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【特集:ソーシャルメディアと社会】
浜田 萌:子どもとSNSを巡る世界と日本の動向

2025/10/07

  • 浜田 萌(はまだ もえ)

    読売新聞東京本社社会部記者

子どものSNS利用について、世界各国で議論が活発化している。スマートフォンやSNSは、今や情報収集やコミュニケーションに欠かせない生活必需品となった。子どもにとっても、同級生との連絡や学校外の友人との交流に重要なツールであるだけでなく、学習や創作活動にも使われている。その反面、過度な依存に加え、ネット空間でのいじめや犯罪に巻き込まれかねない有害情報への接触といった負の側面も顕在化している。世界各国では、年齢によって一律でSNSの利用を制限する動きが相次ぐ。海外の事例を踏まえつつ、対策を考えたい。

豪州の「SNS禁止法」

SNS規制で世界的な注目を集めているのが、豪州だ。2024年11月に16未満の子どものSNS利用を一律で禁止した「SNS禁止法」が成立し、今年12月に施行が予定されている。SNS事業者に16歳未満のアカウント取得を防ぐ措置を義務づけ、違反すれば最大で4950万豪ドル(約50億円)の罰金を科す。

国レベルでの規制に踏み切った背景には、SNSが原因で命を絶った子どもの遺族らによる切実な訴えがある。

豪州第二の都市・メルボルンに住むマック・ホールズワースさんは16歳だった22年に、インスタグラムでやりとりをしていた「18歳の女性」にせがまれ、自身の裸の画像を送った。その後、見知らぬ男から電話があり、「金を払わないと、画像を友だちや親にばらまくぞ」と脅された。実は、この男が女性になりすまし、マックさんに接触していた。

マックさんは言われるままに約5万円を払うも、画像はSNS上で拡散した。男は逮捕されたが、マックさんは翌年、「もう耐えられない。ごめんなさい」と遺書を残し、自殺した。YouTubeには、「自殺の方法」を検索した跡が残っていたという。父親のウェインさんは取材に対し、「危険に満ちたSNSから子どもを遠ざけ守るのが、大人の責任だ」と訴え、法律の施行を心待ちにしている。

利用開始年齢の引き上げ

多くのSNS事業者が利用者の最低年齢を13歳としている中、豪州の禁止法が16歳未満の利用を制限したことにも、遺族の思いが反映されている。

同じくメルボルンに住む15歳のオリビア・エバンスさんは、学校で「太っている」といじめられ、摂食障害に陥った。夢中になったのは、インスタグラムやTikTok上にあふれるダイエット情報だった。家族が何度注意しても、「SNSでは、1日200キロカロリーでも健康的だと言われている」と受け入れなかった。やがて心身のバランスを崩し、23年に薬を過剰摂取して命を落とした。

父親のロブさんは、利用者の興味のある情報を次々と表示させるSNSのアルゴリズムがオリビアさんの精神をむしばんだとして規制を訴えてきた。特にオリビアさんが15歳だったことを踏まえ、16歳未満に対する利用規制にこだわった。「周囲からの影響を受けやすい成長途中の子どもたちにSNSは危険すぎる。この法律で子どもたちとSNSの接触年齢を少しでも遅くできる」と禁止法の意義を強調する。

実効性は未知数

法規制に対し豪州国民の賛否は分かれている。

保護者への取材では、「娘を見ているとSNSには中毒性があると思う」「SNSは子どもに悪影響だという国の後ろ盾があると助かる」と規制に賛成する声が上がった。これに対し、「SNSは情報収集や友だちとの連絡手段に使う重要なツールだ。利用禁止は子どもたちの可能性を狭めることになる」「禁止することで一般に知られていない怪しげなSNSを使い出すのではないか。かえって危険だ」と反対する声も多数聞かれた。

SNS禁止法の実効性は未知数だ。規制の成否はSNS事業者が年齢確認を確実に行えるかにかかっている。禁止法は個人情報保護の観点から、SNS事業者が利用者に公的な身分証明書を提出させることを禁じている。

事業者は別の方法で年齢確認をする必要があり、豪政府は今年1月から、年齢認証技術の実証実験を行ってきた。そこでは、AI(人工知能)による顔や声などの生体情報の分析や、就学情報などからの年齢推定など、48事業者による60以上の技術が対象となった。

今年8月末に豪政府が公表した報告書では、顔認証技術などで利用者の年齢を見誤るケースが確認された。どの技術を採用するかは事業者に委ねられるが、どこまで正確に年齢を確認できるのかという課題は、解決されていない。

各国で規制の動き

他国でもSNSの利用規制に向けた動きが進んでいる。

ニュージーランドでは今年5月、16歳未満のSNS利用禁止法案が議会に提出された。6月にはフランスのマクロン大統領が、15歳未満のSNS利用禁止について、欧州連合(EU)での制度化を目指す方針を示した。ノルウェーは24年10月に、SNSの利用開始年齢を15歳とする新たな規制の導入を検討すると表明している。

アメリカでは州ごとに規制の動きがみられる。ユタ州では24年、SNS事業者に利用者の年齢確認を義務づける州法が制定された。ニューヨーク州も事業者に対し、保護者の同意なしに18歳未満の利用者へ個人データに基づくアルゴリズムでコンテンツを提供してはならないと定めた。

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