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【特集:NPOの20年】
NPOとまちづくり

2018/11/05

  • 西山 志保(にしやま しほ)

    立教大学社会学部教授・塾員

NPOの自立をめぐる困難

市民活動の盛り上がりを背景として、1998年に成立・施行されたNPO法から20年が経過した。その間、日本の市民社会は成熟したのだろうか? NPOの知名度が上がるにつれて法人数も増加し、非常時のみならず、平常時のボランティア活動が社会に定着化しつつあることは確かである。とりわけ、福祉サービスの供給のみならず、まちづくりや子育て支援など多様な領域において、行政や企業の限界を埋める存在から、創造性や柔軟な思考によって新たな手法で問題解決を図るNPOが目立つようになっている。急速に進むグローバル化の中で、年齢、性別、人種など、多様な人々が共に暮らす地域コミュニティにおいて、個別のニーズに目を向け、そこに柔軟に対応するNPOの存在がますます重要になっているのである。

しかし欧米に比べると、NPOを支援する中間支援組織の数が圧倒的に不足しており、「NPOの自立」に向けての各種サポートが手厚いとは決していえない。そのため、地域のサービス供給に関わる活動では、持続性や継続性を担保するために収入源を多様化する、いわゆる「income mix(収入の混合化)」を実現させ、NPOのビジネスプランを描くことが大きな課題となってきた。とはいえ、彼らを取り巻く財政状況は依然厳しい状況にあり、2017年に政府の行ったNPO調査(全国6,437法人、回収率53.8%)では、人材確保や教育についで、対象NPO全体の54.2%、認定・特例認定法人については67.4%もが、収入源の多様化という課題を抱えている。多くの組織が「自立」に向けた事業戦略に関して悩みをもっているのである。

NPOから市民事業体への展開

こうした課題に対して、日本の20年先を走っているといわれる欧米のNPOでは、多様な活動領域において、旺盛な企業家精神と強い社会的使命を併せ持つ「社会的企業(Social Enterprise)」や「コミュニティ企業(Community Enterprise)」という活動が広がりを見せている。これは、市場ビジネスによって上げた利益を、公共的な利益やコミュニティに再投資し、活動の持続性を担保するという組織形態で、税制上のメリットを享受するために特別な法人格が与えられるケースもある。

まちづくりにおいては、都心部の衰退地域の再生を目的として、「コミュニティ開発会社(Community Development Corporations)」(米国)や「まちづくり事業体協会(Development Trust Association」(英国)など、さまざまな市民事業組織が活動を展開しており、低所得者向けの住宅開発から衰退地域の再開発まで担っている。彼らは、行政の所有する空き地や老朽化した建物などを安価に譲り受けてコミュニティ施設やオープンスペースとして開発・運営したり、そこで地域サービスを供給したりする、いわゆる「コミュニティの資産運用(Community Asset Management)」を担うなど、ハード面の開発とソフト面のサービス提供をバランスよく結びつけながら社会的ミッションを遂行しているのである。

ロンドン中心部にある、市民事業体が開発した社会住宅とオープンスペース。筆者撮影(2018年)
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