【特集:国際秩序のゆくえ】
白鳥潤一郎:「三重苦」に直面する日本のエネルギー安全保障
2022/07/05
エネルギー・シフトに伴う混乱
2020年10月、菅義偉首相は所信表明演説で2050年に温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする「カーボン・ニュートラル」の実現を目指すと表明した。気候変動問題が深刻化する中で、2015年に採択されたパリ協定等をふまえ、日本としても一歩踏み込んだ形である。
とはいえ、再生可能エネルギーを軸にしたエネルギー・シフトが模索される中で、化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトは、全世界的に見ても多大な困難が伴うことは確認しておくべきである。
二度の石油危機や、ロシアのウクライナ侵攻後の状況が示しているように、エネルギー資源をめぐる問題は国際関係に緊張をもたらしてきた。再生可能エネルギーに期待する人々の間では、エネルギー・シフトによってこうした緊張が過去のものになると主張する向きもあるが、少なくともその過程では様々な混乱が生じることも指摘されている。
エネルギー・シフトが声高に叫ばれる中で、石油や天然ガスといった化石燃料の上流部門に対する投資は停滞している。ここに2010年代半ばの資源価格急落も加わり、2021年にヨーロッパを中心にエネルギー価格は急騰した(天然ガスは、2020年にも需給が逼迫する可能性が指摘されていたが、コロナ禍によって危機が一年先送りされた形となった)。おそらくは、グローバル市場が発達していない天然ガスへの過度な依存の影響が大きい。
日本でも、2022年3月22日に「電力需給逼迫警報」が東京電力管内で発出されたように、電力危機が現実のものになりつつある。今夏と今冬は相当に厳しい状況となるだろう。その理由は複合的なものだが、原発の本格的な再稼働の可能性を残すために再生可能エネルギーへのシフトを躊躇するような送電政策の一方で、気候変動対策の観点から火力発電への投資意欲を減退させる政策を採るという、結果としてブレーキを二重に踏む形になった政府の対応にも原因がある。
ヨーロッパも日本も、それぞれに政策の誤りの結果と言えるが、石炭から石油へのエネルギー革命と同様に、再生可能エネルギーへの新・エネルギー革命がもたらすだろう様々な混乱の序曲と考えるべきであろう。
誤解のないように付言すれば、エネルギー・シフトを進めるべきではないということではない。エネルギー・シフトを円滑に進めるためにも、その過程で生じる新たなリスクや課題を認識しなければならないのである。
2022年7月号
【特集:国際秩序のゆくえ】
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