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【特集:循環する経済と社会へ】
座談会:リサイクルを超えた循環型社会を作るには

2022/12/05

マイクロプラスチックの影響

大沼 一昨年、レジ袋が有料化されるという動きが出てきたのは、プラスチックの海洋汚染の問題が大きかったと思います。高田さんは長らくこうした海洋汚染の状況をご研究されてきた中で、自然界の汚染の現状をどのように認識されていますか。

高田 2022年3月の国連環境総会でプラスチック条約(法的拘束力のある国際約束の交渉を開始する決議が行われました。プラスチック汚染の地球規模での広がりとその影響の深刻さを反映したものです。環境省の1つのきっかけがダイオキシンということでしたが、もう1つ、プラスチックに関しては、環境ホルモンの問題が1990年代に出てきたことも重要なことだと思います。プラスチックはそれ自体が環境ホルモンになるものもあり、添加剤が環境ホルモンそのものであるものがいくつもありますが、いまだにそれらは使われています。

環境ホルモンは最終的に生態系の中に入って人に曝露されます。特にプラスチックの廃棄物は、マイクロプラスチックになって魚介類に入って、そこで溶け出し魚介類の身に蓄積し、食物連鎖を通して人に曝露される。その視点が、環境省の政策で非常に弱い。これは何度も私どもが委員会で言っているのですが、変わらない。環境ホルモンの問題が無視されてきたというところが一番大きな問題だと思っています。

今日もここにペットボトルの水が置かれている。これは置いた方が悪いというより、そういうことを意識啓発しない環境省が問題だと思うのです。アイテムごとにみると、海のプラスチック汚染で一番多いのがペットボトルです。しかし、そこには何も切り込まない。リサイクルをすればいいのではないかという発想が問題だと考えています。

リサイクルしても、使っている以上、飲めばこの中に入っているマイクロプラスチックや添加剤等の化学物質がわれわれの体に入ってくるリスクが上がる。最近の中国の研究では、水道の水で暮らしている人とペットボトルで水を飲む人を比べると、糞便中のマイクロプラスチックの量が、ペットボトルで飲む方のほうが多いという結果も出ています。

サーキュラーエコノミーというのは、私はリサイクルとは違うと思います。素材の選択を替えることと素材自体の社会の中での回し方を変えていくのがサーキュラーエコノミーで、単にリサイクル率を上げれば、それでサーキュラーエコノミーが達成されたと考えていたら間違いだと思います。ペットボトルをいくらリサイクルしても、使い続ける限り、人間が化学物質に曝露されてしまうことは変わりない。

どれぐらい人への影響があるのかについてはまだ国際的にもわからない部分が多いけれど、欧米では予防的に、「使わないでいいところは減らしましょう」という方向で動いてきています。

ヨーロッパでガラスビンが多いというお話でしたが、それは単にリサイクル率や価格の問題だけではなく、プラスチックを飲食に使うことに対する危機感がヨーロッパの方のほうが高く、日本は低いので、使い続けているのだと思います。

温暖化の問題から考えても、ガラスのビンのほうが優れているのは、私もその通りだと思います。ペットボトル1本を作ってリサイクルすると140グラムのCO2が発生します。ガラスの製品であれば80グラムで抑えられるのです。

大沼 高田さんは海岸に漂着しているペレット等を集められて、海の汚染調査をされていますが、その研究でどういうことがわかるのですか。

高田 海岸に漂着しているプラスチックを拾い、その中に含まれている有害化学物質を測っています。いろいろなものが含まれていますが、大きく分けると2種類で、1つは周りの海水から付いたもの。もう1つはプラスチックにもともと添加剤と言われる薬剤が練り込まれていて、それが残留しているものです。最近、その残留に注目しています。

プラスチックは浮いて遠くまで流れるという性質があります。だから離島、例えばイースター島でも小笠原でも見つかります。そういう所で見つかったプラスチックにも、何百kmも離れた工場での製造時に配合された添加剤が残留していることも最近わかってきました。プラスチックが添加剤等の化学物質を遠くの離島まで運んでいるのです。もともと汚染がないような脆弱な生態系にリスクを与えていることが見えてきました。

