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【特集:科学技術と社会的課題】
吉永 京子:EUのAI法と新興技術規制への視点

2024/08/05

相互運用性(Interoperability)の確保はどうするか

さて、各国のAI規制がバラバラだとその相互運用性を図るためにはどうすればよいかが論点となる。国際社会においては、各国が抱える事情やテクノロジーの進歩の度合いも違いすぎるため、法的拘束力があるハードローでの合意形成は難しい。そうなると、大枠の部分で「原則」(Principles)という形での合意、すなわちソフトローでの合意しか図れない。しかしながら、国際会議で議論していると、ハードローかソフトローかはあまり関係なく、似たようなものになってきていると感じる。実際、どの国も人間中心のAIや安全性、公平性、透明性、アカウンタビリティの原則を謳っている。また、ISOによるテクニカルな標準化も進んでいる。

GPAIでは、実践的なことを話し合い、様々なプロジェクトを通じて国や企業が参照しやすい提言や資料やベストプラクティスを作っている。日本の官公庁もGPAIの動きを注視・支援しており、それをG7やOECDの場でも共有・議論しているため、相互に影響を及ぼし合っていると言える。GPAIにはグローバルサウスの参加者も日々議論している。さらに、広島AIプロセスフレンズ・グループという枠組みもでき、EUを含む53の国・地域が参加している(2024年6月現在)。

このように、国際組織が相互に影響し合って、コンセンサスの形成に努めている。なお、グローバルサウスと呼ばれる国々は、特に、AIによって仕事を奪われることやAIへのアクセス(AIを実際に使えるか)を懸念している。テクノロジー先進国は、発展途上国の視点にも立ったルールづくりが必要となる。ただ、結局、AIのルール規制の実権を握るのは、AIのテクノロジーが先行している国である。技術面で競争優位に立てなければ、他国のルールをそのまま押しつけられる形になってしまうのである。

汎用型AIの規制

さて、これまでのAIは、特定のタスクを行う「狭いAI」または「弱いAI」と呼ばれており、予め定義された環境内で動作するためにラベル付けされたデータセットで訓練されているのである程度予測できたが、大規模言語モデル(LLM)であるChatGPT等の生成AIの登場は、幅広い知的タスクを行う「強いAI」と呼ばれる汎用型AI(AGI)に向けてかなり前進し、人々にとって身近なものとなった。ハルシネーション(誤情報)、プライバシー、知的財産権、バイアス、ディープフェイクなど様々な問題があるが、汎用型AIが進むとサイバー犯罪への利用や、究極的には人類の滅亡につながる懸念も広がりつつある。

そこでEUでは科学者たちが、AIシステムをその意図された目的に応じてハイリスクかどうかを分類するアプローチは、汎用目的AIシステム(基盤モデル)に対して抜け穴を作ることになると警告をし、Future of Life Institute等も同システムをAI法の中に組み込むべきだとし、「汎用目的AI」(General Purpose AI; この略称もGPAIなので前述の組織名と同じで混乱するが)という別立ての章ができた。すなわち、GPAIモデル提供者は技術文書・仕様手順書の提供や、EU著作権指令を遵守し、事前学習に使用されたコンテンツの要約の公開、システミックリスクがあるGPAIモデル提供者はモデル評価、敵対的テストの実施、重大なインシデントの追跡および報告、サイバーセキュリティ保護の確保等の義務を負う(ただし、市場投入前のR&D目的のモデルは対象外)。これは我が国においても参考になる。(注:もっとも生成AI等のGPAI=AGIではなく、AGIに向けた一歩に過ぎないところは注意が必要)

米国は連邦レベルでは汎用型AIモデルについての規制はまだない。生成AIのリスクへの対応策に関してはNISTがガイダンスとして2024年4月29日付で「AIRMS Generative AI Profile」案を出している。

一方、汎用型AIによるリスクへの対応も含め、安心安全なAIの開発・利活用のために、AI Safety Institute が続々と設立されている。英国、米国に次いで、日本は2024年2月に設立し、さらに、カナダ、インドでも検討が進められているという(2024年6月現在)。ここではAIの安全性に関する評価手法や基準の検討・推進を行っているが、互いに連携することで、前述の相互運用性問題の解消にも貢献することが期待される。(フランスは、GPAI(組織)の支援センターでもあるInria(デジタルサイエンス及びテクノロジーの国立研究所)が英国のAI Safety Instituteと2024年2月に連携している)

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