三田評論ONLINE

【特集:NPOの20年】
座談会:今、あらためて問うNPOの役割

2018/11/05

  • 萩原 なつ子(はぎわら なつこ)

    立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科・社会学部教授

    認定NPO法人日本NPOセンター代表理事。お茶の水女子大学大学院修了。博士(学術)。宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学助教授等を経て現職。専門は環境社会学、非営利活動論、ジェンダー論等。

  • 山田 泰久(やまだ やすひさ)

    NPO法人CANPANセンター代表理事

    塾員(平8文)。一般財団法人非営利組織評価センター業務執行理事。1996年日本財団に入会。2014年NPO法人CANPANセンターに転籍出向。「日本財団CANPANプロジェクト」の企画責任者。

  • 小島 希世子(おじま きよこ)

    NPO法人「農スクール」代表、えと菜園代表取締役

    塾員(平14環、17文)。大学卒業後、流通企業に勤務後、2009年、「えと菜園」を開設。農家直送のオンラインショップ、体験農園、農作物の自社生産事業を展開。13年「農スクール」を立ち上げる。

  • 金子 郁容(かねこ いくよう)

    慶應義塾大学名誉教授

    塾員(昭46工)。スタンフォード大学にてPh.D.(工学博士号)。ウィスコンシン大学准教授、一橋大学商学部教授を経て1994年慶應義塾大学総合政策学部教授。専門は情報組織論、コミュニティ論等。

  • 宮垣 元(司会)(みやがき げん)

    慶應義塾大学総合政策学部教授

    塾員(平6環、13政・メ博)。博士(政策・メディア)。ライフデザイン研究所(現 第一生命経済研究所)、甲南大学文学部教授等を経て2014年より現職。専門は社会学、経済社会学、非営利組織論等。

日本のNPOの歩み

宮垣 特定非営利活動促進法(NPO法)が1998年に施行されてから今年で20年になります。この間NPOは日本社会の中でどのような役割を果たしてきたのか。今日はこの20年を皆様と振り返りつつ、これからの姿を展望していきたいと思っています。

冒頭に私のほうから簡単な整理をしておきましょう。1998年にNPO法がスタートする直前の95年には阪神・淡路大震災があり、この年はいわゆるボランティア元年と言われています。同時にこの年はインターネット元年とも言われました。この年の出来事がNPO法施行の引き金になっている面があります。

遡っていくと、その少し前に、世界的連帯革命とか非営利革命(A Global Associational Revolution) と言われるような議論が世界的に起こっている。NPOという言葉もこの頃に日本に紹介されています。

さらに遡れば、80年代半ばには、今から思えば「あれはNPOだよね」というような、事業性と運動性を両立させた活動団体が生まれてきていました。当時は、「お金を取るのはボランティアや非営利活動ではないのではないか」という有償ボランティア論争もありました。これがNPO法施行以前の状況です。

他方、2000年代に入ってからの大きな特徴は、それまでの世代とは全く違う、小島さんのような若い世代の社会起業家が、次々と独自の発想でいろいろな活動を展開してきたことです。このあたりからいわゆる運動体としてのNPOよりも、事業体としてのNPOに大きく関心が移っていきます。

象徴的なのは2003年のNPO法改正です。ここで「経済」「雇用」「消費」と、どちらかというとNPOからは遠い世界と思われていたものがNPO法の中に入ってくるわけです。企業のCSR元年もこの時代なので、連動している部分もあると感じます。

その後、2010年代に入る頃からソーシャルメディアの普及があり、クラウドファンディングが注目を集めます。一番大きいのは、金子さんも関わっておられた民主党政権の「新しい公共」(2010年)です。ここで一気にNPOの世界が、社会の表舞台の近くに位置付けられた。直後の東日本大震災では、NPOや中間支援を前提に支援活動が繰り広げられました。

また、法制度に関して1つ大きいのは2008年からの新公益法人への移行です。ここで、民間非営利の形態として、NPO法人だけではなく一般社団や公益社団など、様々な法人形態を選べるようになりました。

2015年にはNPO法人が5万を超えましたが、社会起業家にはNPO法人の人もいれば株式会社形態の人もいます。「そもそもNPOとは何か」ということが再び問われる時代に入っています。

今年は非常に災害が多く、ボランティアにも注目が集まりました。東京2020のボランティアの募集も始まり、議論になっています。そういう意味でもNPO、ボランティアを取り巻く局面がまた変わりつつあるのではないかと感じます。

まず、金子さんは、長らくこの世界を見てこられ、90年代の半ばはNPOやボランティアの議論やその位置付けに、金子さんの発信が非常に大きな影響を与えていたと思います。振り返ってみていかがでしょうか。

金子 私が最初にNPOについて知ったのがアメリカにいた頃だったので、アメリカと日本のNPOは、かなり違うなと思っています。レスター・サラモンというNPOの分野で著名なアメリカ人学者は、「アメリカでは地域コミュニティが、政府や行政組織ができる前に形作られていた」と言っています。このあたりからして日本とは違います。

アメリカにおける非営利組織の最初の代表格が大学なのです。1636年ハーバード大学、その後、プリンストンが創立され、メトロポリタン美術館が出てきてレッドクロス(赤十字)が出てくる。すでに1878年には、ハーバード大学で税制の優遇措置についての裁判が起きている。そして1954年、非営利団体の税制優遇措置についてハーバード大学がイニシアチブをとります。日本では2012年までNPOに対する税制優遇措置制度はありませんでした。

日本でいち早くNPO法案の試案をつくり、同法の成立に中心的な役割を担ったのは「シーズ」という団体の松原明さんです。その頃の日本ではNPOはあまり知られておらず、地味な存在でしたが、1998年以前にNPO法の必要性をはっきり述べていました。その後、認証NPO制度ができ、2012年には税制上の優遇措置を受けられる認定NPO制度も発足します。

認定NPO制度ができたときに政府がパブリックサポートテストを導入し、寄付税制が実現しました。私もその内容にはいくらか関わっています。平成30年度には、認証NPOは5万以上、認定NPOは1000以上になりました。

日本にも様々なNPOが育っています。例えば、SFC出身者のカタリバやフローレンスは素晴らしい事業型のNPOとしてよく知られています。

また、皆さん知らないと思いますが、「ぐるーぷ藤」という、とても素晴らしいグループホームがあります。鷲尾公子さんという元気な80歳を超えた方が建物の取得から経営から精力的にやっておられ、藤沢市で銀行から9億円を借りて2つ目の高齢者グループホームを作るなどすごい方です。

日本からこういったNPOが育ち、政府とは関係なしに非営利活動がたくさん実施されるようになった。企業も一緒になった事業型NPOもあります。日本も段々面白い展開が始まっているのではないかと見ています。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事