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【特集:SDGs時代の企業の社会性】
座談会:サステナブルな経営に欠かせない企業の社会性とは

2022/06/06

SDGs経営のステップ

岡本 では渡辺さん、コンサルタントという立場からお願いします。

渡辺 私はコンサルタントとして、上場企業がSDGs経営を推進するのをサポートし、社会がより豊かなものになっていくことをお手伝いしています。

SDGsを経営戦略にどう融合すればよいかがわからない、あるいは、SDGsを含めた非財務情報を投資家にどう説明すればよいかがわからない会社が多いのは事実だと思います。

そこで私の会社では、経営学の理論、統計データ解析、現場へのインタビューに基づき、企業が自信を持って進めていける、その企業ならではのSDGs経営をコンサルタントとして助言しています。また、投資家向けIR戦略として、自社の長期的な発展を支えてくれる株主づくりにつながる情報発信をコンサルティングしています。

岡本 やはり企業によって、だいぶ理解が違うという感覚がありますか。

渡辺 はい、企業によってSDGs経営の理解は異なります。そこで理解度に合わせたサポートが必要になります。まず重要なのはゴールを確認することです。企業の目的は長期的に維持発展していくことです。売り上げが伸びて儲かって、しかも社会的に良い会社であることが必要です。

ゴールへの道筋であるSDGs経営は3段階に整理できます。

第1段階は「スタート」です。会社が大事にしている社是、経営理念、ビジョンを明確にし、経営トップがSDGs経営を決意し、全体的な経営方針を決定し、組織に方針を浸透させます。

第2段階は「SDGs戦略」です。経営方針に基づき、経営戦略として、長期10年の戦略、中期5年計画の中で、SDGsや社会性の視点で何に取り組んでいくかを定めます。有価証券報告書の中でも投資家は長期戦略や中期計画をすごくよく見ています。小沼さんから有価証券報告書の法定開示の中に、こういったことが盛り込まれていくというお話がありましたが、社会性、SDGsの視点を経営戦略にどう融合していくかはとても大事です。

SDGs戦略では、SDGsに取り組む基本方針と推進体制も構築します。もちろん、ステークホルダーである従業員、地域社会、環境、株主との関係を強化する具体的な取り組みも含まれます。重要性が高まっている健康は、従業員と地域社会で改善させるのが企業の役割です。そのうえで非財務情報の開示を強化するのです。

第3段階は「競争力の強化」です。SDGs戦略が絵に描いた餅にならないよう、実際に競争力の強化に結び付けることが重要です。

各社の状況を整理すると、第1段階はほとんどの会社ができています。しかし第2、第3段階までできている会社は少ない。経営戦略にSDGsの視点を融合するプロセス、競争力に具体化する手法は、皆さんが悩んでいるところではないかと思います。

岡本 収益性と成長性、つまり儲けて伸びていくことは会社にとって非常に重要なことです。しかし、私は現代の特に大企業は社会的影響力がすごく大きいので、自分だけが儲かって伸びているのでは駄目だと思うのです。そこでもう1つそこに加えて、社会性を並べておいたほうがいいわけです。

儲けて伸びていくという戦略はどの会社ももちろんある。でも社会性も重要だということを皆、わかってはいるけれど、それが、会社の経営とどういう関係になっているか、きちんと経営戦略としてつながっているかということは、どうも怪しいところが多いのではないかと思っています。

髙島屋さんとキッコーマンさんは、そこがつながっているので、できている企業はそれでいいのですが、できていない企業も多数あるのではないかという気はします。

収益性と長期的な投資

小沼 すごくよくわかります。やはり皆さん悩まれていますよね。

昨事業年度で8兆円の自社株買いがあったということです。もちろん自社株買いを戦略的にやられるのもいいことだとは思いますが、投資家にお金を返すだけではなく、より積極果敢な投資を会社がきちんとしているのかという観点も大事かと思います。

どうしてもサステナビリティの対応というと、目の前の数年のコストがかさんでしまって収益性が下がるのではないかという懸念がありそうです。今ここで投資しておくと、5年、10年のタームで、安定した成長がその先にくるかもしれないものの、自信がなく、既存の株主や他のステークホルダーに説明しきれないということで皆さん悩まれているのかなと思います。そこを一歩踏み込めれば、とても良くなると思うのですが。

渡辺 株式市場で変化を感じます。アナリストの関心は以前、1カ月先のニュースフロー、3カ月先の4半期業績が中心でした。最近は1~3年後に会社はどうなるかという話が増えてきました。投資家による企業評価の時間軸はもっと長くなって欲しいと思います。

長期で会社を応援してくれる株主づくりを会社は強化すべきです。財務戦略と連動させ、5~10年タームで強みを発揮し、社会を良くすることをアピールする。将来の事業機会の獲得とリスクの軽減につながるからです。研究開発、地域社会との関係強化、従業員の健康改善などをやらないと、時代の変化を乗り切れないことを、社長はパッションを持って説明すべきです。

小沼 製薬会社のエーザイがアフリカに無料で風土病を治す薬を何億錠と配っているそうですが、それは1~2年タームでは全然儲からない。でも、10年後のROE(自己資本利益率)がどうやってプラスに転じるかというシミュレーションをいろいろなデータを駆使して、自信を持って説明されています。

そういう説明によって外国の投資家の方たちが、「わかった。信じて投資しよう」ということになるのだと思います。

社会性と収益性の関係

岡本 収益性、成長性、社会性の中で、収益性が短期的な目標で成長性が中長期的な話、社会性は長期、あるいは私は超長期と呼んでいますが、そう簡単にすぐリターンはない、だけど長い目で見ると、戻ってくるという考えがあると思うのです。

村田 成長性と収益性はある意味、計量的なもので数値化できます。一方、社会性は定性的なものですね。持続できない経営は意味がないというのは、その通りだと思います。

岡本さんに質問なのですが、われわれは、まず企業である以上はきちんと利益を出していかなければいけないと思うのですが、社会性がある企業はより成長する、収益力があるという相関を学術的に測る方法はどのようにあるのでしょうか。

岡本 学会でこうだという決まったものはありませんが、私は個人的にはやっています。まずトップが社会性の何たるかを理解していないものは実現しないと思います。そういう意味で、社長に話を伺って、そこの会社はどのぐらい力を入れているのかインタビューする方法が1つです。

それからインタビューだと数が少なくて計量的に測れないので、アンケートを採り、その回答を大数観察で分析しています。30年ぐらい前にアンケートを行っているのですが、その時にどう答えたか、その企業がその後、どのくらい儲かって伸びたかどうかを計算すると、明らかに90年代にすでに社会性のある活動をやっていた企業は、利益率も成長性も高いのです。サンプルは少ないですが200社ぐらいで見ると、結果が見えてきます。

村田 なるほど。有り難うございます。

渡辺 岡本さんの研究では社会性がより重要になる局面があって、業績が回復する時には社会性がより重要だということでした。

例えば、今は百貨店業界がコロナ禍で赤字だから、再生を図りたい。そういう時には社会性がすごく効果があるのだと思います。

岡本 その通りです。社会性だけでずっと儲かることはあり得ません。でも社会性がないと逆にピンチの時に消費者、投資家、あるいは地域社会の皆さまからも支持は得られなくなっていきます。そうするとその企業は存続できないことにつながるので、そういう時にこそ必要になりますね。

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