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【特集:認知症と社会】
満倉靖恵:脳波計測から認知症リスクを発見する

2022/11/07

  • 満倉 靖恵 (みつくら やすえ)

    慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授

認知症の早期発見はなぜ重要か

2040年の日本の高齢者人口は約4千万人に達する見込みとされ、日本は世界に類を見ない超高齢社会を迎えます。近い将来の話をすると認知症の人口は2025年には約700万人、なんと65歳以上の5人に1人に達すると言われています。あと3年でこんな時代が来るんです。認知症の大半はアルツハイマー型認知症で、脳細胞が減少して脳が萎縮することで引き起こされます。物忘れなどから始まり、進行はゆっくりと徐々に悪化する場合が多いとされています。アルツハイマー病治療薬は症状を改善する効果はあるものの、根本的に治す効果はないため、薬によって記憶力などの認知機能が改善しても病気は徐々に進行します。つまり、アルツハイマー病の治療には初期段階での早期発見が重要となります。

そんな中、政府が出す認知症施策推進総合戦略(通称新オレンジプラン)では、①認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進、②認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供の他、7つの柱が定められています。この中で、若年性認知症施策の強化が述べられており、早期に発見をして〝認知症になるのを遅らせる〟並びに〝認知症になっても進行を緩やかにさせる〟ことが述べられています。そんな中で、私たちもこの取り組みに共感し、軽度認知障害(MCI)を簡単に計測できる仕組みを開発しました。私たちのグループが明らかにしたのは以下の2つの点です。

・ 認知症・軽度認知障害(MCI)の方の脳波を計測し、健常者に比べてそれぞれに特徴があることを示唆

・しかも簡易な脳波計測で可能

つまり、簡易な脳波計測だけで健常者・MCI・認知症患者を特定することが可能になるんです!

脳波の周波数の特徴を明らかにする

私たちは、簡易にいつでもどこでも計測できる脳波計を使って、120名の被験者を対象に、健常・MCI・認知症の3グループに分けて脳波を計測し、計測したそれぞれのグループで脳波の周波数の特徴を明らかにすることができました(図1)。

図1( a)脳波を周波数の帯域に分けたとき、健常者、MCI、認知症患者の各周波数帯域におけるパ ワーの違い、(b)と(c)は特に特徴のある周波数帯域に絞ってその違いを明らかにした図

そもそも脳波について皆さんがよく耳にされるのは〝アルファ波が高い=集中している〟や、〝シータ波が高い=眠そう〟、さらには〝○○の曲を聴くとアルファ波が出る〟などではないでしょうか。ここに出てくる〝アルファ〟や〝シータ〟というのは脳の先の脳波計から得られる信号を周波数に変換したときに出てくる帯域の名前です。

通常私たちの脳波は頭皮上で得られる信号としてマイクロボルトの単なる波になっています。この波を周波数に変換すると私たち人間の脳波は大体45ヘルツくらいまでの値に収まっています。この中で、4ヘルツまでをデルタ波、4-6ヘルツまでをシータ波、7から13ヘルツまでをアルファ波、14から23ヘルツあたりをベータ波、それ以上をガンマ波と呼んでいます(研究者によっては周波数帯の定義がずれている場合もあります)。

このアルファ波とかベータ波のことを帯域と呼んでいます。当然ながら、脳波は取得する際にかなり多くのノイズを含みます(60%以上がノイズになる時もあります)。このノイズをリアルタイムに除去した上で、この帯域を計算しないといけません。ノイズ除去さえやっておけば、どんなデバイスを使っても脳波は綺麗に取れます。ただし、ノイズを正確に取っていない場合には当然ながら全く違うデータになってしまいます。

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