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【特集:団地の未来】
座談会:❝集まって住む❞から見える新しい豊かさ

2023/05/08

多文化共生という新たな課題

宮垣 一方、巷間言われているように高齢化をはじめとして、今、団地が直面している課題について触れないわけにはいかないと思います。大江さん、いかがでしょうか。

大江 住民の高齢化もそうですが、近年多くの外国人居住者の方が団地に住むケースが増えています。この新しい住民の方とのコミュニケーション不足の課題には触れておいたほうが良いと思います。

埼玉県の芝園団地は外国人居住者比率がとくに大きく、神奈川県大和市と横浜市の境にある公営のいちょう団地も外国人居住比率が高いことで知られています。

これらの団地には住民間でのコミュニケーション不足の問題がずっと指摘されています。よく多文化共生と言われますが、古くからの住民が次第にいなくなり、後から入居した人たちが増えた時、共生をどのように実現していくのか、その仕組みも変化していくと思います。

一方、団地が抱える課題には他にも高齢化や老朽化への対応、空き店舗の利活用といった課題もありますが、団地だけが深刻かというと、そういうわけでもありません。

団地というものは都市が拡大する中で、居住の場を受け止めるために郊外に計画的につくられたものです。その大規模なものがニュータウンと呼ばれるわけですが、団地やニュータウンには郊外全体の問題が投影されています。1都3県で3700万の人口のうち、23区に1千万人弱いますが2千万人以上はその外側にいるわけです。郊外の課題はその2千数百万人の誰もが関係するものです。郊外の課題が団地に集約的に見えるという見方が必要だと思うのです。

老朽化への対応

宮垣 団地自体の老朽化は、建替えを行う際に様々な利害関係を調整し意思決定をするためのプロセスづくりの課題とも結びつくと思いますが、西野さん、いかがでしょう。

西野 UR賃貸住宅はオーナーがUR単独ですので、分譲マンションのように法的に合意形成を図ることはないのですが、お住まいの方にはご理解を得て移転してもらわなければいけませんし、戻っていただくにしても、別のUR団地を斡旋するなりして、仮住まいしていただくことになります。

他の団地を斡旋する場合、100人が100人にご納得いただけることはなかなかありませんが、説明会を開いた後、2年かけてきちんと説明し、転居のご理解をいただいた上で建替えを具体的に始めるというルールを設けています。しっかりしたコミュニティが形成された団地の場合は、皆で移り住みたい、皆で戻ってきたいといったご要望もあるようです。

宮垣 URから見て象徴的な課題や取組みはありますか。

西野 私たちはあくまで貸家業なので、お住まいの方の安全安心にコストを掛けなければいけない。そのコストを家賃で回収することになるわけですが、それを両立させるのはなかなかハードルが高いことです。

また、これは社会的使命としてということですが、「地域医療福祉拠点化」といって建替えで生み出された土地を活用し、地域に開かれた医療福祉拠点を誘致したり、行政や地元NPOと組んで、見守りや地域のサポートをする業務が増えています。

大江 団地は立地次第で建替え後の利活用を上手くできるところと、それが難しいところがあるように思うのです。古い団地を建て替えていく際の課題はどういうところでしょうか。

西野 はい。稼働率91%と申しましたが、それを維持できているのはやはり家賃水準と需要とがバランスしているからです。しかし、そういった団地は私鉄の駅からバスで10分、15分といった郊外で、稼働率は上がるものの、家賃水準との兼ね合いで経営的にはなかなか苦しい面もあります。

現在71万戸と言いましたが、おそらく今後はもう少し減ることになると思います。建替えを行っても家賃で回収できない場合があるからです。そうなると、現在お住まいの方は、ご理解をいただいたうえで他の団地などに移っていただくことになりますが、お住まいの方の居住の安定を図りながらどうダウンサイジングしていくかというのが経営課題の1つです。

高齢化が進む公営住宅団地

宮垣 団地の今日的課題ということについて渡邉さんはいかがでしょうか。

渡邉 やはり高齢化と外国人居住比率の高いエリアでしょうか。とくに外国人居住は公営団地に顕著で、外国の方は日本で賃貸住宅を借りにくいので、どうしてもそこに集まらざるを得なくなります。例えば、芝園団地や西葛西団地、あるいは豊田市のような工業都市ですね。外国人の居住率が高まるがゆえに合意形成の問題も生じます。

日本の団地は管理スタイルが独特で管理組合があり、かつ自治会があるという二重構造があります。これらが良いガバナンスをつくる場合もあるのですが、事情がわからない人間からすると、仕組みがよくわからない。ただでさえ説明しにくい仕組みがあり、言語も違い、文化も違い、かつ年齢層や家族スタイルが違うような状況で、共生をしていくのは、なかなか難しい挑戦です。

