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【特集:NPOの20年】
座談会:今、あらためて問うNPOの役割

2018/11/05

行政との協働

萩原 私は2年間、宮城県庁にいました。行政はどうしても法律などに縛られるので、例えば今のお話のように、いろいろな方たちが来ると1つの法制度にはあてはまらなくなってしまう。子どもからお年寄り、障害者の方たちも一緒のデイサービスを行っている「富山型デイサービス」と呼ばれる方式をつくりだしたのが惣万(そうまん)佳代子さんです。それぞれの法制度が違うために、最初はなかなか行政の人たちに理解してもらえなかったそうです。でも市や県行政の担当者と一緒になって規制緩和に向けて活動して、国を動かしていった。今では「富山型デイサービス」は富山県内だけでなく全国に広がっています。

まさに小島さんがやられているような自分たちの思いを形にしていく中で、徐々に制度が追い付いてくる。そうするとまたマージナルな部分が出てきて、それに対してまた新たなムーブメントが出てくる。その繰り返しなのですが、最初に熱い思いを持っているNPOが存在しているのですね。

宮城県庁にいたとき気づいたのは、法制度や条例の解釈に人の裁量の幅があるということでした。違反にならない程度にちょっと融通を利かせて、活動を応援してくれそうな行政職員と出会うことも活動を展開するためには重要なんですね。そこの見極めと、対立ではなくて行政とどう上手く付き合っていくのかが大切です。

NPOと行政が上手くやっていくためにはお互いの文化を知らなければいけない。NPO側も行政の仕組みを理解していなかったりするので、そこの橋渡しのところが大切ですね。

金子 とんでもないNPOもいますしね。そこが問題なのです。

萩原 異文化コミュニケーション的要素が必要です。

宮垣 行政との協働というのは大きなトピックの1つですね。単にペーパーを書いて助成金や補助金を受けてというような関係ではない。「やってもいい?」「やってもいいよ」という関係をどうやってつくっていけるのかということが大事ですね。

金子 信頼関係ですね。とんでもないことはしないだろうと。それでいいんですよね、基本的に。

メディアとしてのNPO

山田 NPOの役割って「地域メディア」なのかなと思っています。例えば地域で困っている人がインターネットなどで発信できないことを、代わりにNPOが代弁するということは重要な役割です。被災地でも、困っているという状況を発信しないとなかなか支援が届かないということがあります。

また、情報を待っている人たちがインターネットの先にいるというところが重要です。今、NPOの情報発信というと、寄付集めとか、ボランティア集めとか、自分たちの団体のためという部分が強くなってしまっている。でも、本来はその先の情報を待っている人たちに、適切な情報をいかに提供するのかが重要だと思います。

宮垣 それは大事なことですね。今言われた地域メディアというのはシンボリックな意味ですよね。つまり、存在そのものが誰かと誰かをつなぐ、それを媒介するという意味でのメディアであって、彼ら彼女たちが活動することが情報となって伝わっていく。

メディアとNPOの親和性というのは結構本質的な価値と言ってもいいかもしれません。

山田 そうですね。社会が気付いていないものをどう気付かせていくのかということがNPOの大きな役割だと思います。現場で地域のNPOの皆さんが、コミュニティの中から見つけた課題を発信していくことが重要です。

子ども食堂がこれだけ広がったのも、やはり地域で頑張っているNPOやボランティア団体が活動して、地域の状況を発信しているからではないか。だからこそ社会課題をより多くの方に知ってもらえるわけですね。

宮垣 最近、地域の居場所というものが増えてきていますが、そこに情報が集まるから、企業からもアプローチしてきて、「何かお手伝いできませんか」という話につながっていく。

山田 小島さんの事例もそういった情報があるから、行政が見に来るのだと思います。

萩原 それには地域に密着し、現場性と当事者性をしっかり持っていることが重要だと思います。だから、NPOそのものも、そこに関わる人自身もメディアになることが重要です。

そのためには地域の課題を発見するNPP(Non profit person)つまり、「儲けにもならないことを率先する人」が必要です。NPPが動くと、他のNPPが集まってくる。そういう人が集まって、NPG、NPOになっていく。そして「こういう問題があるから、その解決のために行政も企業も町内会・自治会も一緒にやっていこうよ」と地域のステークホルダーをつないでいく、まさにメディアになっていくのではないでしょうか。

金子 今いろいろお話を聞いていて、3、40年の中でニッチを探すというか、狭いところが上手くいくようになっているという感じを受けました。

やはりニッチを見る。それから、いろいろな企業や自治体も、そういうところを探り当てて広げ、それを地域のほうに広げていく。そういうところはある意味では非常に力強くなっていますね。全体として大成功しているわけではないとは思いますが、日本のNPOもそうやってコツコツやって上手くいっているところも、ずいぶんあるのではないでしょうか。

萩原 そうですね。日本NPOセンターも支援センターとして、各地域の支援センターとつながっていますが、別にアンブレラのトップにいる組織ではなくて、どちらかというとファシリテーターのような役割だと私は思っています。

各地域の情報を収集してどういう問題があるのかということを整理して、それを発信したり、日本NPOセンターが行っている企業とNPOの協働事業を紹介したりすることで、「こんなことをやっているなら、うちでもできるかもしれない」とか、「こことここをつないだら面白くなるのではないか」という発想からコラボレーションが生まれたりします。

宮垣 NPOというのはネットワークとヒエラルキーのせめぎ合いの中で来たという感じがあります。5万法人できたけど、5万支社ができたわけではないのですよね。

どこも自分のブランチをつくっていきましょうという発想をしない。中間支援もそれをよく分かっていて、「みんな集まりましょう」とはやらない。「お手伝いしますよ」という形でやっていきますね。

萩原 それが協働ですよね。今よく言われるノットワーキング(knot working)です。ある課題が見つかったときに、その課題を解決するために組織や人を結んで、解決したらほどく。だけどそれが縁となって緩やかなつながり、つまりネットワークは存在している感じです。私は「結んで開いて方式」と自分で言っています(笑)。

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