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【特集:がんと社会】
藤澤 大介:2040年を見すえたがん医療のゆくえ

2025/07/04

均てん化は新しいフェーズへ

"がん診療提供体制のあり方に関する検討会"では、集約化と対比的に、均てん化を進める医療として、検診、がんリハビリテーション、支持療法、緩和ケアを挙げ、これらの医療については、がん予防や高齢化やがんとの共生等の観点から、診療所等も含めてできる限り多くの医療機関で対応が可能となることが望ましいとした。すなわち、これらの医療については、「がん診療連携拠点病院における均てん化」にとどまらず、「広く地域の医療機関における均てん化」が目指されていると言える。

医療機関に求められる対応

これまでの議論を踏まえて、それぞれの医療機関はどのような対応が期待されるであろうか、若干の私見も交えて述べる。

都道府県がん診療連携拠点病院や大学病院本院など、専門性が高い病院では、治療の難易度が高く、頻度が比較的少ない症例(たとえば、食道がんや膵がん)を、これまで以上に周辺の医療機関からの紹介を多く受けて診療を行うことが望まれる。そのような診療を提供するための院内リソース(スタッフ労務や手術室枠など)を確保するために、他病院で可能な標準的な治療(たとえば、比較的早期の大腸がんや乳がんの手術など)を、他機関に紹介していく必要が生じるかもしれない。専用の機器が必要な治療(例えば、重粒子線療法)や、高度な化学療法(例えば、CART-T療法)についても、県内から広く患者を受け入れる必要がある。小児がんや希少がんなどの治療も同様である。さらに、妊孕性温存手術など、頻度が少ない医療技術についても、地域から広く症例を受け入れることが望まれる。

都道府県がん診療連携拠点病院や大学病院本院以外の病院では、がん医療圏(主に二次医療圏)の中で、標準的な治療を、状況により大学病院や都道府県がん診療連携拠点病院から紹介を受けて実施することが期待される。緩和ケアやがんリハビリテーションなども実施が期待される。

診療所など、いわゆるがん診療病院ではない医療機関において、緩和ケアやがんリハビリテーション、検診などを提供することが期待される。がん治療が一段落した患者について、がん専門病院から地域のプライマリ・ケア医に診療の主体を移す診療モデルが国際的には提示されている(サバイバーシップ・プラン)。サバイバーシップ・プランには、定期検査(がんの再発の検出、定期検診)、残遺症状および晩期障害への対応、併存症および全般的健康管理(ワクチン接種を含む)が含まれる。このようなサバイバーシップ・プランがわが国で定着するためには、医療者側の認識変革やリスキリング、患者側の理解が必要であろう。また、在宅医療のニーズは2040年までにさらに増すと考えられる。

市民・社会に望まれること

がん医療の集約化が進むと、「◯◯がんは△△病院」、「✕✕がんは□□病院」というように、特定のがんの治療が受けられる病院が地域の中で限定される可能性がある。一部の市民は、がんの治療を受けるために遠方まで出かける必要が生じる可能性がある。また、高度な治療が一段落した後には、治療の場を、がん診療連携拠点病院などから近隣の病院に移すことが求められる可能性があり、「手術をしてくれた先生に続けて診て欲しい」といった患者の意向は叶わなくなっていく可能性がある。

行政機関は、これまで以上に医療機関の配置や機能を入念に検討する必要があり、市民は、医療機関の利用のあり方について、地域と一緒に考えていくことが望まれる。

なお、集約化の影響は、人口過疎地域や人口減少地域で大きく、都心部など、人口過密地域や、今後も人口が増加する地域における影響は比較的小さいと予想される。

* * *

以上、がん医療政策に関する最近の動向と今後の予測について述べた。人口動態の変化とそれに伴う疾病構造の変化を見据えて、新たな地域構想など、がん医療にとどまらない枠組みの中で、がん医療の提供体制を考えていく必要がある。

〈註〉

*1 第四期がん対策推進基本計画(令和5年3月28日閣議決定)

*2 新たな地域医療構想等に関する検討会.新たな地域医療構想に関するとりまとめ(令和6年12月18日)

*3 厚生労働省.第17回がん診療提供体制のあり方に関する検討会資料(令和7年3月21日)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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