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【特集:循環する経済と社会へ】
座談会:リサイクルを超えた循環型社会を作るには

2022/12/05

予防措置という考え方

大沼 一方でいわゆる専門家や製造に直接関わっている人だけが循環型社会を作っていくわけではなくて、一般消費者、市民、社会が作っていくわけです。島村さん、素材の販売先は企業が多いかと思いますが、相手企業側の資源の循環に対する対応は変わってきているとお感じになられますか。

島村 経済界が利便性とともに環境を意識し始めたのは最近のことであって、昔はとにかく大量に生産して消費することが第一でした。それが今、十分ではないけれど、自動車メーカーさんもバンパーのリユースをするなど、やれることを少しずつやり始めている。これ以上、廃棄物を増やさないという意識はかなり上がってきているのかなと感じます。

1つ気になっているのは、環境問題に対しての考え方はかなりEUが先行していることです。われわれからは突飛に感じても、彼らとしては予防措置的にこういうことをやっていかなければいけないということで先に出してくる。一方、日本の場合は対症療法で何か問題が起きたらそこでやっていくというスタイルです。

これは国民性の違いなのかもしれませんが、環境問題も、「何か起きたらやる」という今までのやり方を変えなければいけない時期にきているのではないか。ヨーロッパは先に予防措置を出し、そこに向かって産業界が技術開発をしていかなければいけないということになっている。最悪の状態から引き算していくという政策の考え方です。

日本も、カーボンニュートラルでは、2050年にはゼロにすると曲がりなりにも言ったわけで、これに向けていろいろ考えなければいけない。今までの日本のやり方だと、「2050年カーボンネットゼロなんか無理」とまず思う。だけどゼロにしなかったら世の中が持たないということから発想して、それまでに何を開発していかなければいけないのか、どういう作り方をしなければいけないかと考えることが、やっと始まったという気がします。

消費者の意識で言えば、ヨーロッパはカーボンニュートラルのベースとして、非常に大規模に家の窓のリフォームを始めるところが多いようです。

また、寒い国は窓経由で熱が出入りしてしまうので、窓を小さくしがちです。ところが窓を小さくするとメンタルヘルス上よくないのです。窓が大きいことによって人間の気持ちというのは和むのだそうです。北欧では、冬に自殺者が多かったのが断熱性の高いガラスで窓を大きくしたことにより、自殺率が減ったというデータもある。

そのように単にエネルギーの効率だけでなく、ヒューマンウェルビーイングの1つのアイテムとして、耐熱性が高い窓ガラスは有効です。

市民の意識は変わったか

大沼 ネオニコチノイドという農薬がミツバチを失踪させるということで世界的に大問題になったことがありましたが、それが完全には特定されていない段階で、EUはネオニコチノイド農薬使用を制限・禁止した。なぜ多くの国、利害関係者が集まっている中で迅速に意思決定できるのか、と思いましたがそのような背景があるのですね。

海洋のプラスチック汚染が社会問題化し、多くの人が知るようになったのは、ストローが鼻に刺さったウミガメの写真の影響も大きかったと思います。高田さんは、市民の方の意識、行動が変わってきていると感じていますか。

高田 プラスチック汚染は生態系全体に広がり、クジラやウミガメ、海鳥から魚や貝など600種以上の海洋生物の体内からプラスチックの検出が報告されています。いろいろな海洋生物の被害によって、市民の関心は高くなってきていると思います。

海の生物の問題だから海岸清掃を行い海をきれいにすることに注力する人もいますし、海洋生物の被害の元がどこにあるのかを考えて、自分たちの生活の中で見直せるところは見直そうと、使い捨てのプラスチックはなるべく使わないようにする方もいます。

ただ海洋生物の問題だけにフォーカスしてしまうと、極論すれば、陸上でしっかり集めて大規模な焼却炉で高温で燃やし、海に出ないようにすればいいでしょう、と考えてしまう人もいると思います。しかし、それだけでは私たちの健康を守ることはできません。実際に人間の血液や脂肪中からもプラスチックと関連化学物質が検出されています。そこまで考えて、プラスチックの使用自体を避ける人も増えてきています。

大沼 一昨年にレジ袋の有料化が始まりましたが、意識が変わったと感じられますか。

高田 定量的には確実に減ったと思います。市民講座等でもレジ袋有料化を話題にする人は多いですし、まず自分ができるところで、マイバッグを持ち歩くようにしています、という方は多い。

他にもたくさんプラスチックの容器や包装があるから他も減らそうという方向に向く方もいれば、他にもあるんだからこれをやってもしょうがないとレジ袋を使い続ける方もいますが、やはり有料化が引き金になって関心を持つ人は増えていると思います。

大沼 資源循環政策というのは、一般の人の生活に密着するものですよね。ある意味、努力を強いるので、市民の意識のあり方も非常に関わってくるものではないかと思います。

山本 レジ袋の話は、それで頑張る人と自分だけやってもしょうがないと思う人がいるのは、その通りだと思います。レジ袋の有料化、あるいは禁止をした結果、ゴミ袋の購入が増えることも起こっています。また、スーパー備え付けの透明の袋の消費がすごく増えているという話もあります。

とはいいつつも、レジ袋有料化から、いよいよ環境のためには消費者の利便性を損ねてもいいことがあるんだ、という空気は醸成されてきたのではないでしょうか。環境経済学では環境にやさしい消費者みたいなことはあまり考えないというスタンスだったのが、今はそうではなくなってきたのではないかと思っています。

