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【特集:未来のモビリティ社会】
座談会:自動運転は社会をどう変えるのか

2025/11/05

  • 𣘺本 尚久(はしもと なおひさ)

    (国研)産業技術総合研究所 情報・人間工学領域研究企画室研究企画室長

    塾員(2000環、02政メ修、05政メ博)。05年産業技術総合研究所入所。米国在外研究、経済産業省出向、モビリティサービス研究チーム長等を経て現職。筑波大学連携大学院准教授、東京理科大学連携大学院准教授。

  • 青柳 直樹(あおやぎ なおき)

    newmo株式会社代表取締役CEO
    塾員(2002総)。ドイツ証券投資銀行部門を経て、グリー株式会社取締役CFO、株式会社メルペイ代表取締役、株式会社メルカリ上級執行役員等を歴任。24年タクシー・ライドシェア事業のnewmo株式会社を創業。

  • 加藤 真平(かとう しんぺい)

    株式会社ティアフォー 代表取締役 執行役員 CEO

    塾員(2004理工、06理工修、08理工博)。自動運転のオープンソースソフトウェア「Autoware」を開発し、15年ティアフォーを創業。自動運転開発事業を展開。東京大学大学院工学系研究科特任准教授。

  • 五百木 誠(いおき まこと)

    慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授

    三菱電機(株)にて数多くの人工衛星のシステム設計を担当。一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構を経て14年より現職。専門分野はシステムズエンジニアリング、イノベーティブシステムデザイン。

  • 大前 学(司会) (おおまえ まなぶ)

    慶應義塾大学環境情報学部教授

    1995年東京大学工学部卒業。2000年同大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。専門は機械工学(機械力学・制御、自動車工学)。自動運転や隊列走行の車両制御技術を研究。SFC内で実証実験を行う。

自動運転はどこまで来たか

大前 今日は特集「未来のモビリティ社会」の座談会ということです。現在、自動運転システムの進化、実用化、またエネルギーシフトによる自動車の変容など自動車と自動車を取り巻く社会の変化は著しいものがあります。

その中で、本日は自動運転にかかわる技術、またサービスやビジネスにかかわる方々にお越しいただきました。この座談会では日本における自動運転の現状、これからの可能性と問題点について主にご討議いただきたいと思います。

自動運転の歴史を振り返ってみますと、1980年代の冷戦期には、無人偵察等の軍事的なニーズによりマシンビジョンを使った自動運転車などが開発されていました。冷戦後の1990年代は、交通容量の拡大を主目的とした隊列走行の研究や、積極的に道路と協調する自動運転の開発や実証が進められていました。1990年代後半から、自動運転ではなく運転者を支援することを目的とした技術の実用化が始まりました。

2000年代に入ると、運転支援技術の研究開発、実用化は活発に行われましたが、自動運転の実用化を積極的に進める動きは起こりませんでした。その後、Google 社による自動運転車開発の宣言や自動運転車への公道免許交付(米国、2012年)等など、海外における自動運転の社会導入に向けた動きが活発化していきます。このような海外の動きのきっかけも軍事的なニーズです。米国議会は、2001年度に、2015年までに地上戦闘車両の3分の1を無人化するための技術開発を命じ、その議会命令に基づき、アメリカ国防高等研究計画局による自律自動運転車のレースが実施されました。

ここでは、周囲環境の精密なセンシングと高度な情報処理により複雑な環境下での自律走行ができるシステムを開発するチームが活躍し、現在の自動運転技術の基礎を作りだしていきました。Google 社の自動運転車はこの流れを汲むものです。こうした動きに背中を押され、我が国でも自動運転に関する検討会が設置され、政府が2013年に発表した成長戦略に自動走行システムが挙げられるようになりました。その後、様々な自動運転関連プロジェクトが推進されるようになりました。

現在、自動運転の技術開発、実用化は2つの流れで進行しています。1つは、自家用車(オーナーカー)の自動運転です。これは、運転支援技術を高度化し、支援できることを増やしていく流れです。現在は、限定された条件下であれば、運転者が前方を注視しなくてもハンドル、アクセル、ブレーキ操作を行ってくれるレベル3自動運転の機能が実用化されています。

もう1つは、移動サービスとしての自動運転(商用車の自動運転)です。少子高齢化社会における人の移動手段、物の輸送手段の確保のために自動運転が有効、そして、走行範囲や経路が限定されていれば自動運転の実用化は比較的容易である、という考えで、自動運転カート、自動運転バスなどの移動サービス、自動運転トラックによる輸送の技術開発や実証実験が活発に行われるようになりました。海外では、無人タクシーによる移動サービスが始まっています。

まず、自動運転の現状について、技術を開発されている加藤さん、海外の状況も含めて宜しくお願い致します。

加藤 海外における自動運転の進化で一番わかりやすいのは、やはりサンフランシスコでGoogle 系列のウェイモ(Waymo)が完全無人サービスの自動運転タクシーを始めたということ。その他に、テスラの最新のFSD V13という、人は乗らないといけないのですが、ほぼ自動で走れるものが出たことだと思います。

