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【特集:循環する経済と社会へ】
座談会:リサイクルを超えた循環型社会を作るには

2022/12/05

  • 高田 秀重(たかだ ひでしげ)

    東京農工大学農学部環境資源科学科教授
    1984年東京都立大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。博士(理学)。2007年より現職。専門は環境汚染解析。国連の海洋汚染専門家会議のメンバーとして、世界のマイクロプラスチックの評価を担当。

  • 島村 琢哉(しまむら たくや)

    AGC株式会社取締役会長

    塾員(1980経)。大学卒業後、旭硝子(現AGC)株式会社に入社。執行役員化学品カンパニー企画・管理室長等を経て、2015年代表取締役兼社長執行役員CEO。21年より現職。公益財団法人旭硝子財団理事長。

  • 山本 雅資(やまもと まさし)

    東海大学政治経済学部教授

    塾員(2008経博)。博士(経済学。富山大学極東地域研究センター教授等を経て2021年より現職。専門は環境経済学。環境省 「循環基本計画に関する指標検討ワーキンググループ」委員。

  • 塚原 沙智子(つかはら さちこ)

    慶應義塾大学環境情報学部准教授

    東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻修士課程修了。2005年環境省に入省。気候変動、化学物質管理、国際資源循環等の政策立案に取り組む。21年より現職。専門は環境政策。

  • 大沼 あゆみ(司会)(おおぬま あゆみ)

    慶應義塾大学経済学部教授

    1983年東北大学経済学部卒業。88年同大学院経済学研究科博士課程後期単位取得退学。博士(経済学)。東京外国語大学助教授等を経て2003年より現職。専門は環境経済学。

ダイオキシン問題から3Rへ

大沼 「循環型社会」は以前より日本の環境政策の柱の1つですが、近年、プラスチックの問題が非常に注目を集めるようになり、市民の関心も高まっています。また、今年4月からは「プラスチック資源循環促進法」が施行されています。

そして今日、多くのステークホルダーがSDGsを目標に掲げていますが「循環」についても目標12の「つくる責任、つかう責任」と合致しているだけではなく、プラスチックの問題が顕著になって以来、目標14の「海の豊かさを守ろう」とも関連しており、ますます重要なテーマになっていると思います。

今日は皆さまに、循環型社会をますます進展させていくために、現状をどのように捉えているのか、どういう課題があり、今後、どんな展望があるのかをお話しいただきたいと思います。

最初に、環境省で環境政策に関わってこられた塚原さん、日本の資源循環政策がどういった理念のもとで動いてきたのか、お話しいただけますか。

塚原 1950年代半ばからの高度経済成長期、消費の増加とともにゴミも急増し、処理困難物を含む産業廃棄物も増えました。その頃、環境省の政策は不適正処理への対策というところが大きかったと思います。

つまり不法投棄によって安く悪い処理をしてしまおうというものをどう規制するかということです。今はリサイクルに関する政策の話題も多いですが、不適正な行為の取り締まりから出発したので、廃棄物処理法(1970年制定にもそういう考え方に基づく理念が表れていると思います。

転機は1990年代後半に浮上した焼却処分場からのダイオキシン(ヒトへの発がん性が疑われる物質の発生が社会問題化したことでした。当時の環境庁にとってダイオキシン問題は衝撃が大きく、短期間に影響評価を取りまとめ、規制の整備(水大気の基準や焼却施設の構造、維持管理の基準など)をしなければなりませんでした。そこで苦しい思いをした中で、そもそもゴミを燃やすのではなく、減らさなくては駄目ではないか、という話になり、処理よりも3R(Reduce、Reuse、Recycle)が優先される、と循環型社会形成推進基本法(2000年制定)において明記されることになります。

まずリデュース(ゴミを減らす、リユース(再利用するが重要で、それからリサイクルがある。そうした意識も浸透していきました。「もったいない」という言葉が注目されたり、小学校などでの教育、家庭でのゴミの分別も諸外国に比べ非常に細かく実施され、自動車や家電など物品ごとのリサイクル法もたくさん出てきたわけです。

今、話題になっているプラスチック資源循環法は、個別リサイクル法のアプローチとはかなり異なっています。まず、素材に注目している点が一番大きい。また、製品の設計段階から廃棄段階までのライフサイクルを見るというところが、もう1つ大きな違いです。そして、プラスチックを使っているものすべてをコントロールの範囲に入れ、いろいろなプレーヤーを対象にしているのが大きな特徴かと思います。

このように、これから素材に注目した資源政策的な考え方が主流になっていくのではないかと見ています。しかし、使用済み製品は、資源的な価値のある部分とゴミとして処理される部分が混ざった状態で排出されます。その中から資源を取り出すためには技術が必要で費用もかかり、リサイクルに経済合理性がない場合もあります。

だからといって丸ごと外国に処理を依存してしまうと、資源もろとも適正処理やリサイクルの技術などエコシステム的なものが全部流出してしまうので、処理技術を国内でしっかりと維持するという基盤が崩れてしまう可能性があります。

私は、環境省で有害廃棄物の輸出入を規制するバーゼル条約を担当していました。日本から海外へ雑多な状態の金属スクラップやプラスチックの混合物(雑品スクラップが輸出され、有価で取引されていたのですが、資源も流出しますし、発展途上国での不適正なリサイクルや処理による汚染や健康被害が生じるという問題がありました。

その時、資源の流れに大きな影響を及ぼすものとして実感したのは、資源価格です。資源の価格が上がったり下がったり、逆有償(廃棄物処理の取引において、手元のコストがマイナスとなる状態になったり有価になったりする中で、環境汚染を防止し、資源循環を促すという方向性と既存の法律がうまく嚙み合っていなかった点があり、非常に大きな課題でした。

