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【特集:「在宅ケア」を考える】
座談会: 高齢社会を支える「在宅ケア」の時代

2019/12/05

スペシャリストかゼネラリストか

渡邊 看護もそうだと思いますが、小児も来るし、おじいちゃんも来るし、難病は来るし、脊髄損傷は来るし、がんも来ますので、リハって専門がないのです。だから、在宅リハに行く時は技術的にはオールマイティーのほうが使えるのです。

自分は脳卒中は診られるけれど、心臓の悪い人は分からないとなってしまったら、その人は使えない。うちでは最低限、5年間、いろいろなチームを回った人を訪問に出します。1対1で、訪問の現場でそれを学んできなさい、ということでは利用者さんに対して申し訳ない。

金山 介護は全然事情が違います。基本的に介護福祉士の養成校でちゃんと専門教育を受けた人は施設に入ることが多い。そして介護教育を十分受けていない方たちがヘルパーの資格で在宅に入ります。つまり、専門性で言えば低い人たちが在宅を回している。

岩本 オールマイティーの方が在宅に行くのは、僕もそのほうがいいと思っていますが、最近はちょっと違うなあと思います。

というのも、うちは精神疾患や神経難病などの重症な方や、子供もほぼ重症心身障害の子です。がん末期も年間4、50人看取るという感じなのです。でも、全領域を十分に経験したナースなんて探してもいないのです。

渡邊 僕が言っているのは、スペシャリストではなく、多くの分野を見ることができるゼネラリストということです。領域が10あるとして、その全部のスペシャリストになってくれとは言わないけれど、老人しか診たことのない人が、いきなり子供のところへ行っても何をしたらよいかも分からない。

お金を払ってくれる人に害を与えず、利益を与えられる存在として、自力でやれる最低限のところは取ってくれという考えです。小児も老人も難病もスペシャリストというのとはちょっと違います。

岩本 僕も同じ考えです。入ってくるナースは若い人が多いので、バックグラウンドは一領域か二領域です。そうすると経験がないこともありますが、それはナーシングチームとしてカバーする。得手、不得手をサポートし合う形で、チームとしてゼネラルに対応するということにしています。

金山 逆に経験がなくても、患者さんのケースによって、訪問看護に行くこともあるんですか。

岩本 うちの場合は、今、体制がそれなりに整っていて、それぞれの専門家がバックにいます。ですから、OJTなど学習の体制があって、準備しながら経験できるようにしています。

立ち上げ当初はどうしようか、というケースはありました。その時は利用者さんの家族に、「僕はこれぐらいのお子さんを診たことがないけれど、サポートを受けながらだったらできると思います。どうしますか」と聞くと、全然構わない、とにかく来てくれればいい、私が教えられる、ということが結構ありました。

永田 小児だとお母さんのほうが詳しかったりすることがありますものね。

岩本 やはりお金をもらっているという観点からすると、ジレンマがあり、他のナースとよく議論になります。僕は精神科のバックグラウンドはないけれど、精神科の患者さんの訪問を結構受けていると言ったら、精神科だけを対応している訪問看護師さんから「緩和ケアを経験したことのないナースががんの看取りをやってお金をもらうなんておかしいでしょう、それと同じではないですか。あなたは看るべきではないのでは?」と言われました。

確かにその観点はあると思いますが、「受け皿がなくて断られて家に帰れない人たちがたくさんいる中で、その人たちはどうするんでしょう? あなたが全部看るんですか? 看れる体制を社会に作ろうとしていますか?」と返すと、「それはできない」と言う。

であれば、「僕らでも本当にいいですか」ということを開示し、学習しながら、ケアを始め、その中でできるだけ帰る人を受け止めていくのが誠実ではないかと。量と質で言えば量の話になるのでしょうか。でも、ちょっと胸がチクッとはします。

必要となるネットワーク

永田 まだまだ資源は足りませんが、在宅でもだんだんとスペシャリストみたいな話が出てきているのは、ある意味、資源が少し増えてきたから言えるところもあるかと思います。

 でも、在宅で専門性の高い医療を求められたことはあまりないですね。

金山 4、5年ぐらい前から、都内では、営業的な売りだと思いますが、うちはこういうのが専門ですというクリニックが増えていますね。ケアマネジャーに聞くと、領域別に在宅の医師を紹介してくれます。それがいいのかは分かりませんが。

 今、都会では専門分化が流行りですよね。訪問専門クリニックでも、がん専門、小児専門、心臓病専門というところが脚光を浴びています。

永田 全部診られる人がいたほうがいいような気がしますが。

 うちには認知症で生活に支障の出ている人たちをよく紹介されます。別に認知症を専門としているわけではないですけれど。

総合診療専門医という専門医制度が一応、始まっていますね。開業医の団体である日本医師会もかかりつけ医という名前でいろいろ研修し、小児から精神から認知症から在宅医療までやらないと単位をもらえない。ゼネラリストと臓器別の専門医の並列時代になってきたと思います。

でも、在宅で求められているのは、やはりゼネラリストだと思う。そして従来の専門医や専門看護師に指導してもらえるような連携ネットワークがあればいい。大きいクリニックではがんの得意な先生、心臓の得意な先生を持っていらっしゃるから、そこで研修していると思えばいいわけです。

うちのクリニックも5つの在宅療養支援診療所、1つの病院で、御茶ノ水ドクターズネットワークというネットワークをつくっています。1つは神経内科専門のクリニック、1つはがんの緩和ケアをやっています。お互いにカンファレンスを毎月やっていますから、「先生、やっぱり診て」という場合もあるし、指導を受けながら診ることもあります。看護やリハビリでも、お互いにお願いできるような関係やネットワークがあればいいと思います。

永田 褥瘡の大変な人がいたら、病院の外来の専門看護師に地域に出ることを頼むことなどはあるのですか。

岩本 頼むのですが、来てくれないです。だから一方的にメールで写真を送って電話して、「どう思いますか」と聞くことが結構あります。

忙しくて出るのが大変なんだと思います。半日がかりで来て、病棟に穴を空けることになってしまうので。

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