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【特集:NPOの20年】
NPOの社会的インパクト評価

2018/11/05

日本における社会的インパクト評価の展開

このようなグローバルな社会的インパクト評価の動きに連動する形で、日本においても社会的インパクト評価の取り組みが進んでいる。2012年にはSROIネットワークジャパンが設立され、英国SROIネットワークインターナショナルの加盟組織となった(後にソーシャルバリュージャパンに改称)。

また2015年には内閣府の「共助社会づくり懇談会」の中に「社会的インパクト評価検討ワーキンググループ」が設置され、日本の文脈に即した非営利組織の評価のあり方について議論がなされ、ガイドラインが提示された。2016年にはこのガイドラインを基に、全国60の非営利組織にこれを適用したケーススタディが実施された他、官民協働での取り組みとして「社会的インパクト評価イニシアチブ」が任意団体として発足、2018年現在では150以上の企業・NPO・行政機関などが参加するネットワークを形成している。

日本における社会的インパクト評価の広まりの中で特に重要な意味を持つのは、内閣府が2017年から2018年に開催した「休眠預金等活用審議会」で休眠預金を民間公益活動の促進に活用することが議論され、その中で社会的インパクト評価の実施が資金配分の根拠として位置付けられたことだ。

休眠預金基金は、初年度の2019年度に40〜50億円、最大で年間500億円程度になると見込まれる。この額は、年間約1兆4千億円にのぼる日本の助成・寄付市場の最大3%程度であり、そのインパクトは限定的ではある。しかし、準公金と言える休眠預金基金のバラマキを防ぎ、その効果的な活用を担保し、成果の透明性を確保するという意味で、基金が投じられる事業の社会的成果に対する評価を義務付けようとするものである。

この位置付けは、前述の理由から、社会的活動の価値評価が保留されてきた日本社会においては、大きな変化であると言えるが、これに対して疑問を唱える非営利組織も、地方を中心に存在する。社会的インパクトを成果として可視化し、対外的に発信することによってより多くの資金やリソースを引き付けられるという前提は、東京を中心とした大都市圏に特有なものである。それに対して、行政の補助金や助成金が活動資金の大半を占める環境では、評価指標の社会的成果への偏重は、社会福祉の維持拡充に結び付かないものだという受け止め方もある。

経済自体が縮小し、公的事業の全体市場が縮小する中、社会的インパクト評価はどの事業を削減するかを判断するための口実に使われるだけではないか、定量評価に適した指標が取り上げられ、定性的な評価が後退するのではないかという懸念の声もある。日本社会は既に均質ではなく、異なる文脈の社会が併存する状況の中、異なるツールの活用が求められている。

「社会的インパクト評価」の本質的な意味とは

休眠預金の議論以来、こと資金配分と関連付けて議論される「社会的インパクト評価」だが、その本質的な意味は資金配分にとどまらない。また、一部で誤解があるが、貨幣価値換算での手法はその少数部分であり、本来的な評価の対象は広く、手法も定性・定量の両面にわたる。

事業の過程で、社会的価値を創出し社会的課題を解決することを目的とする社会的事業にとっては、その価値評価は組織や事業自体のガバナンスの前提条件であり、経営判断の重要な指標となり、関連するステークホルダーと「社会的価値」を共有するための重要な情報であるはずである。

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