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【特集:認知症と社会】
満倉靖恵:脳波計測から認知症リスクを発見する

2022/11/07

どんな状況でも脳波を簡単に計測

私たちは脳波データをリアルタイムにノイズ除去するアルゴリズムの特許を取得しました。これらを使えば、どんな状況でも脳波を簡単に計測することが可能になったのです。一昔前は、脳波を計測するといえばシールドルームと言われるノイズが入らないようにした特殊な部屋に入って、安静にして計測していたのですが、今では平常状態で取得できるようになったため、自然な状態で脳波が測れるようになり、より状況にあった正確な脳波が取得できるようになりました(わざわざシールドルームに入って脳波を取るなんて普通じゃないですよね!)。

また、一昔前の脳波計は多電極で、例えば64チャンネルもの電極を脳に取り付けて様々な情報を取っていました。もちろん、今も場合によっては多くの電極を頭につけますが、この状態でストレスを感じないように、と言われても難しいですよね。締め付けられ感で一杯なのと、脳波計装着までにすでに一時間近くかかってしまうので、ストレスフルな状態かもしれません。私たちは目的によって電極を取り付ける場所を選んでいます。しかも欲を言えば少ない電極で済むように。このように目的に合わせて電極の数を減らすことで、負担を軽減しています。図2はこのようにして電極の数を減らし、ノイズ除去をリアルタイムで行うことができるようになった脳波計測システムです。

図2 実験で用いた簡易型脳波計  ノイズをリアルタイムで除去し、スマートデバイスに 脳波を送るシステム

この脳波計から得られた情報を元に、先に紹介した認知症・MCI・健常者の脳波の帯域の特徴を使えば、誰でも脳波を取得するだけで、健康な状態なのか、あるいは認知症やMCIの状態であるのかを判定することができます。 使用した脳波計も負担なく、頭に巻くタイプで、取り付けに約15秒、計測開始までにキャリブレーションとして15秒、トータル30秒程で計測が可能です。頭が動いてしまっても瞬時にノイズを除去し、安定して計測ができるので、どこでも簡単に計測を可能にしました。

これらを日常的に使うことで、家にいたまま病院にいくことなく、簡単にMCIや認知症の可能性を計測できるようになると期待されます。これまでは、病院に行ってMRIやPETの検査を行い、検査結果を聞きに行って……と頑張って時間を作ってお出かけをしていました。しかし、そういうことなく簡単なデバイスで健常者・MCI・認知症患者の可能性を知ることができるようになるのです。MCIの段階で発見ができていれば、進行を遅らせることも可能です。

医工薬連携で認知症に立ち向かう

何よりも自分の状態に気づくことが必要です。これまではそれを病院でしか行うことができませんでしたが、簡単な計測で判定が可能ですので、家などで自分の状態を知ることができるのです。将来的にはヘアバンドタイプの脳波計すら必要なく、例えば指輪センサやリストバンドタイプのセンサでその判定が可能になると考えています。もうすぐやってくる2025年、5人に1人が認知症なんて言わせません。早めの発見によりその進行を緩めることができるのです。現在は創薬の開発も日進月歩になっています。昨日までなかった認知症を〝治す薬〟が明日になったらできている可能性だってあるのです。だからこそ、 たとえMCIが見つかったとしても、その進行を遅らせる。そうすれば認知症を治す薬が出てきます。

私達の取り組みは認知症だけではありません。うつ病などの精神疾患、睡眠の状態を簡単に計測できる装置なども開発しています。いつでもどこでも簡単に、家にいても状態を把握できるシステムを構築しています。慶應義塾大学の最大の特徴である総合大学の力を使って、私達は医工薬連携で認知症に立ち向かっていく覚悟ができています。認知症が治る病気になるまで。そして明るい2040年を迎えられるように。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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