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【特集:科学技術と社会的課題】
吉永 京子:EUのAI法と新興技術規制への視点

2024/08/05

その他諸外国の動向

さて、海外に目を向けると、英国も日本と同様、自主規制を中心にセクターごとの対応をしている。また、AIスタートアップが多いイスラエルも既存の法律で対応できるところが多いとして、所管官庁の介入の必要があればソフトローのアプローチやモジュール実験等を通じてAIの文脈特有のリスクと変化の速さに対応する必要性のバランスをとりながらセクターごとに対応を行うというスタンスである。シンガポールも包括的な規制としてはソフトローを中心において、ガバナンスと技術評価を行うためのツール(AI Verify toolkit)を提供している。

一方、包括的にAIを規制するアプローチとしてハードローを採っているのは現在、EUだけであるが、カナダ、韓国、ブラジルにおいては、AIを包括的に規制する法案が出ている。中国は科学技術研究全般についてはAIの全ライフサイクルに倫理を統合するための自主的な原則とガイドラインを導入し、特定の種類のAI(レコメンダーシステムやディープシンセシス技術、生成AI)にはハードローの規制をしている。(上記国の詳細はCEIMIAのA Comparative Framework for AI Regulatory policy [PDF]のレポートを参照。筆者も第2弾のレポートのアドバイザーをしている)

規制の方法

ハードローにするか、ソフトローにするかは各国それぞれだが、どれがよいというわけではない。また、実はあまり差異はない(理由は後述)。それぞれの国が抱える事情は様々で、経済状況、文化的背景や法文化、既存法の存在(例えば、個人情報保護法、民法、刑法などの規定)、企業文化も異なるため、その国に合った方策を取るのがよい。

日本の場合は、既にそうなっているように、包括的なAIを規制する手段としてはまず法的拘束力がないソフトロー(ガイドライン)で始めて、個別分野で必要に応じてハードロー(法律)で規制をするのがよいと思われる。ソフトローといっても連邦レベルで包括的な個人情報保護法がない米国と違い、しっかりした個人情報保護法もある上(日本は経済を重視する米国と人権を重視するEUの中間くらいに位置していたが、EUのGDPR以降は日本もかなりGDPRに寄せて法改正をしている)、日本はもともと社会的制裁が強い上に、企業はコンプライアンス意識が高いからである。日本のIT関連政策や法制度改正の委員会では事業者も委員にすることが多いため、守らなければならないという一定のインセンティブが働くが、法的拘束力がなくとも国からガイドラインが出されれば、大半の企業は真面目に取り組もうとする。よく海外の関係者からは、「日本はいいよね。うちの国だったら法的拘束力がなければ、誰も従わない」という話を聞く。

個人情報保護の状況をみても、日本では、企業が個人情報を漏洩したことが報道されると、たちまちその企業のレピュテーションまで下がる。そのため、日本の企業は個人情報保護法対応にナーバスになり、対策を行っている。日本では、特に上場した企業だと、少しでもリスクがあるとそれを回避し、チャレンジしない傾向がある。そのため、日本でいきなりAIを包括的に法律で規制すると、誰もAIの開発をしたがらなくなるだろう。そうするとイノベーションも進まず、日本の国際競争力は落ち、経済にも悪影響を及ぼすだろう。日本は特に少子高齢化による労働力の減少が深刻であるため、AIを上手に活用していかなければならない。また、AIのリスクについても日本の既存の法律で対応できるところも多い。

もっとも、技術の進行に合わせて、厳しく規制しなければならない分野もある。軍事面や政府のAI利活用の場面や、汎用型人工知能(AGI)等AIが次のステップに進めば、規制が必要になる。また、企業がAI事業者ガイドラインに従わず、好き勝手に開発・利活用をすることが多くなり実際に人々や社会に悪影響を及ぼすようになれば、規制もやむを得ない。

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