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【特集:脱オフィス時代の働き方】
コロナ禍のテレワークと働き方の変化

2020/12/07

テレワークの効率性

近年、働き方改革の一環でテレワークが導入されつつあった。ワークライフバランスや女性や高齢者の就労促進、柔軟な働き方による生産性の向上、育児や介護との両立など多くの利点があるとされている。雇用制度の見直しをした企業も少なくない。コロナ禍でいかにして感染症の蔓延を防止しつつ、生産性を維持できるかが重要な課題である。

就業者実態調査ではテレワークでの仕事の効率性について聞いている(図5)。通常のように働いた場合を100として、現在のテレワーク勤務について0~200までの数字で答えてもらった。図のように、半数近くは100未満と答えており、平均は83で100よりも大きい数字を答えた人はかなり少ない。やはり、コロナ禍でのテレワーク勤務は前述のような様々な障害や問題のため効率が落ちているようである。

さらにデータを計量回帰分析し、いくつかの有効な解決策が明らかになった(注2)。テレワークで効率を上げるためには本人の慣れや経験年数、テレワークでの勤務時間数が重要であることが分かった。さらに、取り巻く環境も影響を与える。就業者の仕事が十分に明確化され、職場内で分担がしっかりしている場合や、時間を柔軟にできる制度(フレックスタイム制や育児介護制度)がある場合、居住地の近隣にテレワーク拠点などインフラが整っている場合、テレワークの効率を高める傾向にあることが分かった。

図5 仕事の効率 拡大して表示

今後の働き方・生活

さらに調査では感染症の終息後の勤務形態について聞いている。2020年6月時点で、終息後も週1回以上テレワークをしたいと回答した人の割合は全体で52%にも及ぶ。逆に「毎日出勤したい」と答えた人は、半数を切っている。年齢階層でみると、若い人ほどテレワークによる勤務を希望しており、40代以下の世代では週1回以上テレワークをしたいと回答した人の割合は55〜60%以上となった。他方、50代以上の世代では、毎日出勤したいと回答した人は、60%程度を占めている。若い層を中心に多くの人がテレワークを利用しつつ、勤務することを希望している。今回のコロナ禍でのテレワークは問題や課題はあるものの、若年層を中心にテレワークを積極的に利用した働き方を望んでいるようである。

また、今後テレワークにより、通勤を減らし、遠隔地の好きなところに住むことに対して肯定的かどうかも聞いた。やや肯定的も含め、都道府県別に高い順に滋賀県(53%)、神奈川県(48%)、東京都(48%)、埼玉県(45%)となり、都市通勤圏や東京圏が上位に並んだ。東京一極集中の是正や地方への移住といった考え方が東京圏を中心に強くなってきており、居住や働き方への考え方が変わりつつあるようである。地方移住や多拠点生活、ワーケーションなど働き方の多様化が進めば、地方と都市の関係を大きく変える可能性がある。企業の都心部のオフィス縮小や地方移転といった動きが活発化する可能性もある。

まとめ

テレワークは急速に伸び、現在定着しつつある。しかし、業種による向き不向きがあり、さらにコロナ禍で急に利用し始めた人にとってはテレワークの利用自体に様々な問題を抱えながらもテレワークを進めている。一方で完全なテレワークによる勤務は難しく、日本ならではの大量の紙書類にハンコ、会議や打ち合わせにより出勤せざるを得ないのが現状である。しかし、大企業を中心にデジタル化が着実に進んでおり、また、若者や都心部を中心に就業者の働き方への考え方が変化し多様化している。今後もテレワークを継続したいという人は若年層に増えており、都心部では郊外への移住の関心が高まるだろう。当初からの働き方改革で課題だったワークライフバランスの改善を超えて、人々の働き方や生活そのものへ考え方が変わりつつある。

〈注〉

注1 Okubo, T (2020) “Spread of COVID-19 and Telework:Evidence from Japan”. Covid Economics 32

注2 Okubo, T. A,Inoue and K.Sekijima (2021) “Teleworker performance in the COVID-19 era in Japan” Asian Economic Papers, 20:02

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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