【特集:未来のモビリティ社会】
座談会:自動運転は社会をどう変えるのか
2025/11/05
AIのコモディティ化によるチャンス
青柳 ウェイモの例ばかりで恐縮ですが、ウェイモがやってきたことは、カメラのビジョンだけではなく、様々なセンサー類を組み合わせたサービスカーを作ることへの資本投下です。高性能のGPUがあるコンピューターを活用して今までだと解けなかったケースを組み合わせて解けるようにしたということです。
ただ、彼らは累計で1兆円ぐらい投資をしています。これをある意味模倣した形でやってきた中国の主要プレイヤーも数千億円ぐらいの規模でこれまで投資をしてきている。
それに対して私がAIの活用で可能性を感じることは、2つあります。実際に都市交通では渋滞などが起こると、どういうルートを通っていくべきかという判断がありますし、救急車両など事故が起きた時に、どういう行動をとるかという判断が想定されていないことがあります。また日本だと工事をたくさんやっている道もある。こういったものを学習させていくことにおいて、AIの活用で今までのやり方を補うことができるのではと思っています。
もう1つ、1兆円も必要なのかというところです。開発や実際の商用化までのスピードを上げていくことで、転用できる部分が出てきたのではないか。これはまさにAI活用が2020年代に様々な領域で進んできたことの恩恵で、米中の先行したプレイヤーはある種資本力でやってきたのですが、後発ゆえに日本はAIの恩恵を活用した形の投資ができるのではないか。実用化への道を早く効率的に行けるのではないかと思い、私はAIによる学習の高速化が劇的な可能性として出てきたのではと感じています。
加藤 コモディティ化ということだと思います。これは大きなチャンスです。青柳さんがおっしゃったように、最初に取り組んだ企業は1兆円を投資しています。コモディティ化直前に取り組んだ企業は1000億円です。コモディティ化の後に取り組めば「100億円いかずに済んだ」となる。日本はここで勝てるといいですよね。
今、AIというと多くの方が生成系のAIを思い浮かべますが、AIは3種類あります。人間があらかじめ設定したルールや条件に基づいて動作する、従来のルールベースのAIと、予測系のAIと生成系のAIです。予測系のAIはティアフォーが自動運転を始めたころにはなかった。ディープラーニングという言葉がなかったのです。そのため、物体を検出することすらままならなかった。しかし、今は予測系のAIがコモディティ化しているのでお金をかけずにこれができている。
そして今、生成AI系も様々な企業が数兆円かけて取り組んでくれたので、たくさんモデルが出てきています。ここから費用を抑えながら進めていくことが勝ち筋かなと思います。
大前 むしろ有利な面のほうが多いということですね。
国産化はなぜ必要か
大前 もう1つ聞きたかったのは、昔の8ビットPCの頃は、いろいろなパソコンがありましたが、いつの間にか皆ウィンドウズマシンになっています。携帯も様々な端末がありましたが、今やiPhoneとアンドロイドの2択になってしまいました。地理情報サービスも大体グーグルマップに食われている。皆最初はいろいろな人たちがいろいろな取り組みをしているのですが、結局、最後は海外の巨大な会社に飲み込まれているという感があります。
ただ、それがけしからんというよりは、日本人は安価に高品質なサービスを使えているという面もあって、不幸になっているわけではないという気がします。自動運転においてもウェイモなどが日本に乗り込んできて席巻しても、「安くタクシーに乗れるようになって良かったね」みたいな感じで、案外当たり前のように使うような日が来るのではないかと考えることもできます。
ただ、それは日本人にとっては不幸なことなので、やはり日本として頑張らないといけないみたいな考え方もありますね。そのあたりはいかがでしょうか。
加藤 自動運転はいろいろな見方ができると思います。社会的価値・産業的価値・学術的価値として見たらどうなのか。それぞれでおそらく見え方が違うのではないかと思います。
社会的価値で見た時、利用者が安全と可用性をしっかり享受できるならば、必ずしも国産の自動運転サービスでなくてもいいという可能性もあると思います。しかし、そのリスクとしてデジタル赤字というものに10年後に陥る可能性もある。
おそらく一番大きいのは産業的価値です。なぜ多くの企業が自動運転をやろうとしているかというと、産業になるからです。そのため産業的価値を出せないと、日本の自動車産業がハコモノになってしまう可能性があります。
学術的価値はどなたが取り組まれてもいいところです。自動運転はフィジカルなAIの代表的なものなので、研究者の方々は楽しんで研究されていると思います。
PCやスマートフォンの例のように、私は自動運転の分野でも似たようなことが起こると思っています。日本からLinuxやアンドロイド、ディープシークというオープンソースを生み出せる可能性があると思っています。
大前 現に加藤さんの「Autoware」はそうですね。
加藤 私たちが開発している「Autoware」というのは、まさにその立ち位置を取ろうとしています。
青柳 様々な海外の技術を取り入れていくということは、この領域を前に進めていくために必要不可欠なのだと思います。
同時に自動運転は様々なプレイヤーや様々な技術との組み合わせで成立するものです。先ほどから話にあがっているウェイモも自動車はジャガー製ですし、そこに日本の産業が関与できる余地もあります。センサーについても日本のソニーなどが、一番難しい部分を担っていたりする。iPhoneも部品は日本製みたいなこともありますが、その中でどうやって役割を果たしていくかということもあります。
また、昨今の不安定な国際情勢や経済安保、データの保全やセキュリティというテーマとこの自動運転交通の領域は不可分です。やはり国内にも持続可能な選択肢を持つことが大事かと思います。
代替の選択肢があるとか特定の国に依存をしない、といった選択肢があることが安心につながります。選択肢を増やしていくということは、最終的には一般の利用者さんの利益とも重なる部分があるのかなと思います。
やはり日本は自動車産業が強いので、そういう中でこれを輸出産業にできる部分があると思います。やらないと全部飲み込まれてしまうので、是非やらなければと思います。
𣘺本 これは違う視点で2つあると思っています。1つはデジタル赤字がそうですが、もう1つ、一度シェアを取られてしまうと取り返すのは難しいですよね。ウィンドウズを覆すとか、iPhoneやグーグルマップもそうです。だからウィンドウズレベルになってしまうと、今からウィンドウズに代わるものを作りますか、と言うと技術的にも相当厳しいです。
また、1つのものが独占すると、そこで商売をするしかなく、コスト的に、さらに厳しくなると思っています。
一方で最初に五百木さんがおっしゃっていたことを踏まえて自動運転はそもそも手段だと考えると、デジタル赤字の問題などを考えず、皆の移動をハッピーにする手段ということで言えば、海外の安いもののほうがいいのかとも思えて悩ましいです。
青柳 日本は和魂洋才と言って、まさに慶應義塾ができたころに開国し、海外の仕組みや技術が入ってきたわけですが、やはりかなりの部分は日本の新しい事業家が相当デザインして今の日本の礎を作ってきたと思うのです。だから、ここは企業人の立場でもそうですし、ある種、国の在り方みたいなところでも、どうやって貢献していくかということは必要かと思います。
その意思は持ちながら、固く閉ざすということではなくて、そこに海外のテクノロジーなども取り入れる一方で、自分たちでそれを自分たちの技術にしていくという部分はあると思います。
2025年11月号
【特集:未来のモビリティ社会】
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