三田評論ONLINE

【特集:サステナブルな消費】
ライフデザインにおける価値観の変容と消費スタイル──サステナブルな消費に向けて

2019/08/05

ライフデザイン2.0時代 ──価値観転換とつながり再考

(1)価値観転換
これに続く「ライフデザイン2.0」の時代は、バブル経済崩壊後の「失われた20年」が大半を占める。特に、バブル経済崩壊の余波を受け、バブル時代に就職した数歳年上の先輩とは雲泥の違いを体験したのが、団塊ジュニア世代(現在40代後半)である。当社の調査によれば、この世代はライフデザインにおいて「何かと損をすることが多い(多かった)と思う」とする割合が非常に多く、親世代の団塊世代を「逃げ切り世代」として冷めた目でみている(団塊ジュニア世代の消費意識については『人生100年時代のライフデザイン 団塊ジュニア世代から読み解く日本の未来』(宮木ほか著、2017)に詳しい)。正社員としての就職ができずに非正規職員やフリーターの道を選ばざるをえなかった人も多い。経済的要因に加え、結婚・出産に対する価値観の変容も手伝って、人口ボリュームの大きさの割に結婚・出産に至る割合が多くなかったことから、「第3次ベビーブームを起こせなかった」世代ともいわれる。

団塊ジュニア世代が10代の頃にみていた消費社会と、実際に社会に出てからみた姿とのギャップはあまりに大きく、思うように「できない」ことが多かった。しかし、この世代以降を中心に、「ケチ」(生活防衛=受動的)は「エコ」(環境保護=能動的)に転換され、「買えない環境」(受動的)は「買わない選択」(能動的)とされるようになっていった。

さらに、「買う」ことに明確な理由を求め、「皆が持っているから」ではなく、「自分にとって必要だから」購入するというスタイルが生まれた。自分のライフスタイルにおいて必要がないと思えば、車もテレビも新聞も購入しなくなった。

こうした変化を背景に、必要なときに必要な分だけを効率的に使う「レンタル」「シェアリング」などが普及した。また、情報通信技術の発達も手伝って、消費者同士が自らの持ち物を売買する〝C to C〟(個人間取引)市場も形成されていった。団塊世代あたりでは、レンタルやシェアリング、中古品利用について、「貧乏臭い」「他人が使ったモノには抵抗感がある」という人も少なくないようだが、若い世代を中心に、「モノを人と共有する」「人の使ったモノを使う」「利用権を購入する」という概念は定着しつつある。月ごと・年ごとなどの料金を支払い、契約期間中は自由に利用する「サブスクリプション」もその1つである。

(2)つながりの再考
さらにこの時代は、当初、志向が「個」「パーソナル」にシフトし、「個人」「個性」「個別」「個室」「個食(孤食)」など、とかく「個」が強調された。この背景には、核家族化や共働きの増加、多忙化による行動の個別化、少子化による個室保有の増加などがあり、音楽メディアや通信メディアのパーソナル化もそれらを助長した。都市部を中心に近所づきあいなども減少し、隣人の顔を知らないなど、人間関係の希薄化が指摘されていた。

しかし、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、地域のつながりや互助の重要性が再確認され、ボランティア活動が急成長するなど、「人とのつながり」「社会のつながり」が見直されるようになった。さらに2011年の東日本大震災後は、ボランティア活動のさらなる活性化に加え、「支援消費」「応援消費」という形での、消費による支援活動が定着した。「エシカル消費」というワードも急速に使われるようになる。

その後の度重なる災害のたびに、こうした活動はさらなるつながりを形成し、人々が「個」に閉じていく傾向から、「つながり」を求めて開いていく動きが活性化してきた。個別化を助長してきたパーソナルメディアは、SNSを中心とするネットワークの維持形成ツールとして効力を発揮し、ソーシャルキャピタルの形成において重要な役割を担うようになった。

(3)世界規模でのビジョン共有
こうした動きを世界規模で後押しし、グローバルなビジョンでの共有を進めたのが、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された国際目標、いわゆるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)である。SDGsとは、世界の課題解決に向けて169のターゲットを意識し、17のゴールを目指すものである。消費の側面としては、日々の消費を支えるバリューチェーンが世界とつながっており、個人の消費行動が世界や未来の良し悪しを方向付ける力を持っていることを一人ひとりが自覚することが目指される。個人の力は極めて小さいものではあるが、世界の社会課題を消費者個人が「自分ごと」化し、同時多発的に行動を起こす・改善することで、大きな動きとなることが期待されている。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事