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【特集:ソーシャルメディアと社会】
座談会:加速するアテンション・エコノミーとソーシャルメディアのゆくえ

2025/10/06

参院選とソーシャルメディア

水谷 最近ではソーシャルメディアに関するデータサイエンスの知見を新聞などでも拝見することが多くなりました。直近だと参院選が特にそうですね。ソーシャルメディアは民主主義を支えるツールでもあるので、選挙などの時にユーザー、有権者がどのような情報摂取行動をしているかという部分は重要かと思うのですが、谷原さん、直近でソーシャルメディアから見えた課題や問題点はありますでしょうか。

谷原 7月の参議院選の時には結構しっかりとした調査を選挙前後でやり、YouTubeのデジタルデータも追跡していました。大きく言えば、やはり今回メディア接触と支持政党の関係については年齢によって完全に断層ができているという結果が出ています。

50代ぐらいを境にして60代、70代はテレビ、新聞、選挙公報から情報を得ていて、この層は自民と立憲、公明を支持している。40代以下は、主にYouTubeやXといったソーシャルメディア媒体から情報を得ていて、国民民主党と参政党を支持している。これは本当にきれいに断層ができていて、右と左の分断ではなく、まさにメディア接触と年齢層の分断がかなりはっきりしていたのが今回の参院選だったと言えると思います。

今回、投票率も全体で前回より6%ぐらい上がっているのですが、若年層はソーシャルメディア、特にYouTubeを通じて、これまで政治情報を得てこなかった層もそれを得ていると思われます。もちろんYouTube上の情報も玉石混交ですが、どんな形であるにせよ、選挙の情報を得て投票率が上がることは、私は基本的にいいことだと思うのですね。

ただ同時に、参院選関連のYouTube上の動画のうち40数パーセントが第三者による切り抜き動画だと言われています。政党の公式が出している動画は全体の1割から2割。残りがテレビ局や新聞社がYouTubeに下ろしている動画やWebメディアによる動画です。

今まであまり政治参加に積極的でなかった若年層が、中小政党も含めていろいろな政党の主張を見られることは、基本的に悪いことではないと思います。若い人がSNSに感化されて適当に投票しているとは私は思っていません。

水谷 なるほど。

谷原 少し気になったのは、既存メディアの信頼性やネットの信頼性について、様々なアンケートがありますが、あれは何を測定しているのかよくわかりません。例えば同じテレビでも、昼間のワイドショーと「ワールドビジネスサテライト」だったら、全然信頼度が違うはずです。

ですから私のやった調査では、YouTubeではいくつかの政治経済系のチャンネルを具体的に挙げて、「あなたが見ているのはどれで、それをどれくらい信頼していますか」と聞いたのです。ざっくりと聞くと、YouTubeやXより、テレビ、新聞のほうが信頼度が高い。しかし、「PIVOT」とテレビでは、それなりの差で「PIVOT」のほうが信頼度が高いのです。だから、ネット一般が玉石混交であることは理解しながら、自分の見ているチャンネルはテレビより信頼できる、という感覚だと思うのです。

もう1つ付け加えると、日本と欧米の一番の違いは、欧米は2024、5年の選挙では主な媒体はショート動画に移行しています。具体的にはTikTokです。イタリアのメローニ首相はフォロワーが250万人、フランスの国民連合党首バルデラ氏も200万人フォロワーがいて日本とは桁違いです。日本はまだYouTubeが主流です。ただ、各政党ともTikTokにも力を入れ始めているので、ショートが主流になるのは時間の問題かなという気はします。

今回の参院選も最後の1週間ぐらいで急に各政党がTikTokに力を入れ始めて、そこで参政党と国民民主党が急にグッと来た。別に欧米の人に比べて日本人が長尺が好きだという根拠はないので、自然な流れとしてそちらに移行する可能性は高いと思います。

アルゴリズムと個人の選択の共犯関係

水谷 有り難うございます。YouTubeやTikTokは、アルゴリズムによるレコメンドの仕組みがかなり違いますよね。そういうソーシャルメディアの構造、特にアルゴリズムの部分とユーザーの情報摂取との関係については何かありますでしょうか。

