三田評論ONLINE

【特集:青少年とスポーツ】
座談会:よく遊び、よく学んで、強くなる

2020/03/05

自主性に任せるまでの葛藤

大谷 先ほどの上田さんの「腹八分」の話ですけれど、それは先生が経験の中から編み出したものなのですか。最初はガンガンやっていたのですか。

上田 最初はメニューをきっちり決めてやっていました。ハラスメントまがいのことも(笑)。 今、こういうことを言っていると、「よくそんなこと言いますね」と言われます。

でも、ある時から「こいつら、考える力があるから、それを利用したほうがこっちも楽だ」と思ったんですね。 私が帰った後も、きちんと危なくない練習をやっています。ちゃんと自分たちで考えますし、すごいですよ。栄養学、解剖学、生理学などの本を読んでいて、生理学のことなんかもものすごく詳しいです。 トレーニング理論も考えますし。

頭から入るというのは、いいのかどうかわかりません。「知っていても練習しなきゃ同じだよ」と言っていますが(笑)。

大谷 では、先生のご経験のプロセスの中から徐々にそういう方向に行ったということですね。

上田 以前は失敗しました。やはり球を投げさせ過ぎて故障させたり。2005年夏、あと1つで甲子園という時があったんです。中林伸陽(現JFE東日本)という投手がいて、 準決勝で東海大相模と延長戦になり、それは勝ったのですが、次の日、運よく台風が来て決勝まで1日空いたので、「行けるか」と言った。それは「行けます」と言いますよね。あとつで甲子園ですから。

試合中に彼が「何かちょっと変な音がしました」と言って、あわてて代えたのですが、この時の故障で少し大学でのスタートが遅れてしまったのです。 彼は「後悔していません」と言いますが、いまだに私は「あの時、もうちょっと早く代えてやればよかったな」と思います。

彼には100回ぐらい「ごめんなさい」と、いまだに会うと言っています。大学でも20勝あげましたから、気にしていないと本人は言いますが、後悔ばかりで難しいです。

子供に何を教えるか

大谷 子供の成長には段階があり、特に中学生にはグローススパートといって成長が急に起こる時期があり、その時期にスポーツ障害が多発するわけです。 高校になると、成長のスピードが鈍るので、中学生ほどには障害が起きにくい。その各年齢段階によって適切なスポーツのやり方があると思うのです。

例えば松永さんは今、小学生と高校生を教えていらっしゃいますね。もちろん、教え方を変えていらっしゃるでしょうけれど、何か自分で意識しているところとかありますか。

松永 週5日は小学生で、2日は高校生を教えています。テニスの場合、小学校低学年では、実際の硬式テニスボールではなく、スポンジボールを使うことが今流行っています。

なぜそうするかというと2つ理由があって、まず肘への負担が極端に減ること。もう1つはボールが跳ねすぎないこと。小学生だと硬式テニスの球は高くバウンドするのでかなり打ちづらい。 自分の手元で打てるぐらいに跳ねる、スポンジボールを使うとちょうどよいのですね。

野球だとそういうことはあるのですか。

上田 最近になってやっと、ティーボールという軟らかくて当たっても痛くないものが出てきました。投手が投げるのでなく、バッティングティーにボールを載せて止まった球を打って、それを皆で拾いに行って、周りで手をつないで座る。 筑波の先生がそれを考案され、広めていこうとしています。

松永 テニスだと、スポンジボールを使うと1面のコートで4カ所、簡易ネットを立てて簡易のコートをつくることができるのです。ですから、少ない場所で多くの人数がテニスを楽しむことができます。

フォアハンドやバックハンドの打ち方とか教えないで、「とにかく何でもいいから、このスポンジボールとネットを使ってゲームをやってごらんよ」というところから始めるのです。

大谷 昔は手でやっていましたけれどね(笑)。軟式テニスボールで、ペコンペコンと遊びで。

松永 それに近いイメージです。

佐々木 でも、素振りをやるより、テニスをやっていることには近いですよね。結果的にテニスの面白さはそっちのほうが伝わりますよね。

松永 そうなんです。大人と子供でやってもすごく楽しくて、なかなか大人でも子供を負かすのが大変で、結構いい勝負になる。

佐々木 それは子供には嬉しいですね。

「遊び」の中からの指導

大谷 上田さんは今、高校ではなく学童野球の指導者として中学生や小学生を教えられていますね。相手の年齢が変わると、どのように変わりますか。高校生、大学生と同じですか。

上田 いや、全然違います。小学生なんか完全にこっちを舐めてますから(笑)、ぶら下がったり、後ろから蹴ったりしてきます。そうやって一緒に遊んでやっているような感じです。

ルールだけを教えたり、「バットの振り方は」なんていう指導をしたら、絶対寄ってこない。ちょっとこうやって遊ぼうかと言うと、「ワーッ、やりたい」と言ってくる。

いい経験です。全然人の話を聞かないですからね。一生懸命説明しても、向こうを向いて遊んでいますし、集合させるのが大変です(笑)。

大谷 それを「おまえら、何しに来ているんだ、ちゃんと聞け」と言ってはいけないわけですね。

上田 いけません。でも、面白いですよ。勝手に集まってミーティングをやっていたり、試合をやらせると「タイム」とか言って集まって、プロ野球を真似て自分たちで守備位置を変えてみたり、可能性が見えて面白いです。

子供の野球というのは、あまり大人が関わってはいけない。遊びの中でやらせるというのが一番成長していく方法ではないかなと私は思います。

大谷 でも、指導者がそういう指導をするというのは、なかなか勇気がいることですよね。まず基礎を教えてあげなければとか、バットの握り方はこうだとか、ついやりがちですよね。

上田 逆に持って振りますからね(笑)。

佐々木 まずは思うように動かして、ひとしきり終わったら、その後、「じゃあ」と言って基本的なことを教えるために集めると、子供は来てちゃんと聞いてくれるようですね。最初から「はい、聞いて」「はい、これやって」とやると全然聞かないようです。

上田 プロ野球選手なんか、ちゃんと教えようとしてしまうから駄目です。 あの人たちは本当にわかっていないと思います(笑)。プロだから言うことを聞くだろうと思っていても、子供は誰が来ようと関係ない。

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