【特集:団地の未来】
座談会:❝集まって住む❞から見える新しい豊かさ
2023/05/08
「団地最高!」
宮垣 鈴木さんは、まさに現在、団地に住まわれているということですね。
鈴木 はい、典型的な公団住宅ではないのですが、鹿島建設が40年前に開発した「志木ニュータウン」という民間分譲団地に住んでいます。実際住んでみた印象は「団地最高!」という感じです(笑)。私の場合、入居時期と子育てのスタートが重なるのですが、団地は本当に子育てしやすく、コミュニティもしっかりしていて、移り住んで良かったと感じています。
志木ニュータウンは全体で8街区あり、計3300戸で形成されています。実は昨年、引っ越したのですが、今住んでいる街区から出たくない、このコミュニティから出たくないと思い、同じ街区内に転居しました。
コロナ禍の中でも、子どもたちはこの街区の中で遊んでいました。それができたのもお互いの顔が大体わかっているからです。学校は閉鎖され公園の遊具も使えない、そんな時でも街区内の広場が子どもたちの遊び場になりました。名前は知らなくとも、お互い見知った関係なので、安心感があったのですね。
コミュニティの結束が強く、お互いのことが何となくわかっているということが大きいと思います。街区内の全員のことを把握できているわけではありませんが、共同体としての意識みたいなものは生まれていると思います。
豊かに暮らしたいというニーズとコミュニティがマッチしていて、私にとって団地はすごく熱いのです。団地の中で豊かに暮らしたいというニーズは根強いように思い、また団地には面白いところがいっぱいあります。そういう場面を写真に撮って「#団地にくらすよろこび」でインスタグラムに写真を投稿したりしています。
宮垣 街区すら動きたくないというお話は興味深いです。今お住まいの街区と他の街区にははっきりとした違いがあるのでしょうか。
鈴木 どの住棟も同じようにつくられているので、本来は同じようなコミュニティが生まれるはずですが、やはり40年経つと全然違う文化になります。例えば私が住んでいる街区にだけ、まだ子ども会が残っています。
大江 それは子育て世代がいるからだと思いますが、若い世代が入ってくるのは、分譲の団地内で賃貸として貸すケースが増えているからなのですか。
鈴木 その通りです。面白いことに私たちの世代は最初に賃貸の部屋に入り、その後分譲を買う世帯がとても多いのです。都心への通勤圏内で緑も多く、とりあえず住んでみるか、という感覚で入った人たちがそのまま買っていくのでしょうね。
この時代の団地の豊かさとは
宮垣 鈴木さんがおっしゃる“豊かな暮らし”が何を指すのか、もう少し具体的に聞かせていただけますか。
鈴木 団地を語る時にハード面とソフト面、あるいはコミュニティ面の2つがあると思います。ハード面の豊かさは、まず歩車分離であることが大きいです。私は10年ほど前まで都内に住んでいたのですが、マンションの前は歩道のない道路で、ヒヤヒヤしながら生活していました。しかし、団地なら子どもが勝手に棟を出ていってもそれほど心配ではありません。街区公園がいたるところにあり、公共施設、郵便局や派出所、病院、学校も近くて、徒歩圏で暮らせるメリットがあります。また、そういう環境で生活していると、顔見知りともよく出くわすんですね。すると立ち話が始まったりして、今度はソフト面の話につながります。
私が自分の住んでいる街区が好きなのは、街区の植栽を管理する植栽委員さんの活動が活発なところです。散歩をしていると切り花をもらったり菜の花を分けてもらったりします。そうしているうちに私も子どもも別の友だちに会うということが起こる。そういう関係の豊かさは集まって住むからこそだと感じます。
宮垣 なるほど。URでも居住者が長く豊かに暮らしたいというニーズは高まっているのでしょうか。
西野 今URの住宅を管理する部門のかなりの部分が、豊かさに関わる仕事になっています。これまでは住宅の維持管理や苦情の処理といったことが多かったのですが、最近は環境整備に力を入れてほしいという声が多く聞かれます。
例えば、子育ての話が出ましたが、団地の稼働率が高いといっても、団地内の施設は空き店舗が結構目立ちます。団地には高齢の方もたくさんお住まいなので、ビジネスとして子育て世代とをマッチングし、空いているスペースを上手く活用して、高齢者の方に子育てのお手伝いをしてもらってはどうかというアイデアも社内から出ています。
誰が共用空間を管理するか
宮垣 歩車分離のような豊かな空間づくりがされていること、病院や店舗といった機能が街区の中にあること、ある種の自主マネジメント組織みたいなものが存在していること。これは60年代、70年代に団地が大量供給された頃にすでに考えられていたのでしょうか。それとも機能が移り変わった末に今の姿があるのでしょうか。
大江 僕は志木ニュータウンに足を運んだことがないのでよく理解できているわけではありませんが、分譲団地を管理する単位は一概に同じではありませんよね。志木ニュータウンはおそらく8つの街区ごとに管理組合をつくり、それぞれの街区の中で土地の共有持分を持ってみんなで管理しているのではないかと思います。
そこに住む人たちに、ここは自分たちのものなんだという意識があり、共有空間をどう上手く使っていこうかと前向きに取り組む街区もあれば、そうではないところもあると思います。鈴木さんがお住まいの街区はもともと空間が豊かなところに、ちょうどいいやりとりの中で豊かに使える時期がきたという感じかなと思うんですね。
UR賃貸住宅はURが委託している日本総合住生活(JS)が管理を手掛けていますね。URもJSも、人々が参加をする仕組みをどうつくり、安定的に運営するかというところで、まだ経験が十分にない状況だと思うんです。でも、何か工夫すれば、今、鈴木さんが体験しているような豊かさをつくり出せるのではないかと思います。
鈴木 まさにその通りです。私たちの街区はたまたまハードを上手く使いこなせていますが、それはかなり属人的な部分があります。実際、植栽委員をやっている年配の方がすごくいい人で、その人が周りを上手に巻き込んでいる。500戸くらいの街区ですが、1人の人の影響は大きい気がします。
逆に、気難しい自治会長さんの下では同じ団地内でもルールが厳しい街区になりますし、この間、とても素敵な町内会長さんが亡くなってしまったのですが、人に頼ってばかりいるとその後の管理が危ぶまれることもあり、自主マネジメント組織というものについて考えさせられました。
今までの団地はハードの管理が中心でした。でも、このハードをどう上手く使いこなし、豊かな暮らしをつくるのかというコミュニティづくりが専門のプロもそこにいてほしいと思います。管理費は毎月とても大きな金額ですから、そこからほんの数パーセントでも捻出してほしい。むしろ、そういうことのために管理費があるはずなんです。
一方で何事もお金で解決するようになると、うちの街区のような住民の自主的な行動もなくなってしまうおそれがあります。それはそれでよくない面もあるのかなとも思いました。
宮垣 私は専門の1つがNPO論なのですが、今の話はNPOの難しさと似ていると思いました。皆、もともと自主的に集まっているのに、活動を維持継続するためにはそこで事業を行い、何らかの収入を得て常駐する人を雇用します。そういう中で上手くいく場合といかない場合があり、鈴木さんの言うとおり、“してくれる人”と“される側”の関係に固定化すると要求しか出てこなくなってしまう恐れがある。逆にコミュニティ性みたいなものが維持できれば、ある程度おたがいさまの関係でやっていける。その按配が難しいところです。
2023年5月号
【特集:団地の未来】
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