CO2削減ではScope3という基準があります。自社の努力によってScope1で減らすのは、日本企業はとても得意です。しかしScope2、Scope3となってくると、お得意さんや消費者の協力なしにはだんだん減らせなくなってくる。そのコーディネートは日本の企業や行政は苦手にしていたのではないかと思いますが、廃棄物版のScope 3 がサーキュラーエコノミーのような気がします。

各会社が長寿命のものを作るだけではなく、消費者側がその後、それをどう使うか。例えばマイボトルにしても、買って10回しか使わなかったらペットボトルのほうがいいわけで、逆に環境負荷が高くなってしまう。作った後、販売した後のその先に、消費者も含めて全体の中できちんと運用されるという前提でないと達成できないことをサーキュラーエコノミーは目指そうとしているのだと思います。

これをどうやるかはすごく難しいけれども非常に重要な問題で、ぜひ環境省には頑張っていただきたいです。

環境行動を変えるもの

大沼 ゴミの調査をされていて、EUの市民と日本の市民との意識の違いは何か感じることはありますか。

山本 平均値で言えば、そんなに変わらないと思います。ただ数字を出すと、消費者の分別の問題ではないのですが、焼却率がとても高く、また日本のリサイクル率は家庭ゴミはとても低い。これもいろいろな理由があると思いますが、そういう意味で環境先進国とは見られていないような圧力は感じます。

大沼 ただ、ヨーロッパの一般家庭はゴミを分別していないですよね。

山本 そうです。日本に比べると家庭ではあまり分別しないで中間処理施設に持っていく場合が多いです。そのほうが消費者が努力しなくていいので集まる資源物が多いんですよ。消費者に分別させると面倒くさいからと全部燃えるゴミにしてしまって、集まってくる資源が少ないという。

一方で、分別意識の高さは日本の中のいろいろな環境行動に結びついていると環境省は思われていると思うのです。

塚原 おっしゃる通りで、3Rもずっと標語のような感じでやってきましたし、レジ袋の件は、2000年代から環境省のモデル事業などで、自治体やスーパーマーケットでの取り組みを応援してきました。全国的な規制に踏み込めたのは、海洋プラの問題が世界的に注目されたことが大きいと思います。一方で、レジ袋はプラゴミの総量の中で2%ぐらいしかないということ で、海洋プラスチック問題の根本的な解決にならないという批判もされました。

しかし、国連のレポートによると、日本人1人当たりのプラスチック製容器包装の廃棄量は米国に次いで世界2位(2014年のデータとされています。使い捨てのいわゆるワンウェイ利用が定着していることが問題なのであり、レジ袋はその象徴のような存在と言えます。

消費者の意識がじわじわ変わってきているのは私も感じています。ワンウェイプラの例を挙げたように、日本のプラスチック対策は遅れているので、プラ新法ももう一歩踏み込むべきだったと言う人もいますが、ひとまずは、いろいろやれるという土台ができ、努力義務から進めていくフレームワークができました。消費者意識の変化によって、いわゆるソフトローのように、皆、何かやらなければいけない、となれば、多くの企業や自治体が取り組むようになるのではと期待しています。

最近、私はソニーのワイヤレスイヤホンを買ったのですが、すべて再生プラスチック製で、しかも白い。これは結構すごいことだと思います。CMや広告ではそういう情報は少なく、基本的には機能性の高さがアピールされていますが、メーカーによると、アンケートや消費者レビューでは、環境配慮が評価されているそうです。

このように、いわゆる意味消費、エシカル消費みたいなものに若者が反応しているという実態があります。これから10年もすれば、消費者の非常に重要なポジションを占めてくる若者世代がそういう消費スタイルを始めているということに大きな変化を感じます。環境省も将来世代の当たり前が変わっていくことを意識しながら、そもそもこうあるべきだという将来ビジョンを持って政策を動かしていくべきだと、あらためて感じています。

もう1点、私はSFCの中で、エネルギーや資源利用の現状評価をして、脱炭素や資源循環のあるべき姿を議論し、具体的に変化を起こしていきたいと思っています。自分でやってみると分かるのですが、エネルギーや資源の話は自分たちだけで完結するものではないので、どうしても地域とのかかわりを考えていかなければならなくなります。

例えば、SFCの建物の屋根のほとんどに太陽光パネルを載せても、賄えるのは需要の2~3割です。足りない分を遠くで発電して運ぶのはロスが大きい。そこで、近くに未利用資源がないかと探してみると、SFCから出る生ゴミや近くの養豚場の家畜排せつ物などのバイオマス資源がある。これを使ってなんとか発電ができないだろうか、などと夢のある話を考えています。狭い日本の中で、資源を自給しながら本当にゼロエミッションを達成しようと思ったら、地域の人たちと情報を共有し、お互いにできることをやっていかないと絶対にできないと思うのです。

環境省職員としても、環境だけを前に出すのではなく、その地域のベネフィット、健康になったり、皆が地域とつながってハッピーだとか、素敵なものを身に着けて嬉しいというようなことも含めて、サステナビリティという言葉を広く捉えて、いろいろな価値を総合的に語っていけるようになりたいと思います。

また、環境省は循環型社会という言葉でずっと政策を打ってきたのですが、最近、名古屋大学の谷川寛樹先生たちが、「ストック型社会」という言葉を掲げて研究をされていて、はっとさせられました。社会にはたくさんのストックが生まれていますが、それをきちんと評価してメンテナンスをして長く使う。どこに何があるかを見える化する。経済成長期にいろいろなストックをため込んできた日本は、これからの資源枯渇の中でその活用を考えるべきでは、と提案されています。

循環型社会は政策を牽引してきた言葉ですが、一人一人が今あるストックに目を向けるという考え方の転換も重要だと思います。

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