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【特集:日本の宇宙戦略を問う】
日本の宇宙外交──宇宙を巡る変化と最近の取組み

2019/03/05

宇宙ゴミ

たとえば、ロケットの残骸等からなる宇宙ゴミと呼ばれるデブリは、秒速数キロの速さで、数万〜数十万個が宇宙空間を、場合によっては不規則に回転しながら漂っていると言われている。国際宇宙ステーションは、平均して年1回、デブリを回避するための操作を実施している。近年我が国でもこのデブリ問題が注目されているが、米国は宇宙を安定的に利用していく観点から、1980年代から既に関心を示してきており、1993年には米国のNASAをはじめ各国の宇宙機関間で宇宙デブリ調整委員会(IADC)が設置されている。国連では、同委員会が作成した2002年のガイドラインを下敷きに、2007年に「スペースデブリ低減ガイドライン」をまとめているが、その内容は、更新されていくIADCのガイドラインに則した取組みを促す内容となっている。

最近の動き

また、最近の取組みでは、国連宇宙平和利用委員会は、「宇宙活動の長期的持続可能性(LTS)」に関するガイドラインを策定する作業部会を立ち上げ、約8年にわたり議論を行ってきた。同作業部会は昨夏にマンデート(任期)を終えたが、今後は、これまでの議論も踏まえ、混雑が必至の宇宙空間についての宇宙交通管理(STM)など、より具体的に想定される宇宙の利用のあり方を念頭に、二国間や多数国間で調整がおこなわれていくものと思われる。

また、国連宇宙平和利用委員会には、科学技術と法律の2つの小委員会がぶら下がっているが、我が国から最近では、2017年から18年にかけて、向井千秋氏が科学技術小委員会の議長を務めたほか、来春から2年間、青木節子慶應義塾大学大学院法務研究科教授が法律小委員会の議長を務めることになっている。これまで約20年にわたり同委員会に日本代表団の一員として出席いただき、国際的にも日本の宇宙法の顔となっている青木教授のご活躍を心から期待している。

このほかにも、国連の場は、ただでさえ物理的に見えにくい宇宙での活動について、各国が定期的に自国の政策や活動を紹介しあうことで、疑心暗鬼に陥ることを防ぎ、信頼を醸成する場としても機能してきたものと考えられる。

国連以外の場でも、我が国は、文科省とJAXAが主体となって、冷戦後の1993年から、アジア太平洋地域における宇宙利用の促進を目的としてアジア・太平洋地域宇宙機関会議を開催してきている。宇宙機関や行政機関をはじめ、国際機関や民間企業、大学・研究所など様々な組織から、これまで40を超える国と地域等からの参加を得て、地域最大の宇宙関連会議へと発展している。また、近年は各国の政府高官や宇宙機関長の出席も増え、宇宙分野での国際協力を具体的に検討する場として活用されている。今年は秋に日本で開催予定だ。

そして、こういったマルチの会合で各国が集まる機会を利用して、またそれとは別途の機会にも、日米や日仏、日EUといったバイ(二国間・地域)の枠組みで定期的に宇宙対話も活発に行われてきている。最近では新たに、インドとも宇宙対話の立ち上げが決定した。

宇宙利用の拡大

宇宙産業という切り口からは、今後、宇宙産業は高い成長が世界的に見込まれており、そのような世界の成長力を取り込むとの観点から、日本政府(内閣府)は2017年に「宇宙産業ビジョン2030」をまとめている。また、二国間の文脈でも、英国などとは、宇宙産業協力を積極的に取り上げてきている。

また、昨年6月に第1回国連宇宙会議の開催から50年を記念してウィーンの国連本部で開催された「UNISPACE+50」会合では、4月に就任した山川宏JAXA理事長が日本代表団を代表して演説を行ったほか、併せて行われたシンポジウムにアストロスケール社長の岡田光信氏が登壇し、宇宙の長期的持続可能性の観点からデブリ除去の必要性と、除去が夢物語ではなくて実証段階を目前に控えていることを発信した。今後も、宇宙交通管理や宇宙資源開発など、宇宙利用が具体化していくにつれ、宇宙の利用を巡って必要になる基準や原則を巡る議論が必要になってくると思われる。直ちに国際的な交渉に入るかどうかは、先に述べたような宇宙を巡るこれまでの経緯も踏まえると定かでないが、国際的な議論に乗り遅れないことはもとより、国際的な機運を様々な機会に自ら醸成し主導していくことが重要だろう。

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