三田評論ONLINE

【特集:団地の未来】
座談会:❝集まって住む❞から見える新しい豊かさ

2023/05/08

団地内の活動や人材を掘り起こす

大江 鈴木さんの言う「面白い人」は自治会や管理組合といったコミュニティ組織のルートではなかなか出会えない人ですよね。そういう人にどうやって表に出てきてもらうかは、私が長年エリアマネジメントに関わった横浜の洋光台団地でも考えていたことです。

洋光台では2つの空き店舗を「CCラボ」というフリースペースとして開放しました。「ルネッサンスin洋光台」というプロジェクトを推進する中で家賃を無償化し、運営にもお金を出して、地域内の活動を掘り起こす試みをやったのです。洋光台は、隈研吾さんが設計した駅前空間や、佐藤可士和さんが手がけた北団地の屋外空間も素晴らしいのですが、同時にCCラボという場所をつくる試みに手ごたえを感じました。新しい人材、資源を掘り起こすことはとても重要です。

自治会や町内会というコミュニティも当然あっていいですが、それだけではできることは限られます。でも複数のレイヤーがあることで、いろいろな人がそこにアクセスできるようになる。これまでの郊外コミュニティはそういうレイヤーが少なかったと思います。

もちろんいろいろなNPOの活動があったと思いますが、その活動は得てして地域性を持たず、一方で地域はそこをがっちり固めている自治会や町内会が公益的な形でやっていました。そこに、もう少し地域に根差し、かつ自治会や町内会とは違った形で新しい人が出てくるような仕組みが掘り起こされたらいいと思います。

実際、洋光台では、自治会や町内会の人たちもCCラボを見て、こんなにいろいろな活動があるのかとびっくりしていました。それらに決して否定的ではなく、何か一緒にやろうという雰囲気ができたことは洋光台での実験で評価すべきことかなと思います。

宮垣 洋光台の事例は団地の未来を考えるカギとなるお話ですね。西野さんの立場からはこの次を考える手がかりになることはありますでしょうか。

西野 よく民間の事業者と話をすると、「団地は宝の山だ」と言われます。団地でいろいろなことをしてみたいと。それはある種の実験かもしれませんし、ビジネスかもしれませんが、いろいろな業態の方が団地で何かやってみたいと考えています。

URは賃貸住宅を管理する立場ですので、これまでこうした取組みとは距離をとっていましたが、最近は変わってきて、例えば団地の中で自動運転の試験走行をやってみたり、高齢者の見守りサービスをやってみたり、あるいはDX技術の試験を行ったりしています。

こうした民間の人たちの発想を上手く取り入れてビジネスに結びつけていくと、今まで足りなかったところに手が届くかもしれないと感じています。

コミュニティに回帰することはもちろんいいことなのですが、やはり上手く回らない部分をどう補うのかという時に、新しい技術が必要になる気がしています。団地は新しい技術を実装しやすい空間かもしれません。

大学が引き出す異世代交流

宮垣 団地が未来を先取りするというとても重要なお話ですね。その切り口でいうと、大学や教育機関も関わっていけるような可能性を感じます。

私も支援を頂いてSFCの仲間と「みらいのまちをつくる・ラボ」という活動をやっていますが、面白いなと感じるのは、地域の課題に若い学生が絡むと、地域の関係性が少しだけ変わる。たとえば、子どもたちやお年寄りが学生と話す時間を楽しみに待っていて下さったり、ささやかな交流が起こるのを目の当たりにしています。

渡邉 大学と団地の連携は地方都市でも見られます。愛知県豊明市の豊明団地は近くに藤田医科大学があります。豊明団地は古く、エレベーターのない5階建てです。そこで、4階、5階に住んでいた高齢者の人たちが1階、2階に移り、4階、5階を医大生に安く貸しています。そして、空き店舗に地域包括ケアに関わるようなデイサービスなどが入り、そこが藤田医科大の学生にとって、ある種インターンの場にもなっています。

学生にとっては安く住めてインターンの場にもなり、その他の住民がサービスの利用者になるというわけです。しかも、高齢者には若い世代との交流が一番の社会参加のリハビリになっているのです。

コロナ禍でも、近くに学生がいることによってZoomの使い方を教えてもらうようなことがあったようです。こういうことも集まって住んでいるメリットだと思います。課題があることで住民同士が関わるきっかけが生まれるのは団地ならではです。

学生との関わりだけでなく、鈴木さんのように子育てがきっかけとなる面もありますし、高齢者と異世代の交流が、本人たちのウェルビーイングにもつながる面白さがあると思います。

宮垣 団地の中でどうやって多様性を設計するかという先ほどの話とも関わりますね。

渡邉 学生は4年間でいなくなりますが、逆に、いなくなるからこそ交流のきっかけがつくりやすいとも思います。

団地の未来は郊外の未来

宮垣 鈴木さんにとって団地の未来を考える上でカギとなるものは何でしょうか。

鈴木 これまでの団地には管理社会の暗いイメージがあったように思います。米国の著名なジャーナリストのジェーン・ジェイコブズもかつて団地には多様性がないと批判していました。ただ、住んでいる人たちは自分の団地が好きだと言う人が多く、これは海外でもそうです。そういう両方の意見があることを知った上で、私は志木ニュータウンに住み始めたのですが、実際に住んでみるとすごく良かった。

もともと近代化の象徴として団地はあったと思うのですが、今はかつて失われた人間同士の関係やコミュニティ、地域の人たちとの交流というものを、もう一度コモンズとして取り戻す場になろうとしています。しかも問題を抱えているからこそ実験ができるという面があって、とてもポジティブになれますし、何かポジティブなことを起こそうと思っている人にとってもチャンスになる。今日のお話そのものが団地の未来を示唆しているなと感じました。

大江 70代の僕が言うよりも、鈴木さんが言うほうがポジティブで楽しそうに聞こえますよね(笑)。僕は今行われているような実験やコモンズがもう少し周辺の市街地にも開かれるといいなと思います。周辺に住む人々も一緒に使えるものとして団地を捉えていくのも1つの見方でしょう。

一方でそこには課題もあります。今まで自分たちの管理費で管理したり、分譲団地であれば自分たちの所有物として管理したりしていたところに外から人が入ってくると、どう融和するか、コスト面をどう負担するかを考えることが必要になります。しかし、そういう課題を乗り越えて地域に開かれた団地というものを考えてみるのはとても大事なことなのではないかと思います。

団地はそれだけの資源を持っていると思います。実験もできるし、人材もいますから可能性は非常に大きい。そして、郊外全体の問題が集約的に表れているので、その解決策を郊外全体に広げていくことができます。団地からそういった大きなビジョンを描けるのではないかという気がします。

宮垣 今日の皆さんのお話から感じたのは、団地に対する平板なイメージと実態が相当違うということでした。団地はとても多様で立体的、彩り豊かな存在ですし、われわれは団地の豊かさや可能性に改めて目を向けるべきだと思いました。これからの地域や郊外のあり方を考えることは、おそらくわれわれのライフスタイルのあり方を考えることにとても近い。それを考える上で団地は重要な示唆を与えてくれる空間なのでしょう。

本日は有り難うございました。

(2023年3月28日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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