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【特集:大学のミュージアム】
座談会:新たな可能性に挑む大学ミュージアム

2021/04/05

学問を開いていくためのコレクション

松田 ミュージアムとライブラリーの連携は、KeMCoもこれから積極的に進めたいことの1つです。保坂さん、パブリックなお立場からお願いいたします。

保坂 前任の東京国立近代美術館は、日本の近代以降の美術史を辿れるコレクションをつくるという、一種の壮大な使命があり、それに基づいて作品を探し、選んで、収蔵していました。

滋賀の場合はやはりそのエリアの中の文化財を中心に集めていくんですが、それは何のためにやっているかというと、1つは地域の人々が自分たちの地域に対して愛着なりプライドなりを持てるようにするためなんですね。それは掘り起こしとか新しい歴史を加えることを含めてやっています。

例えばアール・ブリュットを滋賀が今収集しているのは、滋賀が他の県に先駆けてその作品の価値を認めていったという歴史があるからです。

そうした国や県の事例を踏まえた上で大学ミュージアムのコレクションビルディングにはどんなポリシーがありえるんだろうと考えると、先ほどの京都工繊の話がすごく参考になります。京都の伝統産業の近代化をめぐる資料というだけでは、国公立のミュージアムの範疇だとも言えますが、それをもとにして科学と芸術とを結びつける企画をされているということでした。それは言い換えれば、資料を基軸にして学問同士がつながり、その結果、学問が開かれていくということだと思います。

これは国公立のミュージアムではなかなかできないことですし、こうした前提に立つならば、KeMCoがやろうとしている、大学の中にあるコレクションを、コモンズとして考えていくやり方もいよいよ輝くのだと思います。

資料をコモンズとして活用するというのは、結構すごいことです。ミュージアムというのは自分たちが持っている資料を研究、解釈して展示をしていくわけですが、その結果いろいろな意味でその資料の価値は高まっていきます。そうすると、どうしたって、貴重な資料だからあまり外に出したくない、他に使わせたくないということになる。

ミュージアムの中でも美術館の場合は、そういうバイアスが強くかかってくるのですが、美術作品を含む様々な資料をフラットに考えて、コモンズとして扱うという理念が成立するのだったら、今後のミュージアムにとって非常に示唆的だと思うんですね。

先ほど岡室さんが、若い人たちの関心が変わってきていると言われましたが、確かに若い人は美術を特別視しておらず、フラットに物事を捉えている。そのような現実の変化に対してミュージアムが真摯に向き合っていくのならば、KeMCoがやられていることは、とても可能性があると思います。

松田 渡部さん、これからのKeMCoのコレクションビルディングについてはいかがでしょうか。

渡部 期待をしていただいて、とても有り難いんですが、慶應が日本で一番古い大学と言いながら、今に至るまでミュージアムがなかったという、最後発で出発する時に何ができるかと考えると、逆に言えば自由があるということだと思っています。センチュリー赤尾コレクションというものをいただくとしても、KeMCoコレクションの方針があるわけではないんですね。

もともとミュージアムは「蔵」だと思うんです。しかし、学校ができて160年、蔵をつくってこなかったので、だったら今つくるのは蔵ではなくて、空き地のように、いろいろなものが出たり入ったりできる場をつくれたら有効なのではないかというのが、KeMCoの他力本願的なコレクションビルディングの発想です。

それは苦肉の策のところもあります。様々な所にちょっとずつ文化財があり、それを持っている部署や研究者が手放さない。だから、それを新しくできたミュージアムが収蔵しますと言っても上手くいかないし、すぐに収蔵庫問題で行き詰まるので、発想を転換して、そういうものが学校の中でより有機的に機能するにはどうすればいいんだろうというところから発想されたのです。その意味ではコレクションビルディングもへったくれもないんです。

しかも慶應の場合、より良いものを持っているのが一貫教育校だったりもする。なので、そこで勉強している生徒たちに「この絵ってこういうものなんだよ」と知ってもらう機会を持ちつつ、いわゆる大文字のミュージアムではない、コモンズという姿を持つことによって、ゆるやかな空き地的コレクションビルディングができたらいいなと考えています。

期待される新しいミュージアム

松田 将来の話になってきましたので、最後に一言、後発の大学ミュージアムとしてのKeMCoに対しての期待やアドバイスを先輩方からいただければと思います。

並木 渡部さんが言われたように、後発だからできることがあるのだと思います。今、われわれの施設も40年経って古くなり、収蔵スペースもないという状況があるので、空き地性というものを、1つのモデルとして見せていただけるような発信を続けていただけるといいなと思っています。

美術工芸資料館を改築するという話がやがて出た際、1つの参考にさせていただけるのではないかと思い、期待が今日高まってきました。

松田 同じ私学として常に比べられる立場の早稲田の岡室さん、いかがでしょうか。

岡室 私も空き地のお話はとてもおもしろいと思いました。うちも学生に来てもらうことを意識はしているんですが、学生を巻き込んでいくことはまだまだ足りないということを今日実感しました。ですので、空き地がどう機能するのかということは今後私も興味を持って拝見させていただきたいと思いますし、刺激をどんどん与えていただきたいと思っています。

以前より、慶應のアート・センターさんにはいろいろお世話になってきましたので、今後もこれまで以上に連携して何か一緒にできるといいなと思います。より深く、より刺激的な関係を築いていきたいですね。

松田 では、保坂さん。公共のミュージアムからの立場と、卒業生としての立場から期待することをお願いいたします。

保坂 今、KeMCoが空き地という、およそミュージアムに関するキャッチフレーズとしてはふさわしくない言葉であえてやられようとしているというのは、非常におもしろいです。

多くの国公立美術館が課題として抱えている連携の仕方にも非常に示唆を与える話だと思いますので、かつて慶應がアートマネジメント講座をいち早くつくり美術業界に刺激を与えたように、今度は新しいミュージアムの姿で、美術以外も含めたもっと広いエリアに刺激を与えていただければと思います。

渡部 KeMCoについて過分なご評価をいただいたので、皆様をがっかりさせないように頑張りたいと思います。

やはり小さくて機動性があるところを生かすためには、いろいろな人に助けてもらうことが肝だと思っているので、ぜひ今日、この座談会に参加していただいたご縁で、引き続きKeMCoを応援していただき、折々にご協力いただけたら有り難いと思います。

松田 ぜひ私どもの空き地に遊びに来ていただければと思います。今度はZoomではなく、実際にお目にかかれることを楽しみにしております。本日は長い間有り難うございました。

2021年2月22日オンラインにより収録

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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