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【特集:日韓関係の展望】
黄仙惠:なぜ韓流文化は世界を席巻したのか?

2022/05/09

韓流を読み解くⅡ 文化政策──文化支出額とコンテンツ産業の育成

韓国コンテンツの発展は、過去20年にわたり、政権が変わっても“支援はするが、干渉はしない”という一貫した文化政策に支えられてきた側面がある。

日本の文化庁が毎年発表する「諸外国の政策等に関する比較調査研究」は、5つの国の文化支出額、政府予算に占める割合、国民1人あたりの支出額などを示している(図)。政府予算に占める文化支出額は、韓国は1.24%で最も高い。国民1人あたりの支出額もフランスに次いで多い。2010年を100%として政府予算の割合の推移をみると、2020年韓国は156%増加、特に「コンテンツ産業の育成」と「芸術の振興と生活化、産業化」という費目の予算額が大きく増えた。

図 文化庁「諸外国の政策等に関する比較調査研究」(令和2年度)

なぜ韓国は文化支出を増やすことができたのか、その根幹にあるのは20年間にわたって広がりを続ける「韓流」である。特にコンテンツの海外展開によって市場拡大とともに国家イメージや観光、飲食、語学、消費財など、関連産業の成長へ可能性を十分に経験したことである。

無形の文化を商品として産業化することを全面に打ち出したのが、今から約25年前、第15代大統領の金大中(キムデジュン)氏である。1998年2月、大統領就任演説で〝文化は、文化産業を起こし膨大な高付加価値を創出する21世紀の重要な基幹産業〟と宣言した。未来の基幹産業としての文化は、他の産業と同じように収益構造を生み出すためにグローバル化を進め、高い文化的価値を継承発展することを強調した。一方、国の役割は、〝支援はするが、干渉はしない〟ことを強く示した。文化政策に関して統制の政策から振興の政策への転換を強調する一方、創作活動に対する諸規制の撤廃と緩和を始めた。文化産業振興基本法改正(2001年)、オンラインデジタルコンテンツ産業振興法制定(2003年)など、経済原則に基づく文化産業政策の振興を軸とした予算の量的投入により成長の変化をもたらした。

次の第16代大統領に就任した盧武鉉(ノムヒョン)氏は、社会的弱者に対する支援と地域発展を文化政策の中心とした、世界五大文化産業強国を目指し、人材育成、文化技術(CultureTechnology)、コンテンツ創作基盤強化のための製作支援センターの設立に注力した。またアジア文化産業ネットワークの構築と海外マーケティングの強化などを推進した。金大中氏が法整備に注力したオンラインデジタルコンテンツ産業を、より詳細に発展させる基本計画を第1次、第2次と制定し、韓国のデジタルコンテンツ産業を21世紀の核心的産業へ育成することを表明した。

第17代大統領の李明博(イミョンパク)氏は、公共政策の効率的な運営を基調とし、デジタルコンテンツの業務を情報通信部(現科学技術情報通信部)から文化体育観光部へ移管、同部の機能を拡張した。文化を国民の生活と直結した概念とし、社会的発展に加えて国家発展の目標として文化ビジョン(2008年)を提案した。

第18代大統領の朴槿恵(パククネ)氏は国家ビジョンとして文化隆盛を掲げ、文化基本法・地域文化振興法等の法律制定を積極的に推進した。地域文化を活性化するための、地域発展5カ年計画(2012年)、地域文化振興基本計画(2015年)が代表的文化政策である。

第19代大統領文在寅(ムンジェイン)氏は2018年、コンテンツ産業における競争力を強化するための核心戦略を発表した。コンテンツ競争力、雇用、公定環境、この3つをキーワードとし、公正な産業基盤、良質なコンテンツ生産と需要の創出を基本方針として定め、推進した。翌年発表した、コンテンツ産業3大革新戦略と10大事業では、政策金融の拡充による革新的文化企業のサポート、実感コンテンツの育成による将来的な成長動力の確保、新韓流に関連する産業の成長牽引などの戦略を示した。

