界がある。そのため、企業化していくことが求められている。弊社にも規模拡大やM&Aの相談があり、群雄割拠の中では、生き残りをかけた戦略が必要となっている。

進化し続ける訪問看護ビジネス

公的保険による訪問看護では、自宅へのサービスは提供できるが、一緒に旅行や買い物、通院、通勤、冠婚葬祭などに付き添いをして欲しいというニーズには対応していない。そのため、旅行や買い物等に看護師の付き添いを希望される方は、全額自己負担となる。弊社でも、永六輔さんから外出支援をご依頼されることもあったり、病や障がいを持ちながら、自由に外出したい方が多いことを知った。

一方で、1時間1万円の支払いが簡単にはできない人が多く、手軽で、かつ、質を担保した、外出支援に関する新たなビジネスが求められている状況もある。

弊社では、移動介助が必要な方と看護師等をダイレクトマッチングする予約システムを開発している。サービスを立ち上げてすぐに、ニューヨーク在住の日本人の方から、日本で一人暮らしをされているお母様の外出支援を依頼された。ヘルスケア人材が不足する中、シェアリングエコノミーの考え方で、日本中の看護師やヘルパー等が、隙間時間に副業をして、移動支援ができるとよいと考えている。個人として仕事を請けることで、価格を1時間3千円程度に抑えることができる。

慶應と訪問看護

慶應では訪問看護は行っていないが、学校法人で訪問看護事業に参入しているところもある。また、社中には慶應または慶應出身者による訪問看護サービスへの期待もあるだろう。慶應病院の患者の中にも訪問看護を利用している人は多く、『三田評論』の効果で、さらにニーズは高まるだろう。筆者個人としては慶應が訪問看護でも社会を先導することに微力ながら貢献したい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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