谷原 日本で主流のYouTube、X、TikTokのアルゴリズムの特長は三者三様です。わかりやすいのはTikTokで、一番クローズドというか、とにかく「あなたの好みに最適化します」ということなんですよね。ある意味流行りもシャットダウンできてしまうぐらい、強烈なフィルターバブルを生むのです。

またYouTubeは2010年代にとても批判されて、かなり抑制的に運用する方針になった。ポリシー違反すれすれの有害な誤情報や、誰かを傷つけるようなきつい動画は、削除も非表示もしないけれど露出を減らしますよ、と明示的に言っています。さらに権威あるマスメディアが下ろしているコンテンツは最優先でプッシュする、と言っています。

確かにYouTubeのレコメンドに従うと、どんどん穏健なものを見ていくことになっていくという報告もある。だから党派性が強い動画が出てくるのはむしろ個人の選択であって、それをYouTubeが学習するのです。ある種アルゴリズムと個人の選択の共犯関係で党派性が強まっていくというのが、データサイエンスが明らかにしてきたことです。

Xに関しては、For Youタイムラインの50%はフォロー外のポストを入れているのです。ただあれも結局「バズった」ポストばかり、あるいは右派的なポストがおすすめされる。

なので、それなりに偏りやあるいは安全性にまだ問題があるということはデータサイエンスが明らかにしてきましたが、フィルターバブル悪玉論というほど単純ではなく、むしろ個人の選択と、それぞれ癖のあるアルゴリズムの共犯関係によって表示される傾向があるということです。

水谷 共犯関係というのは、結構重要ですね。シナン・アラルが、著書『 The Hype Machine (邦題:デマの影響力)』の中でアルゴリズムはそれ単体で存在しているわけではなく、ユーザーの行動を延々と学習し、フィードバックしながら「おすすめ」を強化しているのだと指摘していますね。技術決定論的ではなく、人間と技術の相互関係のようなところが、ソーシャルメディアの功罪にも関係しているかなと思います。

選挙とニュース

水谷 絹川さんは記者の立場から今回の参院選についてはどのように感じていますか。

絹川 今回NHKは、参院選での候補者全員の第一声を全文紹介し、内容によっては注釈をつけて報道したのですが、私自身はそれが実際に視聴者にどこまで届いたのか、まだよくわからないと感じています。

もともと選挙期間中は情報が山ほど出てきます。その中で私たちなりに一生懸命、多くの人に届けようと思い、切り取りだと受け取られないようにと考えて取材しているのですが、それが十分に届いたのか、届いた人と届かなかった人ではどこに違いがあったのかなど、今後、検証していく必要があると感じています。

水谷 なるほど。視聴者に届いていないのではないか、というのは課題ですね。今子さん、今回の参議院選でもそれ以外でもいいのですが、ヤフーニュースのコメント欄やヤフーニュースの配信の部分で、選挙対策として取り組まれたことはありましたか。

今子 偽・誤情報の観点から、選挙期間中は特に、信頼性の高い情報をみていただきやすい場所で確実にお届けすることが大切であると考え、ヤフーニュース トピックスで偽・誤情報の打ち消し記事を載せたり、選挙特集のページでファクトチェックされたコンテンツパートナーの記事を配信したりしました。

今回素晴らしいと感じたのは、ファクトチェック機関だけでなく、新聞社やテレビ局など多くの社がファクトチェックを行ったことです。ヤフーニュースにも配信していただきましたので、ヤフーニュース トピックスで取り上げることができ、とても良かったと思っています。

その他、ユーザー自身の考えに近い政党を教えてくれるサービス「政党との相性診断」を提供し、350万人を超えるユーザーに使っていただきました。これは前回(2022年)の数値から大幅に上昇しており、選挙への関心の高まりを感じました。

ヤフコメでは、偽・誤情報が蔓延しているという状況ではないですが、候補者についての虚偽の事項を書き込むことや名誉毀損については公職選挙法等でも禁止されており、ユーザーに注意喚起をし、問題がある投稿については確認して対応を行っています。

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