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【特集:SDGs時代の企業の社会性】
座談会:サステナブルな経営に欠かせない企業の社会性とは

2022/06/06

SDGs時代に企業に向けられる視線

岡本 振り返ってみると企業の社会的責任というのは、最初は1960、70年代の高度成長期に公害問題が出てきた時に注目されました。

次にバブルの頃にメセナやフィランソロピーという言葉が流行り、これはいわゆる社会貢献と言っていました。これも社会的責任の1つだと思います。それから2000年代に入り、CSRという言葉が出てきました。

CSRは日本語にすると企業の社会的責任ですが、どうも近年、その内容が変わってきているのではないかという気がしています。SDGs時代になり、CSRが果たして変化しているのか、あるいは、何かが変化させようとしているのか。そのあたりはいかがでしょうか。

茂木 実は、うちの会社はあまりCSRやメセナということには踊らなかった部分があります。CSRという言葉が出てきた当時、うちがやっているのはCSRではない、昔からずっとやっていることなんだと言っていました。

ちょっと別の視点になってしまうかもしれませんが、SDGsが出てきたことで、企業として取り組むべき社会的課題のアジェンダがより明確になってきたと思うことはあります。

アメリカやヨーロッパの経営者と話すと、SDGsはチャンスなのだと言う。社会的な問題があるのだから、課題解決のソリューションを提供すれば儲かるという視点なのです。SDGsは、何かをやってはいけないということではなく、何かいいことをする、「Doを後押しする」仕組みになっていると言うのです。そういう意味では、欧米の経営者のほうが自然な受け止め方をしているという感じがします。

私どもは消費者の方を対象としてキッコーマンというブランドで商売していますが、アメリカではミレニアル世代やジェネレーションZと言われている若い世代の人たちは、企業が社会課題の解決に真摯に取り組んでいるかどうかを非常によく見ていて、とても意識が高い。

アメリカ、ヨーロッパでは、そういう取り組みをきちんとしている企業は選ばれる企業であって、そうでない企業は無視される。彼らが例えば投資先として、また就職先として、またはサービスや商品を買う際の選択の1つの尺度になってきていると思います。

日本ではまだちょっと違う気がしますが、欧米でのビジネスではそこは真摯に取り組んでいかないと置いていかれてしまう、ブランドが陳腐化してしまうという危機感があります。

小沼 「ブランドが陳腐化する」というのはわかりやすい表現ですね。つまり、やらないことによる負のコストがあるということですよね。

茂木 そうですね。

小沼 そこが1つ論理的な説明になっているのだろうなと思います。企業風土は海外でも場所によって異なっていて、欧米でもイタリアは日本と同様にオーナー系の会社が多かったりします。しかし、投資によってブランドを維持する、あるいは陳腐化を防ぐ、といったことを論理的に説明することを社会が望んでいる傾向はどこでも出てきているのかと感じます。

茂木 環境問題にしても、少し前までは経営者の皆さんはコストだと思っていましたが、今は本心から言っているかは別にして、「これは投資なのだ」とおっしゃる方が増えてきている。私どももアメリカやヨーロッパのビジネスが大きいので、これは投資だという意識は強くあります。

また、この先を考えると非財務情報の開示ということで、SDGs関連の開示が求められるものが増えてくると思いますし、そのあたりは企業として積極的に開示していくことが重要になってくると思っています。

Z世代の消費行動

村田 茂木さんがおっしゃったジェネレーションZですが、日本も実は面白いデータがあります。「Z世代」は生まれた時からインターネットに囲まれ、ある意味、フェイクニュースが溢れている中で育ってきている。すると、何が正しいのかという時の1つの尺度として、有り難い話ですが百貨店は信用できるモノを扱っている、として選ばれるのです。

Z世代は、ブランドを買うにしても百貨店に敷居の高さを感じない世代であるようです。そういう傾向は日本でも現れていて、われわれもSNSや情報発信のマーケティングをやると「Z」の方の割合が意外に高いという傾向があります。

岡本 若い世代が敷居を感じないというのは面白いですね。

村田 昔は百貨店に行くならちゃんとしたものを着ていかなければ、という感じがありましたが、Zの方はカジュアルに店に来て、いいものがあって間違いなければそこで買うという、割り切った消費行動をされています。

世界でも4分の1がZ世代になってきていますから、次のステージはそうした人々に響くことをきちんとやっていけば、結果としてSDGsの項目にも当てはまっていくのだと思います。

岡本 それは日本だけではなくて海外でも同じですか。

村田 同じです。うちはASEAN・中国の4店舗しかありませんが、そこでもそういう意識は高いです。

また、当社は衣料品の再生もやっていますが、これはコストがかかります。回収しても百貨店ではリサイクルできませんから、取引先の方にお金を払って持っていってもらうわけです。

特にわれわれは完全なサーキュラーエコノミーとして循環し続けるケミカルリサイクルといわれるものを再生素材の1つとして取り扱っているため、まだ原材料費が高いのです。それに加えて回収コストがかかると、それでもやるという理由を社内に説明していかなければいけません。

実際にそれを売ったり回収するのは従業員ですから、従業員にそこまでやる意義を徹底していくかが今の課題です。まだまだ儲からないのでコストとして認識せざるを得ないのですが、でもそれは投資なんだということを言い続けなければいけません。今はそういった過渡期にあると思います。

岡本 全部がコストだけれど、将来に対する投資だと捉えていくと、それが長い目で社会性につながっているということですね。

若い世代の投資意識

小沼 若い世代はSDGsの意識が高いですよね。加えて、私は東証で金融リテラシー推進業務も担当していますが、コロナ下で若者の株式投資や資産形成に対する意識もすごく高まっています。一部のオンライン証券さんの口座はものすごく伸びてきています。

いろいろなリスクが高まる中で、きちんと自分事として資産形成やライフプランを考えていくという意識が高まってきたのが大きいのではと思います。さらにこの4月から成年年齢が18歳に引き下げになり、学校教育の中でも学生指導要領の中に金融経済教育が盛り込まれました。

もう1つ、資産形成だけではなくて、少額でも株主になって好きな会社を応援するという「共感投資」がZ世代の人たちには増えてきています。これもまた1つ大きな変化なのかなと感じています。われわれとしては若い人たちの今後に期待しているし、それに見合うだけのしっかりとした情報発信をしなければいけないと思っています。

中高生や大学生向け、あるいは会社の中でDC(確定拠出年金)が一般化してきて、それを導入すると入社10年目、20年目に定期的な職員の福利厚生のメカニズムとして、しっかり人事部の人が社員に研修をすることも義務付けられています。そういうものにも取引所として人を派遣してお手伝いしていこうとしています。

村田 コロナ禍を経て若い世代の消費行動が資産形成的な消費に向いていることも感じますね。

昔は衣服のように、使用したとたんに価値が落ちていくものが好んで消費されていましたが、今は時計や不動産、アート作品といった、価値が目減りしないものに消費、つまり投資をしていく傾向がある。若い方も将来に残っていくものに志向が向いているようなのです。

高額な時計が中間層にとにかくよく売れています。われわれは資産形成型投資と言っていますが、そういう傾向が非常にあると思います。

岡本 若い人の消費行動も変わってきているということですね。

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