ウェイモは商用車・サービスカーで、テスラは乗用車・オーナーカーですが、究極の自動運転に向かっている道半ばという感じではないでしょうか。これは世界で10年ほど前に描いていた絵がかなり現実のものとなっていると言ってよいと思います。五合目は少なくとも超えていると思いますし、お金をかければ完全自動運転ができることはもう示されたので、あとはコストを下げて事業性を高めていくところに来たと思っています。

大前 移動サービスのほうは、ウェイモなどが世界的に先進的にやっています。彼らは、お金をかければ技術的には自動運転はできるということを証明してくれたように思えます。

そうすると、それがビジネスとして持続的に成立するかどうかという話になりますね。加藤さん、ビジネスとしては成立しそうですか。

加藤 これは自動運転という領域をどう捉えるかにもよります。タクシーや乗用車は数ある領域のうちの1つですが、一番難しいのはやはりこのタクシーや乗用車です。なぜなら一般公道で複雑な環境を走るからです。

その少し手前にバスやシャトルがあります。これらは一般公道を走りますが、ルートが限定されていたり、用途が限られていたりします。また高速道路のトラックには違った難しさはありますが、基本的にはまっすぐ走る技術なので多くのシナリオに対応できます。

そして、一般公道外に行くと、農機や建機、工場内の搬送、大きなトレーラーなどいろいろあります。この領域での課題解決は進んでいます。そう考えると、モビリティ全体としては事業性、経済性が成り立つと思います。しかし、バスやタクシーだけを見た時にどれだけ事業・経済が成立するかはこれからわかるのではないでしょうか。私はそれぞれの領域でも経済性が成り立つと思っています。

事業としてみた自動運転の可能性

大前 タクシー事業者の視点から青柳さんいかがでしょうか。

青柳 加藤さんのお話にも重なりますが、アメリカや中国においては自動運転タクシーの実用化が進んでいますね。一般の乗用車に近い複雑な状況において、いわゆる実証を超えて、限定されたエリアと環境ではありますが、一般の方が乗れる商用サービスをやる事業者が出てきている。ここにまず1つ可能性を感じます。

一般のタクシーサービスと同じように、皆、運賃をウェイモや他の中国のサービスにも支払っている。サンフランシスコの配車アプリ市場の中では、ウェイモの規模は2位のLyftを超え、1位のUberに迫りつつあります。社会受容が進んだ地域においては、実際に運行され、事業として成り立っている、というのがここ数年の大きな変化かと思っています。

私が経営するnewmoでは自動運転領域の研究開発を大前さんやティアフォーさんとご一緒しながら、技術的なキャッチアップを目指しています。同時にタクシー会社の経営をして、大阪で現在1000台ほどのタクシーを運行しているのでオールジャパンの様々な知恵や経験を結集し、自動運転タクシーの導入が日本の公共交通サービスでもできるのではないかと、まさに今トライしている段階です。私自身は非常に可能性を感じていて、技術的な観点で言えば、大きな投資をすればできそうだ、というところは見えています。

やはりこれからの日本は明らかに人手不足になるという問題があります。タクシー、バスといった交通サービスだけではなくて、介護などを含めて公共サービス全般に明らかに担い手が減少していく中、移動の足、生活のインフラを保っていかなければいけない。その中で、できるだけ自動化し、限られた労働力が他の産業と取り合いになる中、それを抑えていく必要がある。今必死にインフラを支えている公共交通とどうやって共生・共存していくか。ビジネスモデルとして成立させる前にまず社会受容をどうやって形成していくのかというところが、事業者として向き合っていく課題ですが、これを乗り越えられるとすごく可能性があると思っています。

地域による違い

大前 𣘺本さん、いかがでしょうか。

𣘺本 私は大前さんの研究室から産総研に入り、20年ぐらい働いています。去年までモビリティサービス研究チームのチーム長をしていたのですが、今はもう少し全体を見る研究企画室の室長をしています。今日は産総研の立場ではなく個人的な立場で発言させていただきたいと思います。

自動運転の技術は、おっしゃる通り、お金をかければある程度できるということが実証されつつあると思います。ティアフォーさんもレベル4を取られて日本で先進的に進めていらっしゃっていると思います。日本では自動運転移動サービスについて、政府は2025年度に50カ所程度、2027年度100カ所以上という目標を掲げていますが、思ったより実現が進んでいないというのが現状です。

なぜあまり進んでいないのかを考えなくてはいけないところですが、自動運転サービスがまず入っていくところを考えると、2つパターンがあると思っています。1つは、先ほど青柳さんがおっしゃった、大阪のビジネス街などには需要のある「ロボタク」(ロボットタクシー)みたいなものが入って、本当に競争になると思っています。ここは民の間の競争なので強いところが勝っていくと思います。

もう1つは、地方の市街地以外のところです。一昨年アメリカに行ったのですが、地方では、UberやLyftすら呼んでも来ないという地域があります。そういうところではどうやって移動手段を確保していくかが課題になると思います。さらに運転手不足ということもあります。現在、日本国内でも様々な地域でバスが減便になってしまっています。公共交通をどう維持していくかということから、運転手不足の解決のために自動運転が入っていく可能性があると思います。地方と都市部をどのように考えていくか、両方とも自動運転というオプションは重要なキーワードだと思っています。私もできればこの分野で貢献できないかと日々思っています。

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