三田評論ONLINE

【特集:未来のモビリティ社会】
清水 修 :EVの未来を支える日本の技術

2025/11/05

  • 清水 修(しみず おさむ)

    東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻准教授・塾員

私は塾生時代から電気自動車(EV)の普及が世界の気候変動を解決すると信じて、EVの駆動効率向上に関して研究を続けてきました。EVの研究を続けていくにつれ、EV普及への課題はEVそのものを良くするだけでは解決しないと思い、現在では研究対象をEVからEVを含んだ社会システムまで広げて研究を行っています。ここではEVの抱える課題と、その解決のための社会システムについてご紹介したいと思います。

EVの今

気候変動の問題を解決するために、世界中で二酸化炭素排出量の削減が求められています。2050年には二酸化炭素の実質排出量0となるNet Zero Carbonを目指して、各国でEVの普及が進められているものの、日本国内でのEVの新車販売比率は1.2%に留まっています。

日本国内で普及が進まない原因として、日本国内ではハイブリッド自動車とEVの走行による二酸化炭素排出量を比較するとほとんど変わらないことが挙げられます。つまり現時点で日本国内でのEVの普及は、世界のEV普及の目的であるNet Zero Carbonに貢献できないため、社会的にも現時点では積極的に普及を進める理由があまりないということです。これはEVのエネルギー源となる発電のために、火力発電を多く使っており、二酸化炭素を多く排出することと、大量のバッテリーを搭載するEVのほうが走るためのエネルギーを多く使っていることによって起こっています。さらにバッテリーを製造するためには多くのエネルギーを使用するため、自動車の製品としての生涯二酸化炭素排出量まで考えると、EVは日本国内ではハイブリッド自動車よりも多くの二酸化炭素を排出することになります。

EVはハイブリッド自動車と比較して1回の充電で走れる距離が短いことや、EV自体が高価であるというユーザビリティの問題も抱えています。EVが1回の充電で走れる距離をハイブリッド自動車と同程度にするためには、今のEVが使用しているバッテリーの量を2倍以上にする必要があります。EVがハイブリッド自動車と比較して高価格になる要因はエンジンとバッテリーの価格差であるので、バッテリーをこれ以上搭載することはEVの更なる高価格化を招くことになり、ユーザビリティを向上させることで、他方が損なわれることとなるトレードオフの関係にあります。そのため、いたずらにバッテリーの量を増やせばよいということではありません。

またEVはバッテリーの充電にも課題を抱えています。EVへの急速充電は350kWまで実用化されており、飛躍的に出力が向上し、充電時間も以前と比べると短くなっていますが、ハイブリッド自動車への給油は電気の出力に換算すると5000kW(5MW)であり、いまだに大きな開きがあります。実際に5MWの充電設備を作るためには大規模なインフラが必要になるため、実装の難しさがあります。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事