【特集:デジタルアーカイブの展望】
座談会:コミュニケーションを豊かにするアーカイブとは
2024/11/05
「顔立ちがある」デジタルアーカイブ
本間 デジタルアーカイブもどんどん進化していますが、ちょっとのっぺらぼうで顔立ちがない気がしています。誰が何の目的でつくり、どういう人たちがかかわっているのかが見えない。だから抽象的な言い方ですけど、もう少しデジタルアーカイブに顔立ちを付けていきたい。
レシピ集のように、それぞれのアーカイブが、つくっている人たちや目的、方法や内容などを共有する。そして、公的なものから草の根的なものまで、世の中にどのようなデジタルアーカイブがあるのかがわかると、自分もこれだったらかかわれる、参加できる、といろいろな人が自分のデジタルアーカイブを見つけることができそうです。
ファッションや音楽と違って、デジタルアーカイブがどうも盛り上がらないのは、「自分のもの感」がないからもあると思うのです。自分と強く紐づく接点をつくりづらいところがある。個性をドンと前に出していくアーカイブというのも、いろいろな人にかかわってもらえるきっかけになる気がします。
渡邉 僕は建築出身なのでなぞらえると、建売の住宅もあれば、建築家がつくった建築もあれば、ゼネコンが建てるビルもあるし、セルフビルドで自分の家を改造したりするものもある。
デジタルアーカイブでは、例えばDNPさんがゼネコンをやられていて、僕は建築家として一点物の仕事をしている。でもセルフビルドで部屋を改造したりする人が、今は少ないということですね。
だから「顔を持たせる」ということと、あとは日常化していくことがたぶん大事だと思います。デジタルアーカイブは僕らの人生と実はこんなに密にかかわっていて、生きることイコールアーカイブすることなんだ、みたいなイメージが浸透していくと、自然にそういう市場ができていくのではないかという気がします。
安藤 ゲームの世界でも、例えば「どうぶつの森」みたいに、自分が住んでいる世界をある程度個性を出してデザインするようなことには慣れてきていると思うんですね。
そのような感じで個々人の情報発信の場をつくっていくことは、道筋さえできれば技術的にもそれほど難しくない。あとは、そうした情報を発信するリスクを軽減していけば、結構顔が見えるものが出てくるのかなと思います。
日常に溶け込むアーカイブへ
前沢 「顔が見える」というのは大賛成ですね。書籍に奥付があるように、デジタルアーカイブにも「デジタル奥付」があるべきだと思います。真実性を確保するために、誰がいつ、どういう目的でつくったものかを、きちんと記録して公開しようみたいな発想ですが、今のお話でいくと、かかわった意義やプライドというか、アニメ作品で言うとスタッフロールみたいなものが必要ということですね。
安藤 実績の証明になりますね。
本間 「あれつくったんだ、かっこいい、うちに来ない」みたいにデジタルアーカイブでスカウトが来たり(笑)。
安形 小学校時代から夏休みの自由研究にデジタルアーカイブをつくりましたと、自然にやるようになっていくとよいですね。
本間 自由研究もいいですが、もう少しファッショナブルでもいいですね。デジタルアーカイブを使って何かをつくって、かっこいいと自慢する。
渡邉 おしゃれを競ったり。
本間 見せびらかしちゃう、みたいなところまでいけると、それこそ音楽やファッションに追いつくと思うんです。
渡邉 「しまうまプリント」って知っていますか。簡単に写真で本がつくれるんです。うちの奥さんは、1年ごとにグーグルフォトにたまっている息子と娘のアーカイブされている写真を本にして親戚に配ったりしている(笑)。
それもたぶんデジタルアーカイブの利活用なんですね。そういうレベルのところから、どんどん小学校とかで授業に取り入れてもらうのがいい。デジタルアーカイブには貴重な資料がたくさんあって、それを使うと面白いものがつくれるんだ、という感覚を味わっておいてもらいたいですね。
僕らがデジタルアーカイブと言っているだけで、たいていの人は概念自体は持っているのかもしれない。
安形 そうですね。
前沢 以前から私は「デジタルアーカイブ甲子園」という夢があるんです。年1回、小中学生が地元の歴史や今の様子をアーカイブしデジタルコンテンツに仕立て上げて発表するみたいな。
元々、小学校の低学年が地域学習の中で近隣のことを調べて発表する教育が行われていますが、その全国版として、地域のデジタルアーカイブをつくり発表する。そういうことが毎年できるといいんじゃないかなと。
渡邉 おらが町の自慢みたいな。
本間 全国合唱コンクールみたいな形式でもいいですね。
渡邉 デジタルアーカイブという呼び方をやめればいいのかも(笑)。
前沢 そうなんです。私も昔からもっといい名前はないかなと思っています。文化財みたいな感じなんですね。
本間 堅苦しいんですよね。
渡邉 せいぜい「ユーチューブ」ぐらいの長さにして。
安形 日常に溶け込む、おしゃれでかっこいいデジタルアーカイブ。どんな名前になるかわかりませんが、今のお話みたいな形で根付いていくと、先が楽しみですね。
私も普段、授業でデジタルアーカイブの話をすると、専門的な人材育成の話やアメリカとの比較をしがちなのですが、もっと日常に溶け込んだ自然な形で、あらゆる人に身近に感じてもらうことがすごく大事だというところを、今日は改めて発見させていただきました。
どうもありがとうございました。
(2024年9月17日、三田キャンパス内で収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2024年11月号
【特集:デジタルアーカイブの展望】
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