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【特集:裁判員制度10年】
座談会: 「国民の司法参加」は何を変えたか
──その先の10年を見据えて

2019/10/05

96%の満足度を共有するために

小池 今おっしゃった意味では広報活動というのが非常に重要になってくると思うのです。これは法務省、裁判所も一定の努力をされているとは思うのですが。

鈴木 牧野さんがおっしゃった通りで、法曹界って広報が下手だなと思います(笑)。マスコミと緊密に連携を取って、まさに今言われたような、裁判員を経験された方がその経験をどう思われ、今後の人生にどう活かされているのか、ということを伝えていくことはすごく重要だと思っています。

私が施行前に広報に携わったときは法曹三者一丸となってやっていたのですが、いざ施行されると、制度を運用することで手一杯で、広報まで手が回りきれていない面もあると思います。

また、今の高校生や大学生に裁判員制度をしっかり伝え、裁判員として裁判に参加するのは国民としてとても大事な義務なんだということを子供の頃から自然に感じていってくれれば、制度に対する不安感などもなくなっていくのかなと思います。そういう意味では広報も大事だし、法教育というか、若い世代へのアプローチも重要だと思っています。

検察庁では出前教室なども積極的に取り組んでいて、先日は、慶應女子高の「法律」の授業で、検察について話をしてきました。皆さんとても熱心に聞いてくださって、頼もしく感じましたね。

石田 経験者の96%がいい経験だと言ってくれているというのは、手応えは間違いなくあるということですから、これをなんとか共有していきたいですね。

裁判所の『司法の窓』という広報誌(裁判所ホームページから入手可能)に載った裁判員経験者の方からのお手紙に、「証拠を見聞きし、疑問や考えをちゃんと自分の頭で抱き、それで発言する。かといって自分の意見に固執するわけではないし、人の考えに耳を傾けて、ときには自分の考えを手放す。こういう経験をこの裁判員裁判に参加して得られたが、それはそもそも裁判員裁判を待つまでもなく、人として身に付けたい素養だ」とあり、正直感動を覚えました。

東京地裁でも一般的な広報活動に加えて、今のようなことがお伝えできるように、企業などに裁判官が直接お邪魔して制度の意義をお話しし、制度へのご協力をお願いするとともに、未経験の方が持つ不安や疑問を伺って運用改善につなげるというような地道な活動を行っています。

また、教育の面の指摘がありましたが、社会科見学などでよく法廷傍聴に来る学生さんがいらっしゃるので、そういう方にも、事前に申し込んでもらえれば、裁判官から制度説明をさせていただいています。

大学や高校等の要請があれば裁判官を派遣することもしています。実は、慶應普通部の労作展で、裁判員裁判傍聴記録というのをつくって出してくれた生徒さんがいるのですが、中学生のころから関心を持ってくれる子がいるわけですから、裁判官の派遣企画は慶應義塾でも利用してもらえるといいなと思っています。

鈴木 私は、その傍聴記録を書かれた普通部の生徒さんからインタビューを受けたので、完成したものを拝見しました。驚くほど素晴らしい内容で、賞をとって特別展示作品になったと思います。

牧野 民間団体である裁判員経験者の交流団体も、裁判員体験を広げる試みとして、もう少し社会に活用してもらいたいと思っています。個々の裁判員が体験を社会に伝えるのはなかなか大変です。現在、裁判員経験者が交流する団体が8つぐらいあります。そういう団体がなぜいいかというと、経験者仲間と憩いの場が持てるということがまずつある。もともと心のケアのためにつくった団体なので、経験者が大変だったよね、と和むようなところです。澤田さんとも経験者ネットワークで知り合いました。

裁判所の方から「ネットで『裁判員経験者』と検索すると交流団体があるから気が向いたところに行ってみたら?」と言ってもらえると、もっと多くの方が交流団体に入ってきて、そうするとそこの体験がまた周りに広がっていくので、ぜひ言ってもらいたいですね。

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