最終的には、雑品スクラップは、有価であっても取り扱いを規制できるよう法改正によって対応することになりましたが、廃棄物処理やリサイクルに関わる事業を支配する経済には、根本的にそういう問題があるということを強く意識しています。

大量生産という構造からの転換

大沼 転機になったダイオキシンの問題が大体2000年頃ということです。京都議定書採択も1997年ですから、日本では環境の時代というのはそのあたりから始まったのだろうと思います。

島村さんは素材メーカーで長らく様々なビジネスを展開されてきましたが、経済界の資源循環への認識についていかがでしょうか。

島村 歴史的には石油化学がブームになり、プラスチックが世に出てきた時、それが汎用化していくことによって使い捨ての経済というものが、消費の利便性などからどんどん普及していったのだと思います。つまり、大量に作ることによってコストを下げるという基本的な考え方で、ワンウェイでどんどん作って儲けていく。これがまさに日本ではオイルショック前の基本的な考え方だったのでしょう。

併せて、日本の場合は資源が少ない国なので海外から資源を輸入し、加工して輸出することで外貨を稼ぐという基本的な経済構造を作った。その過程においてですが、海外は1つの会社が非常に大きく、化学プラント、コンビナートを1社で持っているところが結構多いですが、日本の場合は各社のサイズがあまり大きくないので、小さな会社が集まって大きなコンビナートを作るという発想でした。

Aという会社が物を作り、そこから出てきた副産物をBという会社の主原料にしてまた物を作っていくという仕組みが、日本の化学コンビナートではでき上がっていた。それは、廃棄物を減らすことにおいては非常に効果があったと思うのです。ある意味、非常に合理的で、物を大切に使って生産物を作るというプロセスだったと思います。

これが大きく変わったのが、1970年代の2回のオイルショックです。これでまず原料調達の苦しさが出てきた。もう1つ1985年のプラザ合意によって一気に円高に移ることで、それまでの日本の産業界を支えていた、輸出で外貨を稼ぐというシナリオが崩れていったわけです。

円高に振れると、輸出競争力が一気に半分以下になってしまった。ところが生産能力はそのまま。しかも各社が廃棄物を引き取り合いながら作っていたものが、それぞれの会社の立ち位置が変わってきてしまい、コンビナートの精神が機能しなくなってきたのです。

大沼 歴史的にはそのような変遷があるのですね。

島村 そのようなことから、1980年代以降、産業界でもできる限り、廃棄物を減らしていくようになります。まず、1つの製造プロセスにおける歩留まりを上げていくことによって廃棄物そのものを減らし、かつ製品の生産性を上げる。昔のようなコンセプトだと規模の経済は取っていけないということが少しずつ分かり始め、メーカーは皆、「量から質への転換」と言い出しました。少ない量でも利益を高めていくためには、付加価値の高いものを作っていくしかない。

もう1つ、今までは工場で作る時のコストは重要視していた一方、それ以外の周辺のコストに対して目があまり向いていなかった。物流費やリサイクル、廃棄物処理費などです。それが工場で1つの物を作る時に、すべての費用を全体で見ていかなければいけないと意識が変わり始めました。法的にも、CO2の問題を含めて、いろいろな規制がそれを後押ししているのかなと思います。

大沼 その中でAGC株式会社での取り組みはどのように変化されていったのですか。

島村 わが社のメインはガラスの製品です。建築用のガラスは寿命が非常に長いので、リサイクルには向いている。建築材料の廃材ガラスをカレットとして新しいガラスを作る時の原料の一部として使うことは長い間やっています。とはいうもののリサイクル率は7割までいっていないので、それを上げていく取り組みを続けています。

これは建築のガラスだけでなく、例えば自動車のガラス、それからビンも同様です。ヨーロッパは、容器はプラスチックよりもビンのほうが多い。なぜかというと、ある意味ではリサイクルをし続けられるからです。日本の場合、ペットボトルが主流になってしまっている。

ビンのリサイクル率は、今、74パーセントぐらいで、それをより進めています。もちろんリサイクル自体もそうですが、CO2削減の意味からもエネルギーをそれだけ使わなくて済むのでいいわけです。そこがわれわれの取り組んでいる大きなところです。

ガラスは極端な話、いったん嵌めると家やビルが壊れるまではそのまま使われ続けるので長寿命製品であることは間違いない。最近、われわれがやっているのは長寿命化だけではなく例えば特殊な金属コーティングをすることでエネルギーの消費を減らすことです。

家の中の温度と外界の熱の移動は、窓ガラスから8割が出入りする。なので断熱性の高いガラスにすることによって断熱効果が高まり、最終的にCO2削減につながります。ガラスを2枚合わせたペアガラスは今、新築の家では9割を超えるぐらいの普及率になってきました。

過去にシミュレーションした時、1枚のガラスの家の窓ガラスを全国ですべて断熱性の高いエコガラスに交換すると原発2基ぐらいの発電量の節減になる。最近は換算基準が変更になったようで、これを言うと文句を言われるんですが(笑)。

やはりいかにエネルギー消費を減らしていくかというリデュースですよね。プラスチックだけの問題ではなく、環境全体の問題として取り組むことを考えると、例えばガラスを5枚にすると断熱の壁と同じ効果があるようです。強度を持たせるためのフィルムを挟んだりして、三層、四層にすることは、もう実用化が始まっています。

素材型の産業はいかに無駄をなくすかということと、リサイクル、リユースというところで循環型社会に必要な素材を提供していくことが必要なのです。

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