三田評論ONLINE

【特集:NPOの20年】
座談会:今、あらためて問うNPOの役割

2018/11/05

SFCと若い世代のNPO

宮垣 カタリバやフローレンスなど、今やNPOを代表するような若い世代のNPOが2000年を過ぎた頃から、とても多く出てきています。多くの団体が慶應SFCから出ていますが、これはSFCの特性なのか、それとも世代の特性なのでしょうか。小島さんは一番近い世代ですが、そもそもなぜ社会的な活動を始められたのですか。

小島 私は熊本県の農村地帯の出身で、両親は教師でしたが、農業は身近なものでした。小学2、3年生のときに、海外のドキュメンタリー番組を見て、食べ物がない国があるということを知り、そういった国に行って農家をやろうと思っていました。

高校のときに農学部を受験したんですけど、上手くいかなかったので予備校の先生がSFCを薦めてくれました。カタリバさんもフローレンスさんも同世代なので、NGOとかNPOをやりたい人が受験するような位置付けになっていたのかなと思います。

金子 それは確かにありますね。

宮垣 逆に、当時はほかになかったということですかね。

萩原 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科が非営利、営利のマネジメントを専門的に学び、MBAを取得できる大学院として設立されたのが2002年です。非営利組織のマネジメントを前面に出したMBAとしてはおそらく日本で初めてだと思います。いろいろな大学にNPOに関する授業が置かれたりするようになってくる頃ですね。やはりNPO法ができたことは大きいのではないですか。

先ほどおっしゃった、海外のドキュメンタリーを見たのがきっかけという人は多いですね。行こうと思ったら、「いや、日本にもその問題はある」と気づくのですね。

小島 そうなんです。熊本ではホームレスの人は見たことがなかったので、こちらに出てきて横浜駅で初めて見たときは衝撃でした。日本にも食べ物や家がない人がいると気づき、まず日本でやるべきことをやろうと思いました。もう少ししたらアフリカへ行くつもりなんですが。

山田 関西だと、阪神・淡路大震災を経験した人たちがちょうどこの時期にNPOをつくっていますね。

宮垣 そうですね。学生で初めてNPO法人をつくったのは関西学院大学の学生で、被災した子どもたちの支援をしたい、と勉強を見ているうちに、「彼らの課題はそこだけじゃない」と気付き、NPOを立ち上げたんです。

山田 三田で学んでいた人間から見ると、SFCは社会に出ていろいろなものを見るという学問が多いので、そこで課題を発見した人たちが社会起業家を目指しているのかなと思います。

宮垣 確かにディシプリンをまず叩き込むというより、「とりあえず現場に行ってこい」というような教育のスタイルがありましたね。

金子 いや、それしかないんじゃないか(笑)。教師が「これをやって」ということがほとんどない。

萩原 そこから関心、理論を見つけてくるみたいな感じですか。

金子 学生に勝手に見つけてもらうということですよね。そういうところにきちんと気付いてもらえるかどうかは結構大きい。

宮垣 それから、SFCは学問分野の縦割りの枠が初めからなかったというところがあって、その中から何かぼんやりと課題が出てきて、後から「それって実は福祉の問題だよね」とつながっていくところはありますね。

小島 「ボヤッとしたことを言っても、大丈夫」という雰囲気がよかったんだと思います。「それは狭間の学問だから、どっちかにしなきゃ駄目だよ」とは言われなかった。

しなやかに世の中を変える

萩原 タテだったものをヨコにするというのがまさにNPOの役割だとすると、SFCの場合はアカデミックな場でそれをやっていたのですね。

そこで学んだ人が社会に出て、それまでの縦割りとか、既存の価値観みたいなものを壊していく役割を、小島さんは担っている。それを身に付けてまさしく社会を変えていますよね。

金子 やはり自分でやっているから。私なんか全然やっていない(笑)。

萩原 しなやかなんですよ。私も含めてですが、上の世代はどうしても「ねばならない病」みたいなところがあるんです。

私は内閣府男女共同参画局が2004年から実施している「女性のチャレンジ賞」の選考委員をやっています。カタリバの今村久美さんは第6回の受賞者です。ところが彼女は賞をいただいたときに「女性なのにがんばっている」と言われているようで違和感があったそうです。「なんで私がこれをいただけるのか分かりません」という感じでしょうか。私は目が点になってしまった(笑)。でも授賞式で先輩女性たちのスピーチを聞いて、先輩方の苦労によって私たちは違和感をもたずに仕事を選べるようになったのだと実感したそうです。

彼女は自分のやっていることの社会的な意味をそこで発見したのだと思います。だから、最初から「これは社会的に重要だ」というような重さがない。

そこがいろいろな人、とくに若者の共感や、参加を呼んでいるのではないでしょうか。

宮垣 それは象徴的ですね。

萩原 だから、若い人たちの発想は、「これがあるといいな」で、やりたいことをやっている。小島さんも、mustではなくてwillのほうなのでしょう。

小島 ホームレスも農家もお互い幸せになるし、誰も困らないからいいかなと思って。

萩原 だって、やっている内容に比べると、ものすごく爽やかですものね。

金子 そうだねえ。本当に大丈夫かな、みたいな(笑)。

宮垣 さらっと言うけど、すごいことをやっている。何か新しい世代のNPOの姿という感じがしますよね。

山田 フットワークが軽いんですね。

金子 でも軽いだけじゃどこかで挫折しますから、やはり強さがあるんです。そういうのはいいですよね。

萩原 また、若い人たちのやることを応援しようという人たちも増えてきたということでしょうね。

小島 近所の農家さんたちが私の取り組みを知って、引きこもりの子やホームレスの人が来ると「暑いのに頑張っているね」と声を掛けてくれたりします。それはとても自信になります。新しいことを始める次世代のNPOを地域が応援する風潮もでてきているのかなと思います。

山田 SFCのいいところは、身近なロールモデルができたというところが大きいのかもしれません。新しくできた団体が先輩のところに資金調達の方法とか、組織運営のノウハウを聞くことができるのですね。

宮垣 確かに先輩と後輩のつながりというか、そういう意味でのネットワークがあるのでしょうね。今は、他の学部の学生でも同じようなことが見られるようになって、若い社会起業家もさらに増えてきました。SFCという枠を超えて、慶應全体の文化となったと言ってもいいように思います。

今日は、NPO法施行から20年をきっかけに世代の異なる方々にお集まりいただき、最後は大学の果たす役割にまで議論が及びました。当時はたしかにブームと言えるような状況だったわけですが、大事なのはその後で、着実に定着していることは一般に知られていないかもしれません。

一時の流行で終わらせず、冷静に向き合い、こうして折に触れ議論することもまた大学の重要な役割だろうと思います。多岐にわたる話を有り難うございました。

(2018年9月13日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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