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【特集:「トランプ後」のアメリカ】
共和党はどこにいくのか――ロムニーとトランプが示すこれからの岐路

2021/02/05

脇に追いやられた「検死報告」

2012年の大統領選は、2期目をねらう現職のオバマにたいして、共和党はマサチューセッツ州元知事のロムニーを大統領候補、下院議員のポール・ライアンを副大統領候補に立てて挑んだものの4年前に引き続き敗北を喫した。この敗北をうけて、共和党の全国委員会委員長のラインス・プリーバスの諮問のもと、選挙結果の大規模な総括がおこなわれた。のべ5万2000人以上の関係者に対面やオンライン、個別ヒアリングやグループ討論などさまざまなかたちで聴取した意見は、翌年に「成長と機会プロジェクト」と題された報告書にまとめられた。この報告書は大統領選挙戦敗北の「検死報告(オートプシー)」と呼ばれている。

この報告書は、共和党は同じ考えをもった人びとに語りかけることばかり重視し、自分たちと考えを異にする人びとを説得する能力を欠いてきたと率直に自己反省した。そのうえで、州レベルで成功を収め、マイノリティからの支持を幅広く得ている共和党の知事の取り組みから、連邦レベルの選挙も多くを学ぶ必要が指摘された。具体的には、さまざまな社会階層の人々が今よりも一段上の階層に着実に昇っていけるよう、人々の成功を手助けする政党に共和党は変わるべきであり、企業の重役たちが自分たちの報酬を手厚くする一方で労働者の職や収入の確保を放置しているのならば共和党は率直にそのことを言うべきであると記した。また、従来の共和党が話をあまり聴いてこなかったヒスパニック、アフリカ系、アジア系、セクシャルマイノリティからの支持を、女性や若者からの支持と同様に集める努力をすべきことが指摘された。総じてGOPは、成長(グロース,Growth)と機会(オポチュニティ,Opportunity)の党(パーティ,Party)の略称になることを報告書は求めた。

だが報告書は発表後、共和党内の有力政治家たちから激しい反発を招いた。リバタリアンとして知られるケンタッキー州選出上院議員のランド・ポールや、社会的保守の元上院議員のリック・サントラムらが内容に強く反対した。

決定的だったのは2016年の大統領選挙である。17名による候補者レースから飛び出したトランプは、自分たちの声がエスタブリッシュメントたちに聴きとってもらえていないと感じていた白人有権者層の不安と怒りをつかみ、中西部の諸州を獲得して選挙を制した。前述のサラームが2018年のある論説で述べているように、トランプはある意味でたしかに労働者階級に支持の手を画期的に広げ、民主党が優位を占めてきた州を突き崩した。しかしダウザットとサラームが求めたような政策をかたちにできる専門家を、トランプ政権が任命することはなかった。なにより、自分の集会に足を運ぶ白人労働者階級の外にトランプが共和党の新しい支持基盤を広げていくことはなかった。

共和党は短期と長期のどちらの成功を選ぶか

トランプは共和党に新しい勝利の方程式をもたらした。その方程式は2020年の大統領選挙ではトランプを勝利に導かなかったが、選挙の正当性を否定し続けるトランプに多くの共和党の政治家たちが追随した点からも、トランプが確立した新しい道筋、つまり白人労働者階級の支持をポピュリズム的に最大化することで連邦レベルの選挙で勝利を得る方向を、今後とも共和党が採っていく可能性は高いと言える。連邦議会議事堂にトランプ支持者が突入し、トランプの2度目の弾劾が下院で可決された際も、造反した共和党の下院議員は10名にすぎない。白人とマイノリティの人口比率がますます逆転していく今後、共和党と白人有権者が共依存的にトランプのレガシーに固執する可能性はありうる。

とはいえ、人口動態の観点からこの道筋に早晩限界が来ることもまた事実である。多様性はグローバルエリートの自己正当化の台詞だと親トランプの知識人たちは言うかもしれない。だが、「検死報告」に共和党があらためて向き合わなければならなくなる時が訪れるだろう。その時までロムニーとその後継者たちは、孤独な模索を続けることになるのかもしれない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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