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【特集:循環する経済と社会へ】
座談会:リサイクルを超えた循環型社会を作るには

2022/12/05

循環型社会のデザインのために

大沼 需給のバランスが変わるとあっという間に技術が衰退してしまったり、技術革新が進まなかったり、産業構造が不可逆的なところにいってしまうということはよく聞きます。特に資源循環、つまり静脈部分だと顕著なのかもしれないですね。

最後に、循環型社会のデザインの課題はこれだということを、一言ずつおっしゃっていただければと思います。

山本 資源循環の前提となる静脈側と動脈との1つの大きな違いが、発生量をコントロールできない、あるいは遅れて出てくるということがあります。生産はやめると言ったらその段階でなくなりますが、ゴミは後からどんどん出てくる。そうすると適正処理の確保が重要です。

サーキュラーエコノミーのようなきれいな絵を描きつつも、どうしてもコントロールできずに出てくるものもあるので、適正な処理のための視点は忘れないでやらないといけない。

例えば、容器リサイクル法の中に入らずに、もっと上流でメーカーが、廃ペットボトルのきれいなものだけが欲しいから先に売ってくれ、と持っていってしまうこともあるわけです。その一方でシステムの中に汚いプラスチックが残されてしまう。そういった汚いプラスチックが上手く処理されないような状況が起こると、それはやはりまずい。その両にらみは忘れてはいけないのではないかと思います。

島村 作って売ればいいという、いわゆる株主資本主義の最たるところに生きていた企業が姿勢を変えなければいけない時代になっている。本当に公益資本主義といいますか、ステークホルダー資本主義というところが、今、求められています。

その時、作ったものを原料の調達、開発から廃棄までを、ライフサイクルアセスメントではないですが、CO2だけではなくすべて企業は自分で認識し、必要な対策を打っていくことが求められる時代だと思います。

ただ一社だと力が弱いので、企業あるいは社会の中でのネットワークをもう一度再構築することによって、新たな循環型社会を目指していく。これがまさにシュンペーターが言っている新結合だと思います。これを無視する企業は今後、社会ではビジネスができない状況になってきたという認識を常に持つべきなのではないかと思います。

「誰も取り残さない」という原則

高田 環境省のプラスチック問題への視点は、どうしても廃棄物管理、あるいは資源循環の視点が強過ぎて、プラスチック、特に化学物質の生物への影響という視点が非常に弱いと思います。そこを強化していかないと、循環はしているものの、系の中を流れる化学物質の量が変わらない、むしろ増えてしまい、生態系、あるいは人への有害化学物質の曝露が増えてしまうと思います。有害化学物質の曝露という視点は忘れてはいけないと思います。

そして、何か具体的な影響が出ているから規制する、というのではなく、影響が出やすい方にすでに影響が出ているから規制する、という予防的な観点が大事だと思います。

SDGsには17の個別目標の前に、「誰も取り残さない」という大きな目標があります。化学物質の影響は個体によって非常に差があるので、影響の出やすい、化学物質過敏症の方などにすでに影響が出始めているのは事実です。われわれの体の中にプラスチック由来の化学物質が蓄積しているのも事実です。両者の因果関係のとれる事例はまだ少ないですが、弱い方には影響が出始めています。子宮内膜症の患者さんの血液からプラスチック添加剤が検出された事例や、先ほどの、妊婦さんの死産の原因としてプラスチック製品が疑われるような研究成果も出てきています。

予防原則、あるいはSDGsの「誰も取り残さない」という原則を考えて、ヨーロッパのようにもう少し化学物質の問題も予防的に扱っていかなければいけないと思います。

プラスチック条約の交渉の中でプラスチックに含まれる化学物質、特に添加剤をどうするのか、が課題になっていると聞いています。プラスチックに含まれる化学物質の問題は廃棄物管理、資源論と同等に扱って、循環型社会を作るという中に入れ込んでいかなければいけないと思います。

大沼 では、最後に塚原さん。今は環境情報学部教員のお立場なのに、環境省のお立場としてお聞きしてしまって申し訳ないのですが、行政側からのコメントをお願いいたします。

塚原 生産と消費、それから廃棄のそれぞれの距離がすごく離れてしまったのが、そもそもの大きな問題なのだと思います。消費者から見て、どこで作ったか分からず、捨てた後はどこへ行くか分からないという消費の仕方が、リスクを大きくしてしまった。予防原則なども含めてリスクへの向き合い方を考えていかなければいけないと思います。

SDGsの採択が追い風となり、環境省が直に企業とお話しすることも増えてきています。これから、政策も規制型ではなくガバナンス型が主流となっていくのではないでしょうか。環境省から企業に対しても、もっと踏み込んだアイデアやコラボレーションの方法を提案できたらいいなと思います。そして、何より行政の役割として重要なのは、これから活躍できる企業が育っていくような公正な競争ができるビジネスの土台を作ることだと思っています。

加えて市民への目線で言えば、脱炭素も資源循環も、暮らしに密着した、例えば食べ物やファッションの問題と深くかかわっていることに目が向くような発信をしていきたいと思っています。

環境が危機的状況にあるのは間違いありませんが、環境ばかりで旗を振っていても響きません。皆が幸福を追求し、その結果として環境問題が解決されるような、そんな未来を描ける政策が求められていると思います。

大沼 資源循環という言葉から想起されることをはるかに超えた、いろいろな要素が絡み合っているのが資源循環をきちんと実現した社会なのだということを、今日、皆さんに教えていただいたような気がします。

非常に示唆に富んだお話をいただきました。私も大変勉強になり、お礼申し上げます。

(2022年10月24日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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