高齢化ももちろん重要な課題ですが、この点が本格的に問題となるのは、やはり公営住宅です。なぜかと言うと長い間家賃が変わっていないからです。公営住宅は、入居世帯の収入によって家賃が決まる応能応益制度をとっているので、収入の低い高齢者は低廉な家賃で住み続けられます。

西野 URでは現在、2年ごとに家賃の見直しを行うというルールになっています。

渡邉 そうですね。かたや公営住宅は、家賃が変わらないことによって高齢者が出にくい状況をつくり出しているとも言えます。バリアフリーではまったくなく、必ずしも良好ではない生活環境であるにもかかわらず、同等の家賃水準で転居できる先が市場にはない。自治体の新たな住宅供給も、この人口減少の中で行われません。そうすると老朽化した公営住宅の居住者の6、7割が高齢者といった割合になる。こうした状況ではさすがに支え合いといった話も現実的ではなくなります。

団地の特徴は、長年住んでおられる方々はスタートラインが年齢層も収入も大体同じということです。入れ替わりがあるとある程度多様になっていくのですが、高齢の居住者が高い比重を占める団地は、それが多様にならなかった団地です。本当はそこに多様性をつくる仕掛けがどこかで必要だったのですが、これまでの住宅政策に取り入れられてこなかった。

とはいえ、固定化したものを壊すのは大変です。国立競技場建替えの際に霞ヶ丘団地の立ち退きが問題となりました。もちろん住んでいる方の思いはよくわかるのですが、あの立地で、あの家賃水準を認めざるを得なかったのは、政策に問題があったのではないかと思わざるを得ません。団地で起きているのは単なる高齢化というより、住民が動けなくなっていく状況での高齢化なのかと思います。

外国人居住の問題も本来は市場でもっと多様な形を探れるはずですが、難しい現実があります。そのある種の矛盾みたいなものが団地に集約され、狭い空間で様々な問題が起きています。

集まって住むことのメリット

大江 一方で団地には集まって住むことでサービスをまとめて提供しやすいといったメリットがあります。例えば、いちょう団地では外国人の支援をするNPOがつくられました。高齢者の集住地という点も考えようによってはメリットになります。特定の居住者層を対象にサービスを組み立てることが可能ですから。

実は公営住宅でも、高齢者が入れ替わっている状況もあるのです。公営住宅は高齢者の応募が非常に多いのです。逆に言えば、民間の賃貸住宅は高齢者の入居に関して非常に厳しく、安心して住めるという点でも公営住宅の需要は高い。こうした状況を見ると、高齢者向けの公的サービス、あるいは民間サービスや非営利のサービスも組み立てやすくなるというプラス面があると思います。

渡邉 そうですね。新宿の戸山団地はまさに高齢者が6割という団地ですが、1階には「まちかど保健室」というスペースがあり、看護師の方々が保健室のようなものを運営しています。こうしたサービスは問題先進地域だからこそリーチしやすい利点があると思います。

一方で、戸山団地はやはり大規模で、しかも場所のメリットがあるからこそ成立している面があります。2、3棟の郊外型市営団地では厳しい現実があります。こうした課題は状況ごとに考えるのが大事ですね。団地に未来がないとは思わないですけれど、問題もたくさんあるのは事実です。

宮垣 システムに委ねてしまった近隣への信頼を取り返すというお話の文脈で、コミュニティ活動が生まれている状況と、もう一方にはそれだけでは手に負えない深刻な状況もあると思います。それを政策的な課題としてどう解決に導いていくのか。外国人居住者の契約の問題、要介助や独居の高齢者、低所得者の抱える課題など、私たちの社会が今抱えている矛盾のようなものを、全部団地という空間が引き受けている側面もあるようですね。

鈴木 団地居住者として感じるのは、やはり管理組合や町内会の活動は誰もができればやりたくないと思っているところが問題かなと思います。そうすると、このまま高齢化が進むにつれ、じわじわと弱体化していくだけのような気がします。先ほど、子ども会が存続したと言いましたが、実は今年は私が会長をやるのでつぶさないでくださいと言ったのです。地域のお祭りも減りつつある中、どうやってやる気を保つかといった解決策はまだ全然見えていないと思っています。

一方で、空き店舗化した商店街に新しく喫茶店や地域の施設をつくる事例は結構あるので、そういうところから新しいコミュニティが生まれてくるようにも思います。

私はニュータウンの中の戸建て住宅で育ったのですが、そういう場所は誰も住まなくなり、関心を持たれなくなると切り捨てられかねません。しかし、団地は多くの人が集まり、互いに関心があり、思いもあります。課題はあるにせよ、問題が可視化されたときに誰か1人でも動ける「面白い人」がいると、状況がガラリと変わるのをこれまでにいくつも見てきました。

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