【特集:NPOの20年】
NPOの社会的インパクト評価
2018/11/05
近年、国内の非営利組織のネットワークで盛んに議論されているトピックに「社会的インパクト評価」がある。「社会的インパクト評価」とは、社会的な目的で実施される事業が、どのように実際に社会に影響を与えたのかを評価する手法であるが、特に、後述する休眠預金の基金化の議論と相まって、NPOなどが実施する社会的事業をどのように評価するかという課題が大きな議論になっている。
なぜ「社会的インパクト評価」なのか
社会的インパクト評価という言葉が意味する取り組みは、決して新しいものではない。例えば、医療の世界ではどのような療法や薬物投与が有効かを検証することには長い歴史があるし、政策の領域でも「政策評価」は1960年代のアメリカで多くの取り組みがなされ、1990年代からは日本でも導入されている。また、教育や国際開発の分野でも、プログラム評価の取り組みの長い歴史がある。
特に、少子高齢化から2008年をピークに人口減少に転じ、今後50年間で4,500万人の人口が消失するとされる現代の日本においては、行政予算の公的資金が逼迫する中、福祉的サービスのニーズは増大していくことが明らかだ。介護保険などの議論で見られるように、これまで通りの方法で公的事業をしていては、社会的なサービスレベルは切り下げられ、国民の生活レベルは後退するという状況が始まっている。このような事態を未然に防止するためには、効果的に社会の課題を解決する「社会的生産性」が求められるようになり、それを実現するためには、不断に社会的サービスの生産性を測り、改善していく取り組みが求められる。
「社会的インパクト評価」の難しさ
ところが、こうした社会的インパクト評価への期待に対し、社会性評価の実務には技術的な難しさがつきまとう。企業の経営であれば、収益性は費用と売上、それを差し引いた利益の割合で算出することができ、ある事業と別の事業の生産性を比較し、あるいは時系列や部門ごとの分析を行い、生産性向上のための施策を検討することができる。
一方、社会的サービスの価値評価には様々な考慮が必要になる。教育や福祉などの社会的な事業の成果は中長期的であり、かつ定量的に評価しにくいものが大半だからだ。初等教育の成果が発現するのは10年後、20年後であるし、多くの外部要因があるためにその因果関係も容易には特定できない。また、生活保護のような社会的な最低限のニーズを保障する福祉的なサービスの成果が何かということも判断しづらい。
2018年11月号
【特集:NPOの20年】
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伊藤 健(いとう けん)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師