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【特集:サステナブルな消費】
エシカル消費に向けた消費者教育

2019/08/05

エシカル消費概念の登場

こうしたなかで、近年、サステナブルな消費(sustainable consumption)が求められ、経済のグローバル化のなかで、消費者の行動が発展途上国で生産に従事する労働者に犠牲を強いているといった認識から、フェアトレード(fair trade)運動も進んでいる。そして、近年、エシカル消費あるいは倫理的消費(ethical consumption)という概念が登場している。

この分野の第一人者である山本良一氏(東京大学名誉教授)はエシカル消費の重要性について以下のような指摘をしている。

「日本の消費者の多くは豊かな消費生活を享受している。お金さえあれば、世界のどのような商品でも入手可能である。一方で、地球温暖化や熱帯雨林の伐採など様々な地球環境問題に直面しており、また深刻な貧困などの社会問題が起きている。私たちの豊かな消費生活は実はこれらの環境問題や社会問題と密接に関係している。消費者は単に自己の利益だけでなく、国内のみならず国境を越えた他国の人々や、時間を越えた子孫のことまでも考慮した商品選択を行なうことが求められている。すなわち、製品の生産者である企業のみならず消費者にも環境配慮、社会配慮の社会的責任があると言える。製品を選択するその瞬間こそが、消費者が世界を変える瞬間である。市民が倫理的な消費を心がけることによって、従来より環境、社会、地域に、より配慮された製品が市場で競争力を持つようになり、社会を持続可能な方向に動かすことができる。消費者が積極的に倫理的消費をする社会は消費者市民社会と呼ばれ、政府もそうした社会づくりを後押しするために消費者教育推進法を2012年に制定した」(2015年9月8日NHK放映「視点・論点『倫理的消費とは何か』」)。

エシカル消費という言葉の起源は定かではないが、それが一般的に使われるようになったきっかけは、英国で1989年に発行された雑誌『Ethical Consumer』による。ボイコット(不買運動)とともに、倫理的な企業の製品を積極的に選択して買うバイコット(ボイコットの反意語としての造語)を勧めた。日本では、2014年5月30日に「日本エシカル推進協議会」が誕生しており、エシカルファッションショーといったイベントが開催されるなどの動きも見られるようになってきている。

エシカル消費推進のための国の動き

2015年3月24日に閣議決定された消費者基本計画においてエシカル消費の言葉が登場している。同計画では、「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会・環境に配慮した消費行動」と説明されている。同計画においては、「環境等に配慮した商品・サービスの選択を可能とする環境の整備や食品やエネルギーのロスの削減などの社会的課題に配慮した消費を促進することが求められている」とし、「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会・環境に配慮した消費行動(倫理的消費)や、開発途上国の生産者と先進国の消費者を結び付けることで、より公正な取引を促進し、開発途上国の労働者の生活改善を目指す『フェアトレード』の取組にも関心が高まっている。こうした持続可能なライフスタイルへの理解を促進するため、消費者庁において、倫理的消費等に関する調査研究を実施する」こととされた。

これを受けて、2015年5月に消費者庁は「倫理的消費」調査研究会を設置した。委員は民間人28名で発足し、座長には山本良一教授が指名された。この研究会では、エシカル消費に関する国内外の動向について委員からプレゼンテーションが行われたほか、専門家からのヒアリングを行い、論点を整理した。この活動により日本においてもエシカル消費という概念は広まりつつある。最近、消費者庁は後述するエシカル・ラボ事業を進めている。

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