【特集:スポーツとサイエンス】
岡本 紗代:eスポーツがもたらすもの──その教育的な利益と競技スポーツへの波及効果
2024/07/05
はじめに
近年、スポーツの世界における科学技術の応用は、トレーニング、競技、リハビリテーション、審判、コーチングなどあらゆる分野に大きな影響を与えています。このトレンドの一環としてeスポーツが注目されています。伝統的なスポーツとは異なり、eスポーツは科学と技術を広範に活用し、教育ツールとしての価値が認識されています。本記事では、eスポーツの教育的な利益と競技スポーツに及ぼす波及効果を検討し、デジタル産業における教育奨励を支援する国際企業であるGAKU Pte. Ltd.(以下GAKU)の展開と実績に焦点を当てます。
eスポーツは、2000年代初頭から急速に成長しました。高速インターネットと高度なゲーム技術の出現により、競技的なゲームはニッチな趣味からグローバルな現象へと変貌しました。2025年には、eスポーツ産業は市場価値27億(米)ドルを超え、世界中で318万人以上が参加すると予想され、影響力が増しています*1・2。
eスポーツによる教育的な利益と教育の場への実用化
eスポーツは単なるゲームプレイを超えて、教育ツールとしての可能性を秘めています。まず、eスポーツはチームワークとコミュニケーション・スキルを向上させます。多くのeスポーツのゲームでは、勝利のカギはプレイヤー間の協調にあります。これにより、協力と戦略的計画が育まれ、職場や社会的な関係において重要なスキルが養われることになります。
さらに、eスポーツは問題解決能力と批判的思考を促します。試合中、プレイヤーは迅速に状況を判断、評価し、適切な行動を選択する必要があり、このことは迅速な意思決定と柔軟な思考を強化します。また、ゲームやデータの分析は、数学的思考とデータ・リテラシーを促進することになります。
日本でも、eスポーツの教育的価値が徐々に認識され始めています。2020年、文部科学省は一部の高校のカリキュラムにeスポーツを含める実験を開始しました。また、専門の指導者が学生を指導するeスポーツクラブを設立する学校も増えていますが、学生のモチベーションと学業成績の向上にも寄与しています。
競技スポーツへの波及効果
eスポーツの普及は、競技スポーツにも波及効果をもたらしています。まず、技術の進歩が競技環境を変革しています。例えば、リアルタイムのデータ分析と戦略の可視化が可能となることで、アスリートやコーチがより精密なトレーニングを行うことができるようになります。また、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の技術を使用したトレーニングが、アスリートのパフォーマンス向上に貢献します。
さらに、eスポーツの競技者は、反射神経、手と目の協調、集中力などのスキルを向上させる必要がありますが、これらのスキルは他のスポーツにも応用可能です。プロのeスポーツプレイヤーが行うトレーニング技術や方法論は、伝統的競技スポーツのアスリートにとっても貴重な参考資料となります。
日本におけるeスポーツ
日本では、eスポーツが競技活動および教育ツールとして大きな注目を集めています。2018年に設立された一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)は、全国にeスポーツを広める重要な役割を果たしています。JeSUは主要なトーナメントを組織し、プロゲーマーを公式認定する場を提供し、教育機関と連携してeスポーツを学術プログラムに統合しています。
デジタルにフォーカスした教育プログラムでは有数の国際的な企業であるGAKUは、日本におけるeスポーツの進展に大きく貢献しています。GAKUは、eスポーツとテクノロジー産業に関心のある人々をサポートするイベント/ プログラムである「GAKU Games」と「GAKU Bootcamp Academy」を通じて教育イニシアチブを支援しています。これらのプログラムでは、技術を中心に据えて、メンタルヘルス、身体的な健康、チームワーク、eスポーツなどに関する活動や講義が行われています。GAKUは、このプログラムを日本の教育機関に提供するためにJeSUと密接に連携しています。
JeSUで現在会長を務める早川英樹氏はこのように言います。
「一般社団法人日本eスポーツ連合は、日本におけるeスポーツの統括競技団体です。eスポーツの振興を通して国民の競技力向上及びスポーツ精神の普及を目指し、これをもって国民の健康とともに、社会・経済の発展に寄与することを目的として、2018年に設立されました。
競技力向上のための主な活動として、海外で選手が活躍する機会を増やすために、さまざまな国際団体と連携し、国際大会へ選手を派遣しています。とくに2026年に愛知・名古屋で開催されるアジア競技大会に向けては、日本人メダリストがeスポーツ競技からも生まれることを目指し、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)の準加盟団体として、日本代表選手選考の準備を進めています。
eスポーツの普及定着に向けた活動としては、関係省庁とともにさまざまな法令課題の整理を進めています。また、eスポーツを通した共生社会実現のため、全国の37都道府県にある地方支部とともに、障がい者支援、高齢者福祉、地方創生、教育・部活動、地域交流などにも幅広く取り組んでいます。」
https://jesu.or.jp/contents/news/news-231026/
2024年7月号
【特集:スポーツとサイエンス】
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岡本 紗代(Sayo)(おかもと さよ)
GAKU創業者/CEO