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【特集:脱オフィス時代の働き方】
子育て期のテレワーク促進がもたらす地方都市の可能性

2020/12/07

  • 都丸 一昭(とまる かずあき)

    一般社団法人コトハバ代表理事・塾員

私は、群馬県高崎市・みなかみ町、長野県佐久市でテレワーク・コワーキング拠点を運営しており、未就学児をメインとする子育て期の女性との接点が多い事業にも取り組んでいます。

本稿では、子育て期のテレワーク促進がもたらす地方都市の可能性について述べたいと思います。

M字カーブは解消に向かいつつも、いまだ悩める人多し

女性のM字カーブは、解消されつつあります(図1)。

子育て期(25~34歳、35~44歳)の非正規雇用労働者の割合は、男性に比べ、女性が多いです(図2)。

図1 女性の年齢階級別労働力率の推移 出典:総務省「労働力調査(基本集計)」拡大して表示
図2 年齢階級別非正規雇用労働者の割合の推移(男女別) 出典:総務庁「労働力調査特別調査」及び総務省「労働力調査(詳細集計)」拡大して表示

私が運営している一般社団法人コトハバは、子育て期の孤立予防活動として、高崎市で平成26~30年に合計29回、延べ3,905人が集う親子イベントを山名八幡宮の空き地で行ってきました。また、みなかみ町で子ども連れコワーケーションを7回20世帯に提供し、佐久市では、令和元年から子育て期の女性向けのテレワーク応援講座を3年間にわたって提供しています。そして、2020年度は群馬県みなかみ町のテレワークセンターMINAKAMI に、学童施設を併設し、子育て期の複業を促進しています。女性のM字カーブは解消されても、子育てと働くことの両立に悩んでいる女性との出会いは絶えることがありません。

子育て期のテレワーク促進としては、みなかみ町の宿泊業経営者と、子育て期のテレワーカーとのアライアンスを締結し、パートナーと共に1年3カ月間かけて売上125%増を達成しました。宿泊業は、テレワーク導入が一番進んでいない業界です。業界共通の課題として、OTA(Online Travel Agent)から、自社サイトによる決済に移行し、OTA手数料をコストダウンすることが挙げられます。そのため、デジタルマーケティングを導入し、現場スタッフが自社サイトでの予約を増やすための取り組みに対して、PDCAサイクルを実装するところをサポートしました。まずは、ビジネスモデルキャンバスと、カスタマージャーニーで各プロセスを整理し、それぞれの取り組みの目標に対し、社内とテレワーカーが共通の認識を持てるようにしました。毎月のオンラインミーティングを通じて現場スタッフとテレワーカーが協働していく文化醸成には半年近くかかりました。経営者がぶれずに、社内にテレワークを導入し、ひいては従業員にとって働きやすい環境を作りたいという想いと、現場スタッフが不慣れなデジタル領域に対して学習・成長していく意思と、子育て期のテレワーカーの努力が実を結んだものと理解しています。

佐久市においても、地元建設会社の人材確保につながる形でのテレワーク導入コンサルティングを子育て中の地元テレワーカーと実行しており、手ごたえを感じています。地方都市にテレワークが導入されることで、地域事業者にとっても、地域の子育て期の女性にとっても、地域全体にとってもメリットが実現できることを確認しています。

地方都市の就業人口のほとんどは中小企業が担っており、子育て期の女性にとって働きやすい環境ではないことが多いです。また、東京圏や政令指定都市だと、週1回、1日3時間で、復職時に有用性がある求人が提供されますが、地方都市では、そういう求人は少ない状況です。

地方都市ではキャリアの断絶が起きやすい

妊娠~小学校低学年程度の子育て期の女性で働くことに関心を持っている方々(専業主婦除く)のケースを分類してみると、

パターン1:出産離職で子育てと両立できる範囲で雇用を求めている人
パターン2:出産離職で子育てと両立できる範囲での社会との接続点を求める人
パターン3:出産離職で子育てと両立できる範囲で個人事業を始めたい人
パターン4:育休中で地域とのつながりを求めている人

に分類されるかと思います。

パターン1の出産離職で子育てと両立できる範囲で雇用を求めている人は、確定申告をしないで済む扶養の範囲で、住居・保育園・幼稚園などの立地と働く時間を優先し、働き方を選択している人が多く、復職時に有用性が低そうな案件であっても、自営にはいかずに、あくまで雇用にこだわる人が多いです。主に県管轄のハローワークが支援主体だと思われます。

パターン2の出産離職で子育てと両立できる範囲で社会との接続点を求める人は、稼ぐというよりは、地域で雑談できる人間関係を求めているケースが多いようです。知り合いがいない地域でのつながりを求めて、イベントを主催したり、趣味を活かした形でのモノづくりに取り組んだりしています。主に自助・互助の世界で、地域活動によって支援されています。

パターン3の出産離職で子育てと両立できる範囲で個人事業を始めたい人は、産む前から子育て中も働くことを志向し、仕事をしている自分が好きな人で、自分の持っているビジネスキルを活かして、働いている人が多いようです。または、子どもの個性や、自身の健康などで個人事業というスタイルを選ばざるを得ない場合もあります。主に、地域のテレワーク・コワーキング拠点や、クラウドソーシングなどによって支えられています。

パターン4の育休中で地域とのつながりを求めている人は、子どもの首が座るぐらいのタイミングから、復職後の複業可能性を模索したり、会社、園とは異なる人との出会いを求めたりする人が多いようです。主に、基礎自治体の子育て関係のイベント、雇用されている会社の福利厚生によって支えられています。

テレワーク、複業解禁の時代においては、パターン3の人を地域で応援して増やしていくこと、パターン2からパターン3へ移行していくことが大切だと感じています。月額5,000~30,000円程度、週1~3日程度で成り立ち、かつ、子どもの急な病気などの都合にも対応可能な働き方としてのテレワークを地域実装することになります。

ケースとして一番多いであろう、パターン1の方々は、いざ、子育てが落ち着いてきたときの復職の選択肢が限られることが多い印象があります。逆にパターン3の方々は子育てが落ち着いてきたときの復職に多様な選択肢を持っています。私は、未就学児を持つ自営型テレワークチームと5年間、協働し続けています。その体験から、テレワークという働き方を使いこなすことが、女性のキャリアを豊かにすることにつながると確信しています。

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