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【特集:スポーツとサイエンス】
岡本 紗代:eスポーツがもたらすもの──その教育的な利益と競技スポーツへの波及効果

2024/07/05

学校プログラムと教育イニシアチブ

いくつかの日本の学校は、カリキュラムにeスポーツを取り入れた新しいプログラムを立ち上げています。例えば、2021年に明治大学は、ゲーミングが認知スキルやチームワークに与える影響を研究する目的でeスポーツプログラムを導入しました。このプログラムには、ゲームデザイン、戦略分析、競技ゲームの心理学に関するコースが含まれています。

また、東京工科大学と慶應義塾大学は、学生がeスポーツに関連する実践的および理論的な研究ができるeスポーツラボを設立しました。この取り組みは、データ分析やイベント管理、デジタルコンテンツ制作など、さまざまな職業分野で適用することが可能なスキルを学生に提供します。

高校もeスポーツを取り入れています。東京都教育委員会は、体育のカリキュラムにeスポーツを含めるパイロットプログラムを開始し、学生が全身体、また認知の発達の一環として競技ゲーミングに触れる機会を提供しています。

神石インターナショナルスクールは最近、GAKUと協力し、教育成果を向上させるためにGAKU Games プログラムを導入し、カリキュラムにeスポーツを取り入れました。この学校は、eスポーツを用いることで学生に戦略的思考、チームワーク、デジタル・リテラシーを教えています。これは、教育にテクノロジーを統合し、生徒にデジタルな未来に備えさせる幅広い取り組みの一環です。神石インターナショナルスクール創立者の末松弥奈子氏はこのように言います。

「eスポーツを学校教育の現場で行事として実施することにはいくつかのハードルがありました。最初のハードルは、教職員ならびに保護者が持つ先入観です。ゲームはスポーツではない、ゲームで人を育てることがイメージできない。特に教育現場での前例がないことは大きなハードルだと感じました。

しかしながら、ゲームを避けて通ることができない世界に生きている子どもたちの現実と、食育、メンタルヘルス、レジリエンス、さらにチームビルディングなどのeスポーツを通して学ぶことのできる分野の幅広さを考え、学校としての方針を示し、保護者の方々からご理解いただけたことはとても幸運だったと思います。

イベント開催前には、教員に対してのオンライン・トレーニングの実施のほか、スポーツの定義、自分の体を整えるための体力づくりや食事について学び、チームで協力することや作戦の重要性等も学びました。

イベント当日は、保護者も子どもたちも夢中になってチームの応援をしました。子どもたちは勝敗に焦点をあてるのではなく、負けてしまった友達を励ます様子や、トーナメント後の昼食時に『このメニューはね、玉ねぎの栄養がよくとれるようになっているんだよ』など学んだことを保護者に伝える様子も見られました。

普通の学校行事では観客でしかない保護者が、参加者としてはもちろん、子どもからゲームのやり方を教えてもらい、一緒に楽しむという貴重な体験となりました。このことは家族にとってもとても幸せな経験になったと思います。」

日本の教育関係者は、学生の学習体験を向上させるためにeスポーツの価値をますます認識しています。教師は、学生のチームワーク、コミュニケーション、問題解決スキルを促進するためにeスポーツクラブを作り、イベントを開催しています。例えば、毎年開催される関西eスポーツ学生選手権は、教育関係者がベストプラクティスを共有し、eスポーツを教育環境に統合するための戦略を開発する場となっています。

また、日本教育工学振興協会(JAPET)は、eスポーツを教育ツールとして活用するための教師向けワークショップを開催しています。これらのワークショップは、教育関係者がeスポーツを効果的に教育方法に取り入れるための知識とリソースを提供するものです。

日本社会におけるeスポーツ

日本におけるeスポーツの普及の高まりは、教育セクターだけでなく、より広い社会の潮流にも影響を与えています。株式会社ロイヤリティ・マーケティングの調査*3によると、日本人の約10%がeスポーツ愛好者であり、その多くは10代および若年層です。この近年の変化は、教育機関や企業がeスポーツをどのように捉えるかに影響を与えています。

企業もeスポーツに注目しています。ソフトバンクやNTTなどの企業は、eスポーツ・インフラへの投資、チームへの出資、イベントの主催を行っています。これらの投資は、プロゲーミングからイベント管理、マーケティング、ゲーム開発に至るまで、若者に新しいキャリア機会を創出しています。ジャパンタイムズの記事*4は、毎年25万人以上の来場者を集める東京ゲームショウについても言及しており、最新のeスポーツ技術とゲーミングトレンドを紹介しています。このイベントは、業界専門家、教育者、ゲーミング愛好者の間でのネットワークと知識交換の場としても重要です。

アジアオリンピック評議会常任委員で日本eスポーツ連合特別顧問を務める岡村秀樹氏はこのように言います。

「19世紀に誕生したフィジカルスポーツをスポーツの原点とするならば、工業社会の20世紀に誕生したのがモータースポーツであり、情報化社会の新たなスポーツとして生まれたのがeスポーツです。

2025年にはeスポーツのオーディエンスは全世界で6.8億人に達すると予想されています。アジアオリンピック評議会(OCA)は、2007年のアジア室内競技大会でeスポーツを正式種目に採用して以来、世界に先駆けてeスポーツの競技化を推進してきました。2023年のアジア競技大会(中国杭州)で正式競技化し、2026年の第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)でも正式競技に決定しています。

eスポーツの大きな魅力は、アスリート同士が離れていても、性差や年齢の違いがあっても競技によっては同じフィールドでその力量を競いあうことができるという、多様化した現代の世界にふさわしい特徴です。さらに最近ではeスポーツの教育分野における活用事例も増えてきています。たとえば「GAKU Games」という教育プログラムは、日本をはじめアジア・米国で開催されており、運営団体の主宰者は若き日本人女性です。このようにeスポーツは、社会的有用性の高い新たなスポーツなのです。」

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