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【特集:デジタルアーカイブの展望】
座談会:コミュニケーションを豊かにするアーカイブとは

2024/11/05

対話を促すアーカイブをつくる

安藤 そこが大事ですね。デジタルアーカイブというと、蓄積された情報に基づいて、何らかの研究や問題解決を行う。その利便性のためにやっているところがないわけではないと思うのですが、デジタルアーカイブを便利に効率よくすることで研究や問題解決の道筋が完結してしまうのは良くないと思っています。

先ほど秩序と言いましたが、デジタルアーカイブは、やはりある目的があってつくられる。集められる情報も目的的で、その分類も目的的であり、その構成もディレクトリも皆、目的的なんですね。その目的には活用も当然入っているわけですが、その活用の仕方が画一的になってしまうと、そこから外れていかないんですね。

それを外す、秩序の外側にあるものに気付くようにするにはどうしたらいいのかというと、目的外の余計な情報を入れるとか、あるいは現地や現物に触れてみたくなるように誘うとか、人と人との対話へと導いていくとかいったことが考えられると思います。

これは僕の理想で実現できているわけではないのですが、デジタルアーカイブを使うことで、その場所やモノへの関心が喚起され、現地や現物にアクセスしたくなってくるということを目指したいと思っています。現地や現物はいろいろな見方、考え方ができ、それらが交錯するところでもあるので、そこに対話が生み出されていくと思うのです。

その対話を通して何か1つの結論を導くというのではなく、戦争などは特にそうなのですが、いろいろな見方があって、相容れないものも存在する。でもそれは共存していかなければいけないものであって、分断ではなく対話をしていくことにこそ意味がある。

モノや場所を通して様々な見方や考え方に触れ、人と人との間に対話が生まれるような機会を少しずつでもつくっていくことにつなげられれば、それもデジタルアーカイブというものの1つの大きな役割になっていくのかなと考えています。

安形 デジタルアーカイブが対話を促す、というのは理想の姿だと思います。それをデジタルな場で実現しようとすると、どんな感じになるのでしょうか。

安藤 講演会とかワークショップ、あとは、遺跡の調査や見学会だったり、そうした場で対話は自然と生み出されてきます。デジタルアーカイブでまずそういう場に誘うということが大切ではないかと思います。

もう1つ、僕は、例えばSNSなどでいろいろな意見が交わされることも、対話への入口になるだろうと思っているんです。SNSはどうしても対立的、分断的になったり、1つの意見が接続の可能性がないような状態で垂れ流されてしまうことがありますが、何とか工夫をすれば、SNSを使った対話の拡充・拡大ということも、決して不可能ではないとは思います。

渡邉 とても共感する意見です。カラー化した写真はSNS上で結構触媒になっているのです。例えば、8月9日にアップロードした長崎原爆のキノコ雲のカラー化写真には、非常に多くのリプライがつくんですね。

私はこう感じたとか、私の祖母は被爆したとか。そのうちリプライした人同士で議論が始まって、現状の日本の核政策はどうだとか、核保有国についてどう思うかみたいな対話が始まったり、時にはカラー化をやめろという突っ込みが来る(笑)。

SNSは普段は文字のみでやり取りをしているからあまり対話が成立せず、言いっ放しになるのですが、触媒になるようなデジタルアーカイブ素材の1つを挟むと、急に皆さん対話モードになるということはありますね。

新しいコミュニケーションデザイン

本間 一方で、SNSを中心としたコミュニケーションの速度をスローダウンさせたいという気持ちもあります。SNSはデジタルアーカイブの持っている時間軸に対して速すぎるのではないかという身体感覚があるのです。

例えばデジタルアーカイブをきっかけにどこかに行って皆で話したとか、デジタル上では見えてこないコミュニケーションが、外部で起こっているんだということが、もっと可視化されるといいなと思っています。

渡邉 皆、SNSだけで会話をしてしまいますからね(笑)。

本間 そうなんです。ほかにも、通話をしたり、手紙を回したり、お茶を飲んでだべったりしているでしょう、と思うのに、そういうものはやはりデジタルアーカイブの周辺ではなかなか見えてこないのですね。

安形 SNS上で見たことをきっかけにして、実際にその場所に足を運んでみようという動きが自然にできていくと、いいのでしょうね。

安藤 例えばSNSでどんどん発信されていく短い文章を拾い上げてアーカイブに反映させていくことを、コーディネーター側がやるというのは、参加の意識をつくっていく1つの方向になると思います。

反応や違った意見を拾い上げてつなげていくことを、デジタルアーカイブをつくる側が何らかの形でやっていく。そうすると、SNSに出てくる言葉がある意味有機的に結びついていって、対話の場になっていくことはあるかもしれないなと思います。

渡邉 こういう感じでしょうか。これは2011年3月11日の震災発生時から24時間の全ツイートを集めて僕がつくったマップ(東日本大震災ツイートマッピング)です。1つ1つのツイートは大したことは書いていないんですが、全体としてみると、そのとき皆はどんなことを感じ、どんな行動をとったかが見えてくる。

今、安藤さんが言われたような試みはNHKさんがやっていて、毎年3月になると、このマップのうちの1人を特定して、インタビューをしているようです。垂れ流したままだと刹那的なコミュニケーションで流れ去ってしまうのですが、こうしてストックしておくと、遡ってそのときの気持ちについてゆっくり思い返すこともできます。

本間 ストック型コミュニケーションみたいな感じですね。新しいコミュニケーションデザインがデジタルアーカイブのコンテンツを起点に生まれてくると、とても面白そうな気がします。

安藤 あとはやはりフィードバックなんでしょうね。なかなか双方向のコミュニケーションはできないですね。フェイスブックやメールで何でも意見を言ってくださいと言っても本当にわずかしか来ない。情報提供ももっとたくさんほしいなと思いますが、なかなかほしいところには来ないで要らないところにはたくさん来ます(笑)。

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