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【特集:エネルギー安全保障を考える】
座談会:エネルギーから見えてくる国際政治のゆくえ

2024/02/05

次世代エネルギー政策への懸念

田中 油価の上昇についてですが、近年、油価自体はそんなに極端に上振れしていない。名目的には上がっても90ドルぐらいで、低い時は60ドル台で動いている。だから、今の日本国内で消費者が感じるガソリン価格の高騰は、油価の影響よりもむしろ円安の影響のほうが大きいのです。

白鳥さんがおっしゃった次世代のエネルギーとしてのアンモニア、水素ですが、GX(グリーントランスフォーメーション)の下で、これを拡大していくという方針はわかるのです。しかし、安全保障三文書を読んで私が愕然としたのは、ブルーアンモニアであれ、ブルー水素であれ、次世代のエネルギー媒体を結局、外から輸入することが中心になっていることです。ということは、中東から引き続き輸入する蓋然性が高いことになる。安全保障という観点に戻すと非常に懸念される部分です。

もちろん、中東とのパートナーシップをいろいろな形で技術的にも進めようとしていますが、石油を使わなくなっても結局日本は相変わらず中東依存を続けていくことになるので、長い間議論してきた、「脱中東」という題目が全く果たせないまま、エネルギーの新時代を迎えることになります。この点はGXと同時並行で考えようがなかったのかと気になったところですね。。

それは同時に、長大なシーレーンがそのまま残ることになりますから、備えとして、結局アメリカに頼ることに当然なるし、いつまで経ってもエネルギー自給率は上がらない。一体どこに日本のエネルギー政策は向かっているのかと時々心配になります。

竹原 私も、再生可能エネルギー由来のグリーン水素について、中国やインドのように、日本でも自国でまかなうことができればよいと思っていたのですが、日本の再エネの発電コストが高過ぎるようですね。例えば今、ガソリン価格は、補助金が入ってリッター160円程度ですが、もし国産の水素、アンモニアで合成燃料をつくって、ガソリンスタンドで給油した場合、600円か700円ぐらいになると聞きます。消費者が受け入れ可能な価格ではなく、政府補助にも限界があります。

一方、中東やアメリカは原料コストが安いので、船で運んできても、日本の国産の水素やアンモニアより残念ながら製造コストが安くなるという現実があります。

ガソリン・軽油税の見直しや再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)が全額減免されて水素とかアンモニアを使うといった優遇策を取れば、日本のグリーン水素にも道は残されているという話は、エネルギー業界関係者の話題に出ます。しかし、今の賦課金がついたままの再エネで使った水素、アンモニアでは、現実的ではない価格のものしか市場に出てこない。だから、海外から輸入せざるを得ないという、ある意味悲しい現実的な政策を、エネルギー政策は取らざるを得ないと理解しています。

エネルギーシフトが進む中での課題

宮岡 今のお話を聞いていますと、日本はこのままエネルギー小国であり続ける。そして海外に依存し続けるということになりますね。

なかなか厳しい現実が目の前にあるのですが、最後に、いろいろな制約がある中、これからの日本のエネルギー安全保障政策として、どういう方向性があるのでしょうか。

白鳥 やはり補助金も含めてエネルギーの関係でどれぐらい国民が負担をしているのか。その数字をしっかり出して議論すべきだと思います。

ガソリンをはじめとした燃料補助金は政策的なメッセージとして、化石燃料をもっと使ってください、ということになる。つまり、エネルギーシフトはしなくていいですよ、というメッセージです。にもかかわらず、他方でエネルギーシフトはするのだと、再エネ賦課金も国民に課す。これはアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状況です。だから、国民がよくわからないままにものすごく多くの負担をしているのですが、このあたりが理解されていないし、政策的な整合性もない。

実は様々なコストを払っているのに、それが国民的な議論にならないままに決まってしまっているのが非常に大きな問題です。前提としてのエネルギーリテラシーも十分ではない。ガソリン価格が高騰すると政治がすぐお金を出すような状況で、再エネで水素をやるようなエネルギー政策に本当に移行できるのかと思います。

2つ目は、継続的な関心をいかに保つかということです。石油に関しては原油価格が下がった時に備蓄をさらに増やすといったこともできるはずです。エネルギー危機が去って価格が下がるとお金がつかなくなることを繰り返すのではだめです。

そして最後に、今後も日本は資源小国であり続け、かつ世界の主要国の中でも異例なほどエネルギー自給率が低い。このことは、エネルギーの問題はすなわち国際問題として考えなければいけないということです。

こうした構造が、すぐ変わることはない以上、世界ができるだけ安定し、国際市場が保たれている状況が日本の繁栄に直結していることを意識し、国際秩序の維持管理に日本は関わっていくことが必要です。より広い外交政策の根本に、エネルギーをめぐる日本の立場があるのだ、ということをメッセージとして伝えたいと思います。

竹原 エネルギーシフトが進む中、中東などの資源国との新しい付き合い方が必要になってきていると思います。エネルギー資源が石油、ガスだけではなくなっても日本は結局海外に依存しなければならない。

供給側も今までみたいに、お金を払えばいいということではなく、どうやってクリーン、低排出のエネルギーにするかといった悩みがあり、一方で日本はバーゲニングパワーが落ちてきている現実がある。

でも、私たちはこれまでの知見を活用し、新しいエネルギーのトップランナーとしての消費国になり得ると思うので、資源国側と新たなエネルギー外交やパートナーシップを築いていくことが大事かと思っています。

あとは、原子力も含めた既存の私たちの持っているエネルギーリソース、設備の有効活用も行うべきと考えます。今あるものも大事にしつつ、新しい資源に現実的な移行をしていく流れができたらいいと思います。

田中 私は2点です。1つは原理的なことですが、エネルギーというのはバランスが大事であって、物理的にも化学的にも様々な質量や熱量が保存されたりするわけですから、結局メリットばかりのエネルギーはないのです。必ずエミッションや放射性廃棄物が発生しますので、何かを過剰に追求すると、全体の構造が破綻してしまう。そういうバランスの下に成り立っているということを踏まえて、あまり「夢のエネルギー」という夢を追いかけないほうがいい、というのが私の考えです。

それを受けて2点目なのですが、今、経産省がマクロ政策で、「Sプラス3E」(安全性(Safety)、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment))という言葉を使っています。もともと3Eしかなかったのが、福島第一原発の事故が起きてSを足したのです。

3Eから始まったことに異論はないのですが、随分長い間使われている。その間、それこそ再エネの導入も始まり、より多方面に対して配慮、調整をしなければいけなくなっている中、果たして「Sプラス3E」だけで足りるのかと私は問いたいのです。

それで「4SA2E」というものを提唱しています。Safety、Security、Stability、Sustainability( 継続性)、Affordability(購買可能性)、Efficiency(効率性)とEnvironment です。このあたりまで入れないと、今のマクロエネルギー政策はケアできないのではないか。これは国内でもまだ相手にされていないのですが(笑)。

竹原 ちょっと長いかもしれない(笑)。でも、IEAと日本の概念を足した、全部必要な要素だと思いますね。

宮岡 今日は貴重なお話を伺い、本当に勉強になりました。この座談会の記事を多くの読者に読んでもらって、エネルギー安全保障の重要性や新しいトレンドを知った上で、日本が目指すべき方向性を考えてもらうことで、日本のエネルギー安全保障のレベルは上がっていくのではないかと思います。

また、今日いらっしゃった方々には引き続き発信していただきまして、日本のエネルギー安全保障政策の質を上げる原動力になっていただければと感じました。本日は長時間有り難うございました。

(2023年12月22日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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