2022年5月、第20代大統領として尹錫悦(ユンソクヨル)氏が就任し、新たな文化政策が提示される。前記のように、韓国の文化政策は大統領が変わっても重要な国家政策として認識してきた。創造力を最も発揮する機会や場を提供し、優秀な人材が育成できる基盤整備は維持していくべきである。

韓流を読み解くⅢ グローバル文化──世界を呼び起こす、K-Culture

韓国コンテンツは、「共感」を呼び起こす作品とファンダムの形成により、韓国へのイメージ形成にも大きな影響を与え、K-Cultureというグローバル文化を生み出した。

2020年8月、K-POPグループBTSの新曲、「Dynamite」が発売され、Billboard Hot 100 で2週連続1位を飾るなど、世界的ヒットとなった。その1カ月後、Epic Games が運営す人気オンラインゲーム『フォートナイト』で、BTSの「Dynamite」のChoreography バージョン(振り付けバージョン)が世界初公開され、話題になった。2021年9月にはコールドプレイ(Coldplay)と初めてコラボした新曲「My Universe」においてホログラムで共演したことが注目を集めた。

K-POPがグローバル展開に成功した4つの要素について述べたい。1.ルックス、2.ステージパフォーマンス、3.ミュージックビデオ、4.グローバルトレンドを反映した音楽である。音楽関係者によると、K-POPは言語の壁を乗り越えて視聴感覚に訴えかけるダンスと、アーティストや歌の世界観を伝えるミュージックビデオが、世界のファンに共感を呼び起こしたという。そのため、グローバルトレンドを取り込みながら独自の楽曲を開発し、国際的感性をも共有している。BTSがゲームや他国のアーティストとの協業を行うのもその理由である。

K-POPの挑戦はそこにとどまらず、ファンコミュニティプラットフォームのグローバル展開を行っている。新曲発売、ライブ、グッズ、オリジナルコンテンツ、コミュニティーなど、全てワンストップで情報とシステムを提供するプラットフォーム展開が活発である。BTSの所属会社HYBEとポータルサイトNAVERが共同で立ち上げた「WEVERSE」、リネージュ、ブレイブ・ソードなど、世界の人気ゲームを手掛けたNCソフトの「UNIVERSE」、いち早くK-POPを全世界に伝えたSMエンターテインメントの「BUBBLE」などがある。

韓国文化体育観光部と韓国国際文化交流振興院が調査した「2021海外韓流実態調査」によると、韓国のイメージ形成に一番多く影響を与えているのが、K-POPで16.8%を占める。次は韓食が12.0%、IT産業6.9%、韓流スター6.6%、ドラマ6.4%の順である*3。韓国コンテンツの体験者は、国により多少の差があるものの、自ら接したコンテンツによって韓国のイメージ形成に大きく影響を受ける。韓国コンテンツがもたらす経験が、韓国をイメージする大事なきっかけとなっている。共感を分かち合い、仲間たちと共有し、世界の人々に伝え続けることがグローバル文化としてK-Cultureが注目を浴びている要因といえる。

終わりに 共感を分かち合い、共に歩く

1998年10月8日、小渕恵三首相と金大中大統領が「日韓共同宣言──21世紀に向けた新たなパートナーシップ」を発表した。共同宣言は政治、経済、文化など、広範囲の交流拡大を盛り込んだ43項目の行動計画が作られ、両国が実践するための相互協力と文化交流を果たすことを誓ったのだ。それから24年が経った今、韓国ドラマと日本のアニメーションを見て共に笑い、共に泣き、K-POPとゲームを通じて共に応援し、お互いのポップカルチャーが好きと言い合う姿が、両国が誓った共同宣言の成果である。

コンテンツをきっかけに普遍的な価値観を共有し、発信することが、今後の日本、韓国をはじめ、アジア全体で新たな関係を結ぶことにつながると信じたい。そのために、まず、日本と韓国が率先して「協業」、「分業」、「共創」、そして一緒に多角面での「活用」を行う。そのような文化実践が今こそ重要な時期である。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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