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【特集:ソーシャルメディアと社会】
浜田 萌:子どもとSNSを巡る世界と日本の動向

2025/10/07

日本は利用制限よりリテラシー教育

日本では自治体レベルでスマホやネットの利用時間を制限する動きが出始めている。

香川県は20年、「ネット・ゲーム依存症対策条例」を制定した。中学生以下のスマートフォン等の利用について「午後9時まで」との目安を示した。愛知県豊明市では今年8月、全市民を対象に仕事や勉強以外でのスマートフォンやタブレット端末の使用について「1日2時間以内」を目安とする条例案が市議会に提出された。いずれも罰則はなく、理念法にとどまる。

NTTドコモモバイル社会研究所が24年に実施した調査では、日本の中学生のSNS利用率(SNSを1つ以上利用している割合)は、92%に上った。小学4~6年で63%、小学1~3年でも31%だった。総務省によると、10代の平日の平均利用時間は、SNSが1時間7分、動画共有サービスは1時間56分で、SNSや動画の視聴が子どもの生活の一部となっていることがうかがえる。

時間があると、ついスマホを触ってしまうというならまだしも、四六時中SNSや動画を見ている状態となれば健全とは言えない。市民からは「行政が家庭の問題に介入するのか」などと批判的な声も出ているが、スマホの「使い過ぎ」に一石を投じたと言える。

一方、国では子どものSNS利用を一律規制する動きは見られない。国は24年11月から、有識者らも交えた「インターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関するワーキンググループ」(WG)を開催。子どもがインターネット利用時に直面する危険と安全な利用に関し、課題と論点を整理した。

WGは8月に公表した報告書で、子どもにも幅広い情報にアクセスできる「知る権利」や「表現の自由」があるとの観点から、年齢で一律にSNSの利用制限をするよりも、子どもの発達段階に応じたサービスを提供し、情報の真偽などを読み解く「情報リテラシー教育」の強化を図るとの方向性を示した。SNSなどのオンライン空間は、いじめや不登校児童の居場所や相談窓口にもなっているとして、子どもの保護とネット活用のバランスを重視した形だ。

「送信リスク」へ対策を

確かに、一律の利用禁止は子どもを「無菌室」に閉じ込めることになりかねない。ある年齢になった途端、SNS空間に放り出されれば、結果として子どもが危険にさらされる可能性は否定できない。だが、今子どもを取り巻くSNSの状況は看過しがたい。

警察庁によると、昨年、SNSやオンラインゲームを通じて犯罪に巻き込まれた18歳未満の子どもは、1486人に上った。中学生が715人、高校生が582人で、小学生は136人だった。類型別では、不同意わいせつや略取誘拐などの「重要犯罪」が最多で、「児童ポルノ」「青少年保護育成条例違反」が続いた。きっかけとなったSNSは「インスタグラム」「X(旧ツイッター)」「TikTok」の順だった。

子どもと加害者が知り合うきっかけとなったSNS投稿の7割超が、子どもによるものだった。投稿内容は趣味や日常生活、友だち募集など犯罪とは直接関係ないものだが、その後、悩み相談やゲーム攻略などで親しくなるうちに個人情報を教えてしまい、被害に遭うケースが目立つ。WGの委員を務め、子どもとネットの問題に詳しい上沼紫野弁護士は「大人は実際に会ったことがないと、『知らない人』として警戒するが、子どもはSNSやオンラインゲームでやりとりすると、『親しい人』と受け止め、警戒心なしに個人情報や画像を送る傾向にある」と話す。

送信画像や内容によっては、子どもが加害者となる可能性もある。東京第二弁護士会が実施する子ども向けのLINE無料相談には、「自分の投稿が誹謗中傷と言われた」「児童ポルノを転送してしまったが、捕まるのか」といった中高生からの相談が相次いでいる。

こうした状況を受け、WGでも、SNSにおける「送信リスク」への対応が議論された。現行の対策は、アダルトサイトや出会い系サイトなどから配信される有害情報を受信できないようにする「フィルタリング」が中心となっている。

だが、トラブルや犯罪被害を未然に防ぐには、受信対策のフィルタリングだけでは不十分なことは明らかだ。子どもが不適切な文言や画像、個人情報を送れなくするといった対策が公示されるべきだろう。

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