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【特集:サステナブルな消費】
エシカル消費に向けた消費者教育

2019/08/05

エシカル消費の定義

同調査研究会では、エシカル消費について「消費者それぞれが、各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援したりしながら、消費活動を行うことであるといえる。このため、倫理的消費と称することのできる消費行動は幅広く、すでに普及している多くの概念を包含している」とされた。

しかし、この用語に対する批判の声もある。とくに、「持続可能な消費」(サステナブルな消費)でよいではないかという意見が多い。山本良一教授は、関連する2つの用語とともに以下のように解説している(同研究会第1回研究会(2015年5月20日)配布資料「倫理的消費とは何か」)。

倫理的消費…社会の健全性向上を積極的に支援し、環境・人権などの社会的課題に配慮して消費すること(豊田尚吾)
社会的消費…市場での消費を通じた社会的課題の解決行動(大平修平、薗部靖史、スタニロスキー・スミレ)
持続可能な消費…後世の需要を損なうことなく、基本的な需要が満たされ、より質の高い生活を支える製品とサービスを利用すること。すなわち、その製品とサービスはライフスタイルの全過程において、資源と有毒物質の利用、廃棄物と汚染物質の排出を最小限に抑えるものでなければならない(国連持続可能な発展委員会(UNCSD)1995年)。

山本良一教授は、「持続可能な消費はエコロジカルな持続性に重点が置かれており、倫理的消費の一部である。社会的消費も倫理的消費に含まれる。生命倫理、環境倫理、社会倫理に基づいた商品・サービスの選択を通じて、環境問題、社会問題の積極的解決に寄与しようとする消費者の購買行動が倫理的消費ではないだろうか。倫理も時間的に発展するので倫理的消費も時間と共に変化する。倫理的消費の適切な定義については詳細な検討が必要である」と述べている。

エシカル消費教育の推進

消費者教育推進法制定を契機に、権利主体としての消費者に加え、責任主体としての消費者が、自らの消費行動が社会に与える影響を自覚することが求められている。そこでエシカル消費が求められているわけだが、それは、社会的な(公の徳としての)倫理である。消費者の権利確保がもはや直接の契約関係にある者の責任を超えて、経済のグローバル化の中でどこに存在しているかわからない製造業者の責任追及をも必要としているのと同様に、消費者の責任も地球の裏側の労働者の労働条件確保にまで及んでいるからである。自分が接したことのない目に見えない者や社会への関心を持ち、それらに配慮する消費者の育成が求められている。

具体的な動きとして、消費者庁が進めるエシカル・ラボがある。「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会、環境に配慮した消費行動であるエシカル消費の意味や必要性などについて、広く国民に考え方を普及するための情報提供を行うとともに、地方公共団体による主体的な普及・啓発活動の促進を目指すことを目的として開催するシンポジウム」(消費者庁)だ。2015年12月12日の東京での開催を皮切りに、徳島、鳥取、秋田、山口で開催されている。また、これらの自治体では「エシカル宣言」も行われている。

今年の5月には、ファッションモデルとして活躍する、冨永愛氏に「エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー」を委嘱し、教育啓発を進めようとしている。

東京都では、「東京都消費生活基本計画」で、「消費者自らが被害や商品などの事故に遭わない行動を選択できる消費者教育に加えて、エシカル消費など、持続可能な社会の形成に貢献する消費行動を、消費者教育や啓発を通じて促進していく」と述べ、例えば、「東京くらしWEB」に「ちょっと考えて、ぐっといい未来 エシカル消費(エシカル消費紹介ページ)」を作成して、エシカル消費にかかわる教材紹介などを行っている。

エシカル消費概念はかなり浸透しつつあると言えるが、実際の教育については実験的な試みが行われている段階と言えるだろう。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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