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【特集:日本の宇宙戦略を問う】
日本の宇宙外交──宇宙を巡る変化と最近の取組み

2019/03/05

国際宇宙探査

伝統的な国際協力の場である国際宇宙探査についても少し触れておきたい。昨年2018年3月に東京で文部科学省が主催して「第2回国際宇宙探査会議(ISEF2)」が行われた。45の国・国際機関関係者が出席し、今後の国際宇宙探査について東京原則を採択した。同会議は、時を同じくして、米国政府が、1998年から建設を開始した現在の国際宇宙ステーション(地上約400キロを周回)について2025年度以降の国費投入を見合わせる旨、また併せて、地球から3万6000キロ離れた月を周回するステーションを経由し、将来的には火星を目指すという深宇宙探査の新たなコンセプトを示したタイミングと重なり、会議のために集った世界各国の宇宙関係者の間では同コンセプトを巡り活発な意見交換も行われた。今後、コンセプトや技術的な議論を超えて、国際協力の具体的な中身として各国の分担や責任といった議論になると、国家間での調整が必要になる局面が出てくることが予想される。

安全保障

最後に、安全保障についても取り上げたい。昨年末にまとめられた防衛大綱では、宇宙について、我が国としての戦略的な優位を獲得・維持する必要性について言及している。傍目からは何が起きているかうかがい知ることが困難な宇宙だからこそ、テーブルの下での膝の蹴り合いのようなことが起こらないようにしなくてはならず、そのような宇宙での活動を抑止するためには、まずは、宇宙で起きていることを自らしっかりと把握することが重要であり、そのための宇宙状況監視(SSA)能力が欠かせない。そして、広大な宇宙を監視するためには、国際的な協力は不可欠だろう。

結びに代えて

宇宙は広大であり、国際協力にはうってつけの場だ。そしてこれまで重厚長大だった衛星が小型化され、新興国をはじめ、衛星を運用する国や打ち上げ能力を有する国が増えるなど宇宙のコモディティ化が日々進んでいる。これまでの放送や通信だけでなく、宇宙から得られるデータを利用することで、自然災害の予防や軽減、熱帯雨林の管理、水源や水脈のデータを通じたマラリアの予防など、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた様々なイノベーションを今後もたらすことも同時に期待されている。

本稿では、国連外交や、民生、探査、安全保障といった分野と外交との接点に着目してご紹介したが、宇宙が我が国をはじめ、世界中の人々の社会経済の発展や安全・安心な生活を提供するプラットフォームとして機能するべく、宇宙についての国際協力を今後ますます強化していく必要があるだろう。

筆者は一昨年の夏から1年間、短い期間ではあったが外務省の宇宙室長(兼サイバー政策室長)を務めた。この間、青木節子教授(総理の諮問委員会である宇宙政策委員会委員、慶應義塾大学の中にJAXAと設けられている宇宙法研究センター副所長)から様々にご指導いただき、短い期間ではあるがなんとか務めることができた。また、政治学科のゼミで指導教授であった薬師寺泰蔵名誉教授からは、宇宙政策委員会の部会でお会いして開口一番「外務省に宇宙室があるのか?」との質問をいただき、後に河井克行衆議院議員(自民党総裁外交特別補佐)ご自身から、外務大臣政務官時代に御尽力いただいた外務省宇宙室立ち上げにまつわる話を直接伺うことができた。本小論がこれらはじめ、お世話になった全ての皆様への感謝と、宇宙へのさらなる取り組みの一助になることを心から祈念している。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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