大沼 海洋生態系ということですね。

高田 はい。ただ、このマイクロプラスチックは身近な所にもあります。われわれが出す下水にも含まれていますし、路上にも落ちていて雨で洗われて川や水路に入っていきます。それらが最終的には海洋生態系に入っていきます。

このような汚染がいつから始まったのか調べるために、皇居のお濠で泥(地層を測ってみました。地層の深い所、江戸時代にはもちろんマイクロプラスチックは含まれていません。1950年代になると少し出てきます。2000年代になると、それが10倍以上に量が増える。われわれが大量にプラスチックを作り、消費することによって汚染が急速に進んでいることがわかってきました。

大沼 大気中にも漂っているんですよね。それがお濠の中に堆積してしまうということですね。

高田 そうです。それに加えて、道路や地面の上に落ちているものも雨が降ると洗い流されて、地層の中にたまっていきます。まさに人新世ですね。人の影響が地層の中まで入ってしまう時代の象徴だと思います。

二律背反を分析する視点

大沼 山本さんはずっと廃棄物の研究をされてきました。その中で日本の資源循環政策の特徴や、資源循環の動きはいかがでしょうか。

山本 高田さんがおっしゃったリサイクルがサーキュラーエコノミーのゴールではないということは国際会議の議論などでも痛感しています。でも、われわれは急に理想にはたどり着けない。実際にはそこに到達するまでの道筋が大事です。明日どうするかを考えるという意味でいうと、ある程度、今日ここにペットボトルがあるのはしょうがないのかなという気もする(笑

そういう背景の上でお話したいと思うのですが、まず、リーケージと呼んでいる政策の漏れの問題があります。

塚原さんからダイオキシンの話がありましたが、1990年代は焼却施設が非常に小型だったので、どうしても不完全燃焼してダイオキシンが出てしまう。それを大型化する補助金が2000年頃から環境省から出ます。

ところが、同時にゴミを減らさなければいけないという3Rの各種法律もできてゴミは減った。つまり燃やすものが減っていく中で、焼却施設はどんどん大きくなっていった。その結果、焼却炉のキャパシティが余って、一部の自治体のリサイクル率が低くなってしまったことがありました。

1000度ぐらいだと完全燃焼してダイオキシンが出ないのですが、燃やすものがないからと焼却を止めると、いったん200度から600度ぐらいの危険なところを通るわけです。そしてまた火を点けるともう一度通る。ダイオキシンが出たら大変だという現場の人の思いからすると、ずっと回し続けたいという思いがある。

このようにあちらを立てればこちらが立たずというようなことがあるのですが、経済学はそういうことを結構上手に分析するので、そのような視点が大事ではないかと思っています。

また、先ほど島村さんからコンビナートのお話がありましたが、非鉄の金属精錬は銅精錬、亜鉛精錬、鉛精錬あたりが日本だとまだ残っていて、リサイクルでお互いの廃棄物を融通し合っています。銅精錬から出てきた亜鉛を別会社の亜鉛精錬の人に渡している。日本全体のネットワークでやってぎりぎり国際価格に届くのです。だからそのネットワークが、ひとたびどこかで切れると一気に価格競争力がなくなってしまいます。

最大の危機は、韓国が違法な処理で低価格で日本中から廃鉛バッテリーを買い漁ったことでリサイクルする鉛バッテリーが国内になくなりそうになった時です。2016年6月に韓国国内で不適正処理が摘発されたタイミングで、早急に環境省が動かれてなんとか維持できましたが、今後、貿易が不確実になってくる中で、こういうネットワークの維持は資源循環の世界の中では大事なのではないかと思います。

日本のゴミ処理

大沼 日本のゴミ処理の特徴はいかがですか。

山本 日本のゴミ処理は、断然、焼却処理が多い。80%ぐらいがそうで、OECDの他国はほとんどが30%、20%台です。焼却処理に非常に依存しているのが日本のゴミ処理の最大の特徴です。

そこでエネルギー回収してリサイクルをしていると日本は主張しますが、これは実はあまりよくない。というのは、国際的には一定以上のエネルギー効率がないとエネルギー回収をしたことにならないのです。ゴミ発電のエネルギー効率は決してよいとは言えず、通常焼却扱いになってしまい、制度的にはリサイクルにならないので、日本は燃やし過ぎであることは間違いないと思います。

ただ一方で、他国は埋め立てに依存していますので、それも決して環境によいことではなく、そこから温暖化されていないとも言えない。リサイクルなのか、ゴミそのものを減らしていくのか。このあたりの議論は各国の産業の特徴、気候なども含めて難しい話しになるのではないかと思います。

高田 エネルギー効率が悪いというのはそうなのですが、プラスチックに関して言えば、エネルギー効率がよくても石油からできたものを燃やしているだけでプラスチックになるわけではないので、リサイクルではないですよね。

山本 おっしゃる通りです。現状、効率が低い場合、エネルギーリカバリーにもカウントされないということです。

高田 熱回収を、「サーマルリサイクル」という誤った和製英語を作って国民に誤解を与えてきた。最近は環境省は使うのをやめていますが、ある時点まではそれをやっていたので、それも日本でこれだけプラスチックが氾濫する一因になったと思います。

プラスチックを燃やすことはリサイクルではない。サーマルリサイクルというのは誤った言葉なのだということを、もう少しわれわれ専門家が社会に浸透させていかないといけないと思います。

大沼 塚原さん、今の話を聞いて行政側の立場から何かコメントなどはありますでしょうか。

塚原 まず、個人的には非常にマイクロプラスチックの問題を懸念していて、ヘチマを育ててナイロンたわしの代わりにしたり、マイクロプラスチックが流出しないフィルターの付いた洗濯ネットを使うなど、気を付けています。次世代のことを考えると、小さなことでも影響の蓄積を減らしたいという思いからです。

化学物質の製造量、使用量は右肩上がりに増えています。環境ホルモン以外にも、影響や存在実態がはっきり分かっていないものがあり、課題です。例えば、ナノ材料の評価手法や環境中の医薬品の存在実態について国際的な議論があり、我が国でも知見の集積に努めています。

プラスチックの添加剤の影響は、まだ確実なことは分かっていません。しかし、プラスチックは生活の中に深く入り込んでいるため、添加剤の曝露は確実に増えています。曝露量のモニタリングや健康影響に関する研究や議論を進めていかなければいけないと思います。

私は、環境省では化学物質にまつわる未解明の問題へのアプローチを担当していました。その1つとして、予防的な取り組みの考え方に基づく、環境中の化学物質による子どもの心身の健康への影響等の解明を目指す大規模な疫学調査(エコチル調査:子どもの健康と環境に関する全国調査が挙げられます。

全国の約10万組の親子の協力を得て、お腹の中の赤ちゃんが13歳になるまでを追跡します。エコチル調査のデータを用いた研究成果として、最近、名古屋市立大学が、市販のお弁当や冷凍食品を食べる頻度が多い(週に3回から7回以上妊婦は、少ない(週に1回以下妊婦に対して、死産の確率が2.6倍になるという分析結果を発表しました。

この発表を受け、プラスチック容器を電子レンジでチンするところから添加物などが出ているのではないかという報道もありましたが、その研究では、まだ化学物質との因果関係までは検証されていません。社会経済的な要因、生活習慣などの要因も複合的に影響していると考えられるため、はっきりと原因を特定し、予防策を講じるためには、さらなる研究が待たれます。

高田さんが指摘されたように、燃やして適正処理をしたり、リサイクルしたりすれば解決というのは違います。プラスチックのリサイクルでは添加剤も再生プラスチックとして一緒にリサイクルされる可能性がありますが、添加剤の中に有害なものが含まれていれば、リサイクルによって濃縮するおそれがあります。

熱回収(プラスチック資源循環法では、リサイクルと区別していますも温暖化を進める要因となります。根本的には、やはり使用を減らさないとならない。特に、プラスチックはワンウェイの利用が多すぎます。

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