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【特集:NPOの20年】
NPOとまちづくり

2018/11/05

NPOと行政が協働するためには?

NPOとの協働といった場合、行政との共催、補助・助成、委託、という形態がほとんであるが、安価な下請けというリスクを伴うことが多い。行政と対等な関係を取り結ぶためには、NPOが専門能力を高めて、事業内容に関して交渉能力をもつ必要がある。アメリカのピッツバーグ市などでは、専門家がNPOを立ち上げて都市計画などを担うようになり、逆に行政機能が縮小されるという事態が起きている。欧米では、NPOと行政の間の「人材の流動性」(とりわけ専門家)も高く、地元の大学の知的支援や財団の財政的支援など、NPOの自立を促すさまざまなメカニズムが存在している。

これに対し日本では、これまで国や自治体が中心となって政策などを決めてきたために、NPOはどうしてもその補完的位置づけにならざるをえなかった。しかし近年では、行政から支援を受けつつもNPOが先進的に動き、具体的に地域の問題を解決しているケースも増えている。例えば、広島県で実施されているNPO法人尾道空き家再生プロジェクトは、空き家を貸したい人、借りたい人を取り結び、地域コミュニティの活性化に取り組む活動であるが、仲介や契約など手続き上の業務を行政が行い、それ以外のマッチングやリノベーション、イベント開催などをNPOが行うという関係が構築されている。その役員には、建築士、大学教授、デザイナーなど専門家が多く入っており、地元のネットワークを利用しながら空き家を再生させつつ魅力的なまちづくりを実現させている。

NPOに求められる政治性とネットワーク

海外と比較すると、日本のNPOに圧倒的に欠けているのが、その「政治性」と「ネットワーク」である。政治性について、日本では、チャリティ活動は利益の追求や宗教・政治から距離を置くべきであるという考えが強い。そのため非政治領域、非市場領域での活動というイメージが強いが、それがNPOの自立を阻んでいるといっても過言ではないだろう。とりわけ、まちづくりのような領域において、海外で調査を進めれば進めるほど、NPOと地域政治との関わりが浮かび上がってくる。「議員がバックについていたから……」「市長の票の取りまとめと引き換えに……」「首相が良く視察に来ていたから……」。このような話がたくさん聞かれるわけである。

NPOのリーダーがあるプロジェクトを実施しようとすると、それを具体化させる「政治的戦略」や「交渉能力」がない限り、実現させることが難しい。ただし、彼らは特定の政治勢力や行政と緊密になる危険性も十分認識しており、それらの勢力との距離を保つ重要性を指摘している。「行政と市場とは、仲良くしつつも、一定の距離を置くことに最も神経を使っている」という英国の社会的企業家の言葉は、非常にインパクトのあるものであった。

「ネットワーク化」については、日本のNPOにとって、今後最も重要になる課題と思われる。社会的使命の実現を目指すNPOは、ややもすると日常業務に追われ、社会的に孤立しがちである。将来、組織が向かうべき方向性を模索し、政治的戦略を考える余裕まではないのが現状であろう。欧米のNPOが1つの社会的セクターを形成しつつあるのは、小規模なNPOを支援する中間支援組織が多くあり、同じ社会的使命をもつNPOをネットワーク化することに成功しているためである。

例えば、英国では衰退地域の再生を目的とするまちづくりNPO(市民事業体)を支援し、ネットワーク化する「まちづくり事業体協会」(Development Trust Association)が1993年に成立され、2011年には、より幅広い活動を支援するネットワーク団体(Locality:ロカリティ)となり、コミュニティ全般の社会問題に対処している。各分野の専門家を抱えたロカリティは、個別団体に専門的なアドバイスを行うのみならず、その活動を広く紹介し、他の団体とのネットワーク化を図っている。このようなネットワークの中で、小さなNPOは孤立することなく、共に支えあって頑張ろうという勇気を与えられる機会となっている。

今後、日本のまちづくりNPOが行政の支援対象から零(こぼ)れ落ちるコミュニティのニーズに取り組む(行政でも市場でもない)力強い「第3の勢力」になるためには、財政基盤をどのように多様化していくか、政治的交渉能力をいかに高めていくか、さらに国内のみならず、海外のNPOとの連携やネットワークをいかに構築していくかが問われているのではなかろうか。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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