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【特集:NPOの20年】
NPOの人材育成

2018/11/05

米国におけるNPO教育と人材育成

では、NPO教育・NPOの人材育成の取り組みが日本より先行していた北米の状況はどうなっているか。米国の大学では、主に学部よりも大学院を中心にNPO教育が広がってきた。その中でも、公共政策・行政学・公共経営といった「公共(public)」や、「経営(business)」プログラムの一環として組み込まれていることが多い。

筆者が「公共・NPO経営」を学んだシラキュース大学公共経営大学院では、大学新卒学生から、NPOへのキャリアチェンジを考えている30〜50代の社会人、NPOスタッフなど、多様な学生で構成されていた。その修了生の3割がNPOで働いている。弁護士をやめて貧困支援NPOを設立した者もいる。勤務先のNPOから学費助成を受けて、働きながら大学院に通ったスタッフもいる。なお、同大学の経営大学院では、社会的起業教育にも力を入れており、NPOもその中心となっている。

米国の大学院では、授業の一環として、NPOでの調査や活動が積極的に取り入れられている。例えば、スタッフのモチベーションアップや資金調達、行政・企業との協働など、NPOが抱えている経営課題を解決するために、学生がチームを組む授業もある。組織論やNPO論などの理論をふまえて、実際にチームでNPOにコンサルティングを行い、解決策を提示するというもので、NPOの理論と実践の両方を通して学ぶとともに、NPOの課題解決にも寄与することを重視している。

さらに、学部でも、NPOと連携した教育プログラムや、奨学金・メンタリングを受けられる次世代NPOリーダープログラム、社会企業教育なども広がってきている。

カナダにおけるNPO教育と人材育成

次にカナダでは、NPOのネットワークや大学・行政・企業など、他セクターとの連携が有機的に機能していると言えよう。小規模で予算の少ないNPOが複数集まって、経営・人事コンサルタントを雇っている。小規模団体向けの力量形成・人材マネジメントツールを開発し、オンラインで無償提供している団体もある。NPO経営者同士のネットワークをつくり、経営者ならではの課題の共有や解決策の意見交換を行っている。また、スタッフのメンタリングのしくみや、リーダーやスタッフが悩みを共有し相談できる、ピア・エクスチェンジ・プログラムも行われているなど、段階ごとに、人材が定着し成長するような取り組みを整備している。また、国家公務員が、(全国的で大規模なNPOではなく)地元密着型の草の根NPOでインターンをするといった、人材交流が行われている。企業がNPOと連携して社員のボランティア・プログラムを実施し、多くの企業人材がNPOで活動する機会もある。

このように、カナダでは、どのセクターにいても、NPOやボランティアに関わりやすいしくみや環境が整備されていると言えよう。

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