【特集:NPOの20年】
座談会:今、あらためて問うNPOの役割
2018/11/05
「居場所」をつくる活動
宮垣 事業運営という観点からは小島さんのところはいかがですか。
小島 うちもコストは下げられるようにはなっています。でも資金調達は、全然上手くできていないなと思っていて、もっと情報発信はきちんとやっていかなければいけないと思います。クラウドファンディングもちょっとやってみたいなと、今のお話を聞きながら思ったぐらいです(笑)。
宮垣 人の参加についてはいかがですか。
小島 参加したいという方は多いです。ボランティアも、ホームレスの方や引きこもりの方の応募もそれなりにあります。
宮垣 でも、なかなかアプローチが難しい方々ですよね。
小島 ホームレスの人は結構横のつながりがあるので、「あそこへ行ってよかったよ」とか、口コミです。もちろんネットは使わないし……。
この活動をして思ったのは、日本の識字率が90何パーセントって絶対嘘でしょうって(笑)。ホームレスの方で字が読めない人は結構多い。平仮名は読めますが、漢字が読めない。履歴書を書くというのはかなり厳しかったりします。
萩原 それも新しい課題の発見ですね。
小島 だから、ホームレスの人たちは口コミや支援団体を通じて来ます。引きこもりの方たちはネットで調べて来てくださるのですが、彼らは横のつながりはない。でも、一緒に農作業をすると、引きこもりの子たち同士で結構仲よくなるんです。
宮垣 それ以外にはどんな方が来られるのですか。
小島 精神的な病を抱えた方や、生活保護の方とか、保護観察中の方です。そういう方は支援団体さんが連れてきます。保護観察中の方に関して言うと、今、更生施設もいっぱいなので、法務省も民間に頼んでいたりします。参加した方には「畑は楽しい」と言っていただけています。
宮垣 居場所になって友達ができるからいいのでしょうか。
小島 居場所になっているのだと思います。友達もできるし、あとは安全地帯にもなっているようです。人によっては生活を脅かされながら生きている人たちもいて、人が信用できない。
引きこもりの子たちも、社会に出たら人に非難されたりするのが怖くて引きこもっているのだけど、うちに来れば叩く人もいない。何を言ってもいい空間です。
畑のおかげだと思います。解放感があるので、そんなにピリピリしないで一生懸命汗を流している感じです。作業自体は緩くないんですけど。
萩原 土に触れるというのがいいのでしょうね。
小島 長年引きこもっていた子は、最初は作業中に息が上がってしまっていた。でもここに来たいと、夜中にウォーキングをして体力を付け、来られるようになり、最終的には農家になりました。
本当はその子の存在を発信するだけで日本中の引きこもりの方に希望を与えられると思うのですが、まだ表には出たくないと言うのです。
山田 それがNPOの情報発信の難しさですよね。すごい成果を上げていても、その人を登場させられない場合が結構多い。
小島 昔の仲間に追われたりする方もいるので、メディアには出られない方もいます。
日本に寄付文化はないのか?
萩原 運営のことで言えば、例えば子どもを支援するといった、分かりやすいところには非常にお金が集まりやすいのです。逆に中間支援センターみたいなところが一番集まりにくい。何をやっているのか分からないとよく言われてしまいます。
一番大事なのは、自由な活動ができるための会員をどれだけ集められるか。それから、プロジェクトごとの助成金をどう獲得するか。そこには寄付や委託などがバランスよくあることが望ましいとよく言われます。なかなかお金が集まりにくいところにどのように支援していくのかが、助成財団や、現在活用方法や配分について審議されている休眠預金の役割だと思います。
ファンドレイジングに関しては、やはり専門家が必要です。アメリカなどはきちんとファンドレイザーがいる。やはりそういった寄付文化などの仕組みをもっと日本に根付かせなければいけないとずっと言われています。解散していくNPO法人も多くなっているので、市民社会を皆で支えるという意識を根付かせないと、これからは厳しいと感じています。日本のNPOはまだまだ強い活動団体にはなっていない。
NPO法にのっとった本来の自由な活動を市民団体ができるための資金的、人的、情報といったマルチな支援をどうやっていくのか。それが今後、重要になってくるのではないかと思います。
山田 日本は寄付文化がないと言われているのですが、実はいろいろな寄付の事例があります。
明治以降ですとキリスト教文化もあれば、渋沢栄一がアメリカにフィランソロピーの研究の視察に行ったり、石井十次(じゅうじ)という、児童福祉の父と呼ばれた人は、本当にいろいろな形で寄付を集めていました。寄付文化がないわけではなく、様々な寄付の事例があることが分かります。
宮垣 確かにわれわれは先入観を持っていますよね。ボランティアは日本に根付かない、なぜなら宗教的バックボーンがないからだと言われた時代もありましたが、そんなことはなかった。
萩原 やはり昔は「陰徳」だったのです。日本NPOセンターもいろいろな企業と一緒に協働事業をしていますが、中には「これをもっと広めましょう」と言うと、「いやいや、そこまで広めてくれなくても」みたいなところもあります。日本的と言いましょうか。でもグローバル化する企業の評価ということもあるし、「陽徳」にしていかないといけない、と意識を変える企業も多くなっています。
また、「このお金がこのように使われますよ」ということがはっきりと分かれば企業に限らず市民も寄付をしやすいということは、東日本大震災でも経験をしています。
山田 そうですね。関わりたいという人は結構いろいろなところにいらっしゃるので、その方法が例えばボランティアもあれば寄付というのもある、といろいろな関わり方を用意するのもNPO側の役割だと思います。
宮垣 アメリカに少しだけ住んでいた頃、お子さんに障害を持っておられる方と知り合いました。「障害理解のためのチャリティーコンサートをやりたい」と言われ、街中を「寄付をお願いします」と言って回りました。
少し驚かされたのは、行くところどこでも、まず「何をするの?」と聞かれることです。「おまえは何者?」とも「どこから来たの?」とも言わない。日本で寄付をお願いしたいと思って会社に行くと、真っ先に「誰の紹介?」「どこの会社?」と聞かれますよね。
小島 確かにそうですね。
宮垣 本来、「何をする」というところから始まっている活動組織のはずなので、原点に引き戻して考えることが大事なのかなという感じがします。
2018年11月号
【特集:NPOの20年】
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