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【特集:NPOの20年】
NPOの人材育成

2018/11/05

  • 西出 優子(にしで ゆうこ)

    東北大学大学院経済学研究科教授

NPO活動を支える人材教育・マネジメント

NPO法が施行されて20年。この間、全国各地で5万以上のNPO法人が設立され、実に多様な社会的課題の解決や新たな社会的価値の創造に向けて、自ら掲げたミッションを実現すべく活動を展開してきた。ただし、新たな団体が設立される一方で、解散する法人も増加傾向にある。もちろん、ミッションが達成され、役目を終えて解散するケースもあるが、活動や組織を継ぐ後継者がいない、資金が不十分といった理由で活動を休止・解散する団体も増加している。このように、NPOにとっての2大課題は、人材と資金と言われ続けてきた。

「非営利組織は、人を変えたとき役割を果たす。非営利組織が生み出すものは、治癒した患者、学ぶ生徒、自立した成人、すなわち変革された人の人生である。」 (P・F・ドラッカー『非営利組織の経営』)

人が変わることを支え、人に支えられているNPOの組織にとって、最重要課題は「人」である。ミッションに共感し、情熱を持って働く・活動する人材をどのように採用・配置し、動機づけを行い、育成・定着させるか。ボランティアや有給スタッフなど、多様な活動や働き方をする 人材を効果的にマネジメントすることや、将来の非営利セクターを担う人材を育成し輩出することは、NPOの持続的発展にとって喫緊の課題である。

大学におけるNPO教育と人材育成──東北大学の事例

筆者が東北大学でNPOゼミを開講して10年。ゼミでは、教科書で与えられたテーマに関する発表や議論とともに、NPOや社会的課題に関する実践の体験を通した学びを重視している。学生の主体性を引き出すため、学生企画によるNPO実務家を招いてのゲスト講義、NPO視察、ボランティア活動、NPO調査も実施してきた。

例えば、性的マイノリティの当事者である学生がゼミでカミングアウトし、他のゼミ生と悩みを共有し、ゼミ生みんなで関わり方や課題について議論した。また、そのテーマで活動しているNPOの方を招いて公開講演会も開催した。その際、身近な存在であることを多くの人に知って欲しいと、自身のセクシャリティについて一般参加者の前でも公表し、今後も積極的に活動していきたいと決意を表明した。この一連の過程を通して、学生自身はもちろん、周りの学生も触発しあい当事者意識を持つようになり、大きく成長した。

また、全学1年生対象の基礎ゼミ「NPOと行政の協働──仙台市の地域課題を解決するアイディアを考えよう」では、NPOや仙台市と連携して、実際に直面している地域の課題を提示してもらい、学生がフィールドワークやワークショップを通して、学生・若者の視点から課題への解決策を提案した。

さらに、大学院のNPOゼミでは、留学生や社会人の院生を中心に、福祉、環境、地域通貨、リーダーシップ、協働、ソーシャルキャピタルなど、NPOに関する幅広いテーマで研究を進めている。また、英語で開講している「NPO論」は、世界各地から集った留学生が受講し、理論を学ぶとともに各地のNPOの事例分析などを行っている。東日本大震災からの復興に関するNPOやボランティアへの関心が高く、実際に活動に参加する留学生が多いことも特筆に値する。

これらの学生が、NPOに触れて学ぶことで得たものは何か。課題発見・解決力、主体性、働きかけ力、多様性を受け入れる力、多様な働き方・生き方への柔軟性、社会に対する関心・コミットメントなどであると言えよう。

もっとも、NPO教育を受けても、新卒でNPOに就職した者はごくわずかである。とはいえ、勤務先の企業で地元自治体やNPOとの協働事業を企画運営している者や、公務員として震災復興や福祉、貧困家庭の学習支援事業などでNPOと関わっている者もいる。また、私生活で、ライフワークとしてNPO活動を継続している者もいる。

学生時代にボランティアやNPOに触れて経験し学んだ者は、社会人になっても、折に触れ、NPOについて理解・共感し、関わる機会が多くなるという調査結果もある。授業では、そのような機会を多く提供することを心がけている。1年生のゼミで紹介したNPOにインタビューを行ったある学生は、卒業までの4年間、そのNPOでボランティアを継続し、ボランティアをまとめるリーダーにもなった。社会人になっても、そのNPOに何らかの形で関わっていきたいと、意気込みを